米連邦議会で、暗号資産の税制を根本から見直す動きが再び加速している。民主党のスティーブン・ホースフォード議員と共和党のマックス・ミラー議員は、デジタル資産の課税ルールを近代化するための「PARITY Act」を再提出した。
この法案は、ステーブルコインを使った少額決済の非課税化や、株式投資では一般的な「ウォッシュセール・ルール」の適用など、投資家にとって極めて影響の大きい内容を含んでいる。複雑すぎる現在の税制が、暗号資産の実用性を妨げているという業界の懸念に応える形だ。
米国で進むこの議論は、将来的に日本を含む各国の税制改正にも影響を与える可能性がある。暗号資産が「投資対象」から「決済手段」へと進化するための重要なステップとして、その詳細を紐解いていく必要がある。
米連邦議会で動き出した「PARITY Act」の全容

2026年3月下旬、米連邦議会に「デジタル資産保護・説明責任・規制・革新・課税・利回り法(Digital Asset PARITY Act)」が再び提出された。この法案は、米内国歳入庁(IRS)による暗号資産への課税アプローチを現代的なものにアップデートすることを目的にしている。
超党派の議員が推進する税制の近代化
今回の法案を主導しているのは、民主党のホースフォード議員と共和党のミラー議員だ。米国の政治において、暗号資産関連の法案が超党派で支持されることは、その法案が現実味を帯びていることを示唆している。両議員は、2025年12月に最初の草案を公開し、業界からのフィードバックを受けて内容を精査してきた経緯がある。
暗号資産の保有者にとって、日々の取引をすべて記録し、損益を計算して報告する作業は極めて煩雑だ。PARITY Actは、こうした事務的な負担を軽減し、デジタル資産をより使いやすいものに変えることを目指している。米連邦議会では今後数ヶ月のうちに包括的な税制改革の議論が行われる予定であり、この法案がその一部として組み込まれるかどうかが焦点となっている。
なぜ今、税制改正が必要なのか
現在の米国の税法では、暗号資産は「資産(プロパティ)」として扱われている。そのため、たとえ少額の買い物であっても、暗号資産を支払いに使った時点で「資産の売却」とみなされ、取得価格との差額に対してキャピタルゲイン税が発生する。これが、暗号資産が日常的な決済手段として普及しない最大の障壁となってきた。
暗号資産市場が成熟し、ステーブルコインの利用が拡大する中で、既存の古い税制の枠組みでは対応しきれなくなっている。投資家や企業からは、より明確で簡素なルール作りが長年求められてきた。PARITY Actは、こうした市場の実態とルールの乖離を埋めるための試みだと言える。
ステーブルコイン決済を「日常」に変える免税条項

PARITY Actのなかで最も注目されているのが、少額決済における免税措置(de minimis exemptions)だ。これは、一定金額以下の取引であれば、税務署への報告や納税を免除するという仕組みである。
200ドルの基準から「99パーセントルール」への転換
2025年12月時点の草案では、規制されたステーブルコインによる200ドル以下の支払いについて、一律で非課税とする案が示されていた。しかし、2026年3月に再提出された最新のテキストでは、より洗練されたアプローチが採用されている。具体的には「ステーブルコインの取得価格が、その償還価値の99パーセント以上である場合、売却による損益を認識しない」という内容だ。
これは、1ドルで発行されたステーブルコインを0.99ドル以上で取得していれば、それを使って買い物をしても税金はかからないということを意味する。かつての「200ドル」という固定の金額制限を撤廃し、ステーブルコインの価格安定性に着目したルールに変更された点が大きな特徴だ。この変更により、高額な商品であってもステーブルコインで支払う際の税務処理が劇的に簡素化される可能性がある。
ビットコイン決済への波及効果は
一方で、この免税措置は現時点ではビットコインのようなボラティリティ(価格変動)の大きい資産には直接適用されない見通しだ。CoinDeskの記者によれば、法案の注釈には、ステーブルコインを対象としたのは既存の他法案との整合性をとるためであると記されている。ビットコインによる少額決済の非課税化を求める声も根強いが、まずは価格が安定しているステーブルコインから制度を整える方針のようだ。
しかし、ステーブルコインでの決済が非課税として認められれば、それが呼び水となって暗号資産決済全体のインフラ整備が進むことが期待される。将来的には、ビットコインなどの他の暗号資産についても、一定額以下の決済を免税とする議論につながる可能性は十分にある。
投資家が注意すべき「ウォッシュセール・ルール」の導入

免税措置が投資家にとっての「アメ」だとすれば、ウォッシュセール・ルールの適用は「ムチ」に近い側面を持つ。このルールが導入されると、これまでの暗号資産投資で行われてきた一般的な節税手法が使えなくなる。
損出しによる節税スキームの制限
ウォッシュセールとは、損失を確定させて税金を減らすために、資産を売却した直後に同じ(または実質的に同一の)資産を買い戻す行為を指す。現在の米国の法律では、株式や証券にはこのルールが適用されており、売却の前後30日以内に買い戻した場合は、その損失を税務上の損金として計上することができない。
しかし、暗号資産は現在のところ「証券」ではなく「資産」として扱われているため、このルールの適用外となっている。そのため、多くの投資家は価格が下がった際に一度売却して損失を確定させ、すぐに買い戻すことで、ポートフォリオを維持したまま節税を行ってきた。PARITY Actが成立すれば、こうした「損出し」による節税が不可能になる。
既存の株式投資ルールとの整合性
ウォッシュセール・ルールの暗号資産への適用については、以前から多くの議員が主張してきた。シンシア・ルミス議員なども自身の法案に同様の規定を盛り込んでおり、超党派での合意が得られやすい項目だと言える。暗号資産を特別な存在として扱うのではなく、他の金融資産と同じ土俵に乗せるという「規制の平準化」の流れの一環だ。
投資家にとっては、年末のタックスロス・ハーベスティング(節税のための損出し)の戦略を根本から見直す必要が出てくる。これは市場の流動性にも影響を与える可能性があるため、法案の行方には細心の注意を払う必要がある。
ステーキングとトレーディングの明確な区分

PARITY Actのもう一つの重要な側面は、暗号資産の運用方法に応じた課税区分の明確化だ。特に「パッシブ・ステーキング」に関する規定が盛り込まれている。
パッシブ・ステーキングの定義とは
ステーキングとは、ネットワークの維持に貢献する見返りとして報酬を得る仕組みだ。法案では、このステーキングから得られる報酬と、積極的な売買による利益(トレーディング)を区別しようとしている。パッシブ・ステーキング、つまり自らバリデーターを運営するのではなく、プラットフォームなどを通じて預け入れる行為をどう定義するかが焦点だ。
これまで、ステーキング報酬が発生した瞬間に課税されるのか、あるいはその報酬を売却した時に初めて課税されるのかについては、法的な解釈が分かれていた。PARITY Actによってこの定義が明確になれば、ステーキングを行っている個人投資家や機関投資家にとって、将来の税負担を予測しやすくなる。これは、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)を採用するイーサリアムなどのエコシステムにとって、長期的な追い風となるだろう。
【独自分析】米国の税制改正が日本の暗号資産市場に与える影響

米国の税制改正は、決して遠い国の出来事ではない。日本の暗号資産税制は、現在「雑所得」として扱われ、最大55パーセントの高い税率が課されている。日本国内でも、少額決済の非課税化や、20パーセントの申告分離課税への移行を求める声は極めて強い。
米国がPARITY Actによってステーブルコイン決済の免税やウォッシュセール・ルールの適用に踏み切れば、それは「グローバルスタンダード」として日本政府の議論にも大きな影響を与えるはずだ。特にステーブルコインを日常の決済手段として普及させようとする動きは、日本が推進するWeb3戦略とも合致する。米国の成功事例(あるいは失敗事例)は、日本の税制改正のスピードを速める触媒になる可能性がある。
また、ウォッシュセール・ルールの導入は、暗号資産市場の「健全化」を意味する。過度な節税目的の取引が抑制されることで、価格形成がより実需に基づいたものになるからだ。短期的には投資家にとって負担増となるかもしれないが、長期的には暗号資産が正当な金融資産として社会に受け入れられるための「信頼のコスト」と捉えることもできる。米国でのこの動きは、暗号資産がキャズム(普及の溝)を超え、一般社会に浸透するための不可欠なプロセスなのだ。
この記事のポイント
- 米連邦議会で、暗号資産税制を刷新する超党派の法案「PARITY Act」が再提出された。
- ステーブルコインによる少額決済について、取得価格が償還価値の99パーセント以上であれば非課税とする案が浮上している。
- 株式投資と同様の「ウォッシュセール・ルール」を暗号資産にも適用し、節税目的の直近買い戻しを制限する方針だ。
- ステーキング報酬とトレーディング利益を明確に区別し、税務上の定義を整理しようとしている。
- 米国のルール作りは、日本の暗号資産税制改正の議論にも大きな影響を与える可能性がある。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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