AmundiがEthereum・Stellarで1億ドルのトークン化ファンド設立——欧州最大手のRWA戦略

欧州最大の資産運用会社である仏アムンディ(Amundi)が、ブロックチェーン技術を活用した新たな金融商品の展開を加速させている。同社は、トークン化プラットフォームのSpikoと提携し、EthereumおよびStellarネットワーク上で1億ドル規模のトークン化ファンドをローンチした。

この新ファンド「Spiko Amundi Overnight Swap Fund(SAFO)」は、機関投資家や企業の資金管理ニーズに応えることを目的としている。伝統的な金融資産をブロックチェーン上で発行する「RWA(現実資産トークン化)」の動きは、運用資産残高(AUM)約2.3兆ドルを誇る巨大資産運用会社の参入により、新たな局面を迎えた。

本記事では、SAFOの具体的な仕組みや採用された技術、そして急拡大を続けるRWA市場におけるアムンディの戦略的意義について解説する。

Amundiによるトークン化ファンド「SAFO」の概要

Amundiによるトークン化ファンド「SAFO」の概要

アムンディが発表した「SAFO」は、フランス法に基づき規制される投資法人「SICAV(シカブ)」のサブファンドとして構造化されている。SICAVとは、投資家の出資額に応じて発行済株式数が変動する「可変資本投資会社」を指し、欧州の投資信託で一般的に用いられる形態だ。

このファンドは、大手銀行との完全担保付きトータル・リターン・スワップを活用し、翌日物(オーバーナイト)の流動性を維持するように設計されている。購読および償還は、ユーロ(EUR)、米ドル(USD)、英ポンド(GBP)、スイスフラン(CHF)の4通貨に対応しており、幅広い地域の機関投資家をターゲットとしている。

SAFOの基盤技術として、Ethereum(イーサリアム)とStellar(ステラ)の2つのパブリックチェーンが採用された。Ethereumは2,121ドル前後で推移しており、スマートコントラクトの実行環境として圧倒的なシェアを持つ。一方、Stellarは決済特化型のチェーンとして、高速かつ低コストな取引を実現する。これら2つのチェーンを併用することで、高いセキュリティと決済効率の両立を図っている。

1億ドルの運用資産とChainlinkの役割

SAFOは、ローンチ時点で1億ドルのコミット済み運用資産(AUM)を確保している。これは、実験的なプロジェクトではなく、実需に基づいた本格的な金融商品であることを示している。アムンディにとって、ブロックチェーン上でのファンド発行は今回が初めてではない。2025年11月には、CACEIS(カセイス)と協力してEthereum上でマネー・マーケット・ファンド(MMF)のトークン化シェアクラスを発行しており、今回のSAFOはその戦略をさらに拡大させたものだ。

本プロジェクトにおいて、重要な役割を担っているのがChainlink(チェーンリンク)だ。Chainlinkは、ファンドの純資産価値(NAV)をオンタイムで各ブロックチェーン上に記録するためのインフラを提供している。NAV(Net Asset Value)とは、投資信託の資産総額から負債を差し引いた「基準価額」のことだ。Chainlinkのオラクル技術により、オフチェーンの金融データが改ざん不可能な形でオンチェーンに反映され、投資家は24時間365日、リアルタイムで資産の透明性を確認できる。

エコシステムを支えるパートナー企業

SAFOの運営には、複数の金融・技術パートナーが関与している。アムンディは委託投資マネージャーとして運用を担当し、フランスの金融大手クレディ・アグリコルとサンタンデールの合弁会社であるCACEISが、保管銀行(カストディアン)およびファンド管理者を務める。

また、Spikoは名簿管理人(トランスファー・エージェント)、トークン化プラットフォーム、およびブローカーとしての機能を担う。このように、伝統的な金融機関とWeb3スタートアップが連携することで、既存の規制枠組みに適合しながら、ブロックチェーンの利点を最大限に引き出す体制が整えられている。

機関投資家のニーズに応えるトークン化のメリット

機関投資家のニーズに応えるトークン化のメリット

アムンディがトークン化ソリューションに注力する背景には、従来の金融システムが抱える非効率性の解消がある。機関投資家、特に企業の財務部門や金融機関にとって、資金の効率的な運用と即時の流動性確保は極めて重要な課題だ。

トークン化されたファンドは、プログラム可能な資産として機能するため、APIやスマートコントラクトを介した自動的なアクセスが可能になる。これにより、人間の介入を最小限に抑えた高度なキャッシュマネジメントが実現する。

24時間365日の即時決済と透明性

従来の投資信託では、購読や償還の決済に数日(T+2など)を要することが一般的だった。しかし、SAFOのようなトークン化ファンドは「ほぼ即時」の決済を可能にする。これは、ブロックチェーンが共有された信頼できる台帳として機能し、照合プロセスを簡略化するためだ。

また、ブロックチェーン上では株主名簿がリアルタイムで更新されるため、透明性が飛躍的に向上する。アムンディの機関投資家・法人クライアント部門責任者であるジャン=ジャック・バルベリス氏は、この取り組みがプロ投資家に迅速かつ透明な資金管理ソリューションを提供するものであると述べている。

ボーダレスな譲渡性と柔軟なカストディ

SAFOのファンド持分は、トークンとして24時間365日、国境を越えて転送することが可能だ。これにより、担保としての活用価値も高まる。例えば、ある金融機関が保有するファンドのトークンを、別の取引の担保として即座に移動させるといった運用が考えられる。

さらに、投資家は自身のニーズに合わせて、自己管理型のウォレットや、CACEISのような規制されたカストディアンによる管理など、柔軟な保管オプションを選択できる。こうした「プログラム可能な金融」の特性が、伝統的な資産運用の姿を変えつつある。

急拡大するRWA(現実資産トークン化)市場の現状

急拡大するRWA(現実資産トークン化)市場の現状

現実世界の資産をブロックチェーン上でトークン化するRWA市場は、現在、暗号資産セクターの中で最も成長が著しい分野の一つだ。The Blockのデータによれば、トークン化されたRWAの時価総額は、2025年初頭の152億ドルから、2026年3月19日時点で約520億ドルへと急増している。

この成長の背景には、金利上昇局面において、オンチェーンの流動性を米国債やMMFなどの利回り商品に向けたいという投資家需要がある。また、金融機関側も、運用コストの削減と新規顧客層の開拓を目指してトークン化に舵を切っている。

Ethereumが牽引するパブリックチェーンの台頭

RWA市場において、Ethereumは中心的な役割を果たしている。現在、Ethereum上でのトークン化RWAの時価総額は178.5億ドルに達し、セグメントをリードしている。かつて金融機関はセキュリティやプライバシーの懸念からプライベートチェーンを好む傾向があったが、現在はEthereumのようなパブリックチェーンの相互運用性とエコシステムの広さが評価されている。

アムンディがEthereumとStellarという2つのパブリックチェーンを選択したことも、この潮流を裏付けている。特定のベンダーに依存しない開かれたインフラを採用することで、将来的な流動性の拡大や他プロジェクトとの連携が容易になるからだ。

競合するチェーンとプレイヤー

Ethereumに次いで、Provenanceブロックチェーンが158.4億ドルの市場シェアを誇っている。これは、米国の非銀行系住宅担保ローン大手Figure Technologiesによる発行が大きく寄与している。Figure社は2025年9月にナスダック上場を果たしており、ブロックチェーンを活用した融資とトークン化の成功事例となっている。

その他にも、BNB ChainやSolanaなどもRWAの受け皿として台頭しており、マルチチェーン展開は今後のトークン化プロジェクトにおける標準的な戦略となりつつある。アムンディの参入は、BlackRockの「BUIDL」やFranklin Templetonの「FOBXX」といった先行事例に続くものであり、運用会社間の競争はさらに激化するだろう。

独自の分析:Amundiの戦略と今後の展望

独自の分析:Amundiの戦略と今後の展望

アムンディによる今回のローンチは、単なる技術的な試行を超え、伝統的金融(TradFi)がパブリックブロックチェーンを「不可逆的なインフラ」として受け入れ始めたことを象徴している。筆者は、この動きが金融業界に与える影響は以下の3点に集約されると分析する。

金融インフラの「中抜き」によるコスト構造の変革

第一に、トークン化は中間業者の役割を再定義する。従来のファンド運営では、複数の仲介者が名簿管理や照合業務を行っていたが、これらがスマートコントラクトに置き換わることで、運用コストの大幅な削減が可能になる。アムンディのような巨大運用会社にとって、数ベーシスポイントのコスト削減は、運用パフォーマンスの向上と競争力の強化に直結する。つまり、トークン化は「付加価値」ではなく、生き残りのための「必須インフラ」へと進化しているのだ。

相互運用性がもたらす「流動性の民主化」

第二に、パブリックチェーンの採用は、流動性の断片化を防ぐ鍵となる。アムンディがStellarとEthereumを併用したように、将来的に異なるチェーン間での資産移動が自由になれば、投資家は特定のプラットフォームに縛られることなく、最適な環境で資産を運用できる。これは、これまで大口投資家に限定されていた高度な金融商品が、将来的に小口投資家にも開放される「流動性の民主化」への布石といえる。

規制への適合とイノベーションのバランス

第三に、アムンディがフランス法に基づくSICAV形式を採用した点は重要だ。これは、ブロックチェーンという革新的技術を、既存の法的枠組みの中に注意深く組み込んだことを意味する。規制当局との対話を重視しながら実績を積み上げるアプローチは、他の保守的な資産運用会社がパブリックチェーンを採用する際の強力なモデルケースとなるだろう。アムンディの成功は、RWAが「キャズム(普及の溝)」を越え、メインストリームへと進むための強力な推進力となるに違いない。

この記事のポイント

  • アムンディの参入:欧州最大の資産運用会社(AUM 2.3兆ドル)が、1億ドルのトークン化ファンド「SAFO」をローンチした。
  • マルチチェーン戦略:EthereumとStellarの2つのパブリックチェーンを採用し、決済効率とセキュリティの両立を図っている。
  • Chainlinkの活用:基準価額(NAV)のオンチェーン記録にChainlinkのインフラを使用し、24時間365日の透明性を実現した。
  • RWA市場の急成長:現実資産のトークン化市場は約520億ドル規模に達しており、伝統的金融機関のパブリックチェーン採用が加速している。
  • 運用の効率化:即時決済や24時間の譲渡性により、機関投資家のキャッシュマネジメントにおける利便性が飛躍的に向上する。

出典

  • The Block「Europe’s largest asset manager Amundi debuts $100 million tokenized fund on Ethereum, Stellar」(2026年3月19日)
  • Amundi Official Statement「Spiko and Amundi introduce SAFO」(2026年3月19日)
  • The Block Data「Real-World Assets (RWA) Market Cap by Blockchain」(2026年3月19日)
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