米連邦控訴裁判所は3月13日、暗号資産(仮想通貨)銀行Custodia Bank(カストディア・バンク)による米連邦準備制度理事会(FRB)への上訴を棄却した。マスターアカウント(中央銀行預金口座)の付与を巡る数年にわたる法廷闘争は、FRB側の勝利で幕を閉じる形となった。
一方で、FRBは大手取引所Kraken(クラーケン)に対し、限定的な機能を備えた口座の開設を認めるなど、暗号資産企業への門戸を一部開放し始めている。ビットコイン(BTC)価格は同日、一時70,712ドル(約1,060万円)台で推移しており、規制環境の変化を注視する市場の動きが鮮明となっている。
本決定は、暗号資産企業が米国の伝統的な金融インフラへ直接アクセスする権利を否定するものであるが、同時にFRBが主導する「新たなアクセス基準」の策定を加速させる要因にもなっている。
Custodia Bankの敗訴とFRBの裁量権

米第10巡回区連邦控訴裁判所は、Custodia Bankが求めていた再審理の請求を7対3の採決で退けた。この判決は、FRBが各銀行に対してマスターアカウントを付与するかどうかの最終的な決定権を持つことを追認したものである。
BTCは発表直後、前日比0.86%高の70,712ドル付近で取引されており、法廷闘争の決着そのものによる市場の動揺は限定的であった。
マスターアカウントを巡る長期の争い
マスターアカウントとは、中央銀行であるFRBに直接開設される口座のことだ。この口座を持つことで、銀行は民間銀行を介さずにFRBの決済システムを直接利用できるようになる。いわば、金融界における「高速道路の直通ゲート」のような権利である。
ワイオミング州の特別目的預託機関(SPDI)として認可を受けたCustodia Bankは、2020年からこの口座を申請していた。しかし、FRBは同行のビジネスモデルがリスクを伴うとして申請を却下し、それ以降、法廷での争いが続いていた。
少数意見が示す「規制の不透明性」
今回の判決では、3名の裁判官が反対意見を投じている。ティモシー・ティムコビッチ判事は、連邦準備銀行がマスターアカウントに対して「審査不能な裁量権」を持つことは、法律および憲法の観点から問題があると指摘した。
この指摘は、州法に基づいて認可された銀行と連邦規制当局とのパワーバランスが崩れていることを示唆している。つまり、州が認めた正当な銀行であっても、連邦当局の主観的な判断一つで排除されるリスクが残っているということだ。
Krakenへの承認が示す「限定的アクセス」への転換

Custodia Bankが法廷で敗れる一方で、別の暗号資産大手であるKrakenは、実質的な進展を勝ち取っている。カンザスシティ連邦準備銀行が、Krakenに対して限定的なマスターアカウントの付与を決定したためだ。
これは、暗号資産関連企業として米国史上初めての事例となる。FRBは、全面的な拒絶から「条件付きの受け入れ」へと戦略をシフトさせつつある。
「スキニー」マスターアカウントの登場
Krakenに与えられた口座は、通常のマスターアカウントよりも機能が制限された「スキニー(痩せた)」アカウントと呼ばれるものだ。フル機能ではないものの、FRBの決済網へのアクセスが可能になり、中継銀行への依存度を大幅に下げることができる。
中継銀行とは、自社で決済網を持たない企業が送金を行う際に仲介する銀行を指す。この依存を解消することで、コスト削減だけでなく、以前発生した「オペレーション・チョークポイント2.0(暗号資産企業への銀行サービス停止)」のようなリスクを回避できる。
全米規模のポリシー策定へ
FRB本部は現在、こうした限定的口座に関する全米共通のガイドラインを策定中である。これまでは各地域の連邦準備銀行が個別に判断していたが、中央が統一ルールを作ることで、暗号資産企業の予測可能性が高まることが期待されている。
ただし、このプロセスは初期段階にあり、実際に他の企業が申請・承認を受けるまでには時間がかかるとの見方が強い。
独自分析:米金融規制の「二重構造」と暗号資産の未来

今回のCustodia Bankの敗訴とKrakenの承認は、一見矛盾しているように見えるが、現在の米国の規制ロジックを如実に表している。規制当局は「権利」としてのアクセスは否定しつつ、「恩恵」としてのアクセスを管理下に置こうとしている。
権利ではなく管理下の許可制へ
Custodiaの主張は「州の認可があれば、FRBは口座を貸す義務がある」という権利の主張だった。これに対し、裁判所はFRBの裁量を認めることで、アクセス権を「特権」として据え置いた。
一方、Krakenの事例は、FRBが自ら定めた基準(限定的口座)に従うのであれば、特定の企業に許可を与えるという「管理型の統合」を示している。これは、暗号資産を金融システムの外に置くのではなく、当局の監視が届く範囲に取り込もうとする意図の現れだ。
機関投資家の参入障壁の緩和
暗号資産企業がFRBの口座を持つことは、機関投資家にとっての信頼性に直結する。自社で直接決済ができる企業は、カウンターパーティリスク(取引相手の破綻リスク)が低いためだ。
今後、ビットコインETFなどの金融商品が普及する中で、裏側の決済を担う企業がFRBと直接つながることは、市場全体の安定性を高める要因となる。
今後の注目点と市場への影響

Custodia Bankの敗北により、既存の法解釈でFRBを強制的に動かす道はほぼ閉ざされた。今後は、法廷闘争ではなく、FRBが策定する新しいポリシーに適合できるかどうかが、企業の成否を分けることになる。
地域銀行ごとの対応の差
米国の連邦準備制度は12の地域銀行から構成されている。Krakenに門戸を開いたカンザスシティ連邦準備銀行のように柔軟な姿勢を見せる地域もあれば、依然として保守的な地域もある。
暗号資産企業がどの州に拠点を置き、どの地域準備銀行の管轄下に入るかという「規制上の立地戦略」が、これまで以上に重要になるだろう。
政治情勢の変化による影響
現在、米議会ではステーブルコイン法案や暗号資産の包括的な規制法案(FIT21など)が議論されている。政治的な圧力が高まれば、FRBも限定的口座の承認を加速させる可能性がある。
特にトランプ政権下での規制緩和の動きや、暗号資産に友好的な議員の増加は、FRBの硬直的な姿勢を軟化させる変数となり得る。
この記事のポイント
- 米控訴裁はCustodia Bankの訴えを棄却し、FRBのマスターアカウント付与に関する強い裁量権を認めた。
- 一方でKrakenは限定的なマスターアカウントの承認を受けており、暗号資産企業の銀行アクセスに道筋がついた。
- FRBは現在、全米共通の「限定的口座」に関するポリシーを策定中であり、今後の業界基準となる見通しだ。
- 暗号資産企業は、法廷での権利主張から、当局の定める新基準への適合へと戦略の転換を迫られている。
出典
- CoinDesk「Court closes Custodia fight with Federal Reserve just as Fed opens master-account door」(2026年3月13日)
- U.S. Court of Appeals for the 10th Circuit「Custodia Bank, Inc. v. Federal Reserve Board of Governors」(2026年3月13日)
- The Wall Street Journal「Kraken becomes first crypto company to secure Fed master account access」(2026年3月4日)

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