米上院銀行委の暗号資産法案、ステーブルコイン報酬を制限も倫理規定は先送り

米国の暗号資産規制が大きな節目を迎えようとしている。上院銀行委員会が今週、包括的な市場構造法案の修正と採決を予定しており、可決されれば連邦レベルで業界を包括的に規制する初めての枠組みとなる。

5月11日深夜に公表された309ページに及ぶ「明確化法案(Clarity Act)」は、長らく議論の的だったステーブルコイン報酬とソフトウェア開発者保護に具体的な文言を盛り込んだ。だが、ドナルド・トランプ大統領の暗号資産事業を巡る利益相反への対応は見送られており、超党派の合意形成における最大の障壁として浮上している。

本記事では、法案の主要論点であるステーブルコイン規制、DeFi関連条項、そして倫理規定を巡る政治的な綱引きを整理し、今後の展望を読み解く。

ステーブルコイン報酬を巡る攻防、銀行業界が反発

ステーブルコイン報酬を巡る攻防、銀行業界が反発

今回の法案で最も注目を集めているのが、ステーブルコインの保有に対して利子やそれに準ずる報酬を支払うことを禁止する条項だ。これは単なる技術的な規制ではなく、銀行システムと暗号資産エコシステムの境界線を定める極めて政治的な決定である。

なぜ報酬禁止が盛り込まれたのか

この問題が初めて表面化したのは今年1月。委員会は当初、法案の修正協議を予定していたが、米大手暗号資産取引所Coinbaseがステーブルコイン報酬の扱いを理由に支持を撤回したことで、土壇場で取りやめになった経緯がある。

その後、民主党のアンジェラ・アルソブルックス上院議員と共和党のトム・ティリス上院議員という主要交渉者がまとめた修正案が今月初めに公表された。その内容は、特定の事業者がステーブルコインの単純保有に対して「あらゆる形態の利子」、あるいは「銀行預金が生み出す利子や利回りと経済的または機能的に同等な方法」での支払いを行うことを禁じるというものだ。

つまり、ステーブルコインを銀行預金のように運用し、利息を得るというビジネスモデルに大きな制約をかける狙いがある。暗号資産業界全体とCoinbaseはこの文言に支持を表明している。

銀行業界は「不十分」と反発

ところが、大手銀行の業界団体はこの規制ではまだ緩すぎると強く反発している。米銀行協会(ABA)のロブ・ニコルズCEOは、委員会の採決を前に銀行幹部に送った書簡で、現行の法案は「銀行預金のペイメントステーブルコインへの逃避を不必要に促進し、経済成長と金融の安定の両方を危険にさらす」と警告した。

銀行業界の懸念は明白だ。もしステーブルコインが銀行預金よりも高い利回りを提供できれば、個人や企業が銀行から資金を引き揚げ、ステーブルコインに移す動きが加速する。銀行の貸出原資が減少すれば、経済全体への信用供与に悪影響が及ぶという理屈である。

一方で、暗号資産業界からは「銀行預金と競合するような高利回りを提供することは、そもそも健全なステーブルコインの設計ではない」との見方もある。ステーブルコインの本質は価値の安定した決済手段であり、投機的な利回り商品ではないという考え方だ。

この対立構造は、金融イノベーションを促進したい勢力と、既存の銀行システムを守りたい勢力とのせめぎ合いを象徴している。5月11日夜に公表された法案にはアルソブルックス、ティリス両氏の文言がそのまま盛り込まれた。委員会はこの線で決着を図る構えだ。

置き去りにされた倫理規定、トランプ氏の利益相反が火種

置き去りにされた倫理規定、トランプ氏の利益相反が火種

法案の技術的な中身が固まりつつある一方で、決定的に欠落しているのが倫理規定だ。大統領を含む連邦高官が暗号資産から個人的な利益を得ることを制限する条項は、今回の法案にも盛り込まれなかった。

14億ドル規模の利益相反問題

The Blockの記事によれば、ブルームバーグは今年1月、トランプ大統領が就任以降に自身の暗号資産事業から少なくとも14億ドル(約2,100億円)の利益を上げたと試算している。この利益には、本人と妻が発行したミームコインや、DeFiおよびステーブルコイン事業「ワールド・リバティ・ファイナンシャル」への一族の出資が含まれている。

大統領が規制の枠組みを定める立場にありながら、その規制対象となる事業から莫大な利益を得ているという構図は、深刻な利益相反に他ならない。民主党議員からは当然のごとく批判が噴出している。

民主党の反発と超党派合意への障壁

上院農業委員会の民主党議員は1月、大統領や副大統領、連邦議会議員などが特定の暗号資産取引を行うことを制限する修正案を提出したが、委員会で法案が可決された際には盛り込まれなかった。銀行委員会のティム・スコット委員長(共和党)は、倫理規定は銀行委員会の管轄外だとの立場を取っている。

だが民主党側は譲る気配を見せていない。アルソブルックス氏の報道官は採決を前に「木曜日の超党派修正協議に至るには、倫理規定での妥協が必要だ」と述べ、交渉が続いていることを明らかにした。

同じく主要交渉者であるキルステン・ギリブランド上院議員(民主党)も、倫理規定なしでの法案支持はあり得ないとの立場を明確にしている。さらに上院銀行委員会の最上位民主党議員であるエリザベス・ウォーレン氏は11日夜、法案が「ドナルド・トランプの暗号資産汚職を加速させる」と痛烈に批判した。

ウォーレン氏は声明で「大統領とその一族は就任からわずか1年で、暗号資産取引だけで少なくとも14億ドルの利益を得ている。ところがこの法案には驚くべきことに、それを防ぐ条項が一切含まれていない」と指摘し、「米国民は見ている。大統領とその一族の暗号資産事業が引き起こす大規模な利益相反を止められない法案を、委員会のメンバーは支持すべきではない」と訴えた。

この発言から浮かび上がるのは、倫理規定の欠如が単なる手続き上の不備ではなく、超党派合意そのものを瓦解させる火種になり得るという現実だ。スコット委員長が「管轄外」と線を引こうとしても、民主党がこの点で譲歩しなければ法案成立への道は険しい。

DeFi開発者を保護する「ブロックチェーン規制明確化法」

DeFi開発者を保護する「ブロックチェーン規制明確化法」

法案には「ブロックチェーン規制明確化法(BRCA)」も盛り込まれている。これはノンカストディアル(非管理型)のソフトウェア開発者が「マネートランスミッター(送金業者)」には該当しないことを明確化する重要な条項だ。

マネートランスミッターとは、簡単に言えば他人の資金を預かって送金する事業者のことだ。米国では州ごとに免許が必要で、コンプライアンス費用が膨大になる。もしDeFiプロトコルの開発者が送金業者と見なされれば、個人開発者は事実上活動できなくなる。

法執行機関との綱引き

このBRCAに対しては、法執行機関の側から強い懸念が表明されてきた。Politicoの報道によれば、開発者保護の範囲が広すぎると、金融犯罪の取り締まりが難しくなるという指摘がある。実際、共和党のチャック・グラスリー上院議員らは1月、BRCAが州や地方の法執行機関にとって「死角」を生み出すと批判していた。

だが状況は動いた。Punchbowl Newsの報道によれば、グラスリー氏と暗号資産推進派で知られるシンシア・ルミス上院議員(共和党)が、これらの懸念に対応する合意に達したという。The Blockが入手した情報でも、11日中にグラスリー氏がBRCAを承認し、法案の文言も同氏とキャサリン・コルテス・マスト上院議員の懸念に直接対応するものになったとされている。

DeFi教育基金の反応

DeFi業界のロビイング団体であるDeFi教育基金は、法案公表を受けて「最近の交渉の方向性に勇気づけられている」との声明をXに投稿。開発者やインフラ提供者にとって最も重要な条項であるBRCAと、取引所法(Exchange Act)に基づく保護が法案に含まれていることを評価しつつ、詳細な精査を進めているとしている。

法執行とイノベーションのバランスは、暗号資産規制の永遠のテーマだ。BRCAを巡る調整が一定の着地点を見つけつつあることは、法案全体の成立に向けた前向きなシグナルと受け取れる。

住宅パイロットプログラムという異色の条項

住宅パイロットプログラムという異色の条項

法案には、暗号資産規制とは一見無関係に思える条項も含まれている。証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)に対して、「住宅供給を促進するためのパイロットプログラム」の規則を定める期限を設けるよう指示する条項だ。

暗号資産と住宅政策がどう結びつくのか、法案の文言からは具体的な仕組みは見えてこない。ただ、トークン化された不動産や分散型金融を使った住宅ローンの可能性を探る布石との見方もある。

業界内では「政治的な取引材料として盛り込まれたのではないか」という冷めた見方も出ているが、仮に実現すればブロックチェーン技術の実用化という点では興味深い実験になるだろう。

この記事のポイント

  • 米上院銀行委員会が包括的暗号資産規制法案を公表、今週中に修正・採決の予定
  • ステーブルコインの利子支払いを制限する条項を明記、銀行業界は規制が不十分と反発
  • トランプ大統領の暗号資産事業による利益相反を防ぐ倫理規定は盛り込まれず、民主党が強く反発
  • DeFi開発者を送金業者規制から保護するBRCAは、法執行機関との調整で前進
  • 倫理規定の欠如が超党派合意を阻む最大の障壁となっている状況
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