米国上院銀行委員会で審議が迫る暗号資産市場構造法案をめぐり、上院議員らが100件を超える修正案を提出した。その内容は、議員自身の仮想通貨保有を禁じる倫理規定から、ソフトウェア開発者の刑事免責を認める保護規定、さらには司法省の暗号資産取締チーム再建まで、多岐にわたる。
法案は暗号資産取引のルールを連邦レベルで定める包括的なものだ。今回はその法案に上院議員がどう手を加えようとしているのか、そしてその政治的実現性はどこまであるのかを、Cointelegraphの報道をもとに詳しく解説する。
この記事を読めば、米国で進行中の暗号資産規制の「今」がつかめる。あなたのトレードや事業の前提になる規制環境の変化を、友人から教わるような距離感で伝えていきたい。
審議入りする「市場構造法案」とは何か

今回の法案は、暗号資産をめぐる連邦規制の枠組みを整理し、どのトークンが証券取引委員会(SEC)の管轄で、どれが商品先物取引委員会(CFTC)の管轄なのかを明確にする狙いがある。現在は規制の縦割りがあいまいで、事業者がどちらのルールに従えばいいかわからない状態が続いている。
法案の通称は「CLARITY法」。一言でいえば、「暗号資産を証券と商品に分類し、発行体や取引所に明確な道筋を示す」ための法律だ。CoinDesk Japanの記事を読むような情報密度で、この法案が秘める意味を掘り下げていく。
なぜ今、この法案が注目されるのか
暗号資産市場が成熟するにつれ、規制の不確実性が業界最大のリスクになってきた。米国で事業を展開する企業は、SECとCFTCのどちらのルールにも違反しないよう、常に綱渡りを強いられている。明確な線引きがないと、起業家は海外に拠点を移してしまう。実際、欧州やアジアに拠点を置くプロジェクトは増えている。
CLARITY法はこの状況を打開するための立法だ。超党派の支持を集めるが、具体的な条文になると議員ごとに譲れない一線がある。そこが100件超の修正案が提出された理由だ。
法案の基本的な枠組み
同法案は、分散型ネットワークの定義を定め、十分に分散化されたトークンは証券ではなく商品として扱う枠組みを提案している。また、SECとCFTCの役割分担を明確にし、暗号資産取引所の登録制度を創設する内容だ。
このような包括法案は、FIT21法として下院を通過した法案と似た理念を持つ。だが、上院版ではさらに、消費者保護や制裁対象との取引防止など、国家安全保障の観点が強く盛り込まれている点が異なる。
議員の仮想通貨保有を禁じる「倫理規定」修正案

提出された修正案の中でも特に耳目を集めているのが、クリス・ヴァン・ホーレン上院議員(民主党)が主導する倫理規定だ。これは大統領、副大統領、上級官僚、連邦議会議員とその家族が、暗号資産を保有したり、プロモーション活動に関わったりすることを全面的に禁じる内容である。
この修正案は、暗号資産に限らず、公職者の金融取引全般に対する透明性を求める動きの延長線上にある。議員が規制を作る立場でありながら、その規制対象から利益を得ることは利益相反にあたるというのが、提案者のロジックだ。
一部の共和党議員も支持に回る理由
この倫理規定は、民主党のヴァン・ホーレン議員だけでなく、一部の共和党議員からも支持を得ている。通常、仮想通貨規制をめぐっては党派対立が激しい。民主党は消費者保護を重視し、共和党はイノベーション推進を掲げるという構図だ。
しかし、倫理規定の部分では党派を超えた合意が生まれやすい。議員自身の投資活動に対する批判は、有権者の間で党派を問わず強いからだ。選挙を意識せざるを得ない議員にとって、ここで反対票を投じるリスクは大きい。
この修正案が成立した場合の影響
もしこの修正案が盛り込まれれば、米国の政策決定層がビットコインやイーサリアムを個人的に保有することはできなくなる。これは政治資金の流れにも影響を与える可能性がある。暗号資産業界のロビー活動は活発だが、議員個人が資産を持てないとなれば、業界の政治的影響力の質が変わるかもしれない。
一方で、議員本人が規制対象の資産を実際に保有し、理解を深める機会を奪うという批判もある。技術や市場の実態を知らずに規制を作ることへの懸念だ。
開発者を守る「セーフハーバー」条項とは

キャサリン・コルテス・マスト上院議員(民主党)が提出したもう一つの注目修正案が、ソフトウェア開発者のためのセーフハーバー(安全な避難所)条項の創設だ。これは「資金移動業者としての登録を怠った」ことを理由に、開発者が刑事責任を問われることを防ぐ内容である。
つまり、コードを書いただけの開発者が、そのコードを使った第三者の違法行為の責任を負わされることを防ぐ狙いがある。暗号資産業界の多くの団体が、この規定を強く支持している。
なぜこの条項が必要なのか
暗号資産の世界では、プロトコルを開発するのは個人や小規模チームであることが多い。彼らはオープンソースでコードを公開し、あとはコミュニティが自律的に運営するという形をとる。ところが現行のマネーロンダリング規制や送金業法は、こうした分散型の開発形態を想定していない。
過去には、Tornado Cash(トルネードキャッシュ)というプライバシー保護プロトコルの開発者が、米国政府から制裁を受けたり、刑事訴追されたりした事例がある。このようなケースが続けば、米国発のオープンソース開発は委縮してしまうと、業界は危機感を募らせている。
セーフハーバーの適用範囲と課題
この修正案は、開発者が「資金移動業者」としての登録を求められるリスクから保護するが、その境界線はまだ明確ではない。例えば、開発が終了したプロトコルの管理キーを保持し続けている場合はどうか。フロントエンドのウェブサイトを運営している場合はどうか。こうしたグレーゾーンは今後の議論に委ねられる。
多くの暗号資産弁護士は、この条項は最低限の保護を提供するものだと評価する。だが、完全な免責にはほど遠いという見方も強い。コルテス・マスト議員の提案はあくまでスタートラインであり、さらに細かな線引きが必要になるだろう。
司法省の暗号資産取締チーム再建をめぐる攻防

民主党のアンディ・キム上院議員は、司法省内に「国家暗号通貨取締チーム(NCET)」を再建する修正案を提出した。このチームは2024年4月に解体されたばかりだ。解体を決めたのは司法省自身で、その理由は「リソース配分の見直し」と説明されていた。
キム議員の修正案は、これを復活させることで、ランサムウェアや制裁逃れ、ダークネット市場など、暗号資産を悪用した犯罪に専門的に対処する体制を再構築しようというものだ。
NCET解体の背景とその評価
NCETは2021年10月に設立され、暗号資産関連の複雑な事件を数多く手がけてきた。FBIやシークレットサービスなど他機関との連携で成果も出ていたと評価する声がある一方、司法省内では通常のサイバー犯罪部門との重複が問題視されていた。
解体後は、各州の連邦検事局が個別に案件を扱う形になったが、専門知識の分散を懸念する声が議会でくすぶっていた。キム議員の提案はこうした懸念に応えるものだが、共和党内には「官僚機構の肥大化」につながると警戒する向きもある。
政策としての優先順位と党派対立
取締チームの再建は、一見すると党派を超えて支持されそうなテーマだ。犯罪対策だ。だが予算や人事権をめぐる省庁間の縄張り争いも絡む。法案全体の交渉の中で、この条項が生き残るかどうかは、より大きな政治的取引のカードになる可能性が高い。
Cointelegraphの記事によれば、共和党のトム・ティリス上院議員のように、特定の条項がなければ法案全体に反対すると明言する議員もいる。こうした中で、NCET再建がどの程度の優先順位を与えられるかは未知数だ。
法案成立の政治方程式

上院銀行委員会で共和党が多数派を握っているため、法案を委員会から送り出すことは技術的には可能だ。ただし、上院本会議で法案を実際に可決するには、フィリバスター(議事妨害)を終了させるための5分の3の賛成が必要になる。つまり、民主党の協力が不可欠だ。
上院の勢力図は共和党が53議席、民主党が47議席(無所属含む)だ。単純計算で、少なくとも7人の民主党議員を説得しなければ、法案は止まってしまう。
7人の「キー」となる民主党議員
Galaxy社の分析が示すように、7人の民主党議員が法案の命運を握ると目されている。具体的には、暗号資産に比較的理解がある議員や、金融サービス業界との関係が深い議員たちだ。彼らが修正案の内容次第で賛成に回れば、法案は成立に向けて大きく動き出す。
ここで重要なのが、倫理規定や開発者保護といった超党派的な修正案が、いかにして党派的な対立軸をぼかすかだ。共和党の望む「規制緩和」と、民主党の求める「消費者保護」のバランスをとる接着剤として、今回の修正案群が機能する可能性はある。
会期末という時間の壁
2026年は中間選挙の年でもある。議員の関心は選挙区での活動に移りやすい。立法活動が活発な期間は限られており、CLARITY法のような大型法案は、他の優先法案との競争にさらされる。時間切れで廃案になるリスクは常にある。
加えて、大統領選挙後の政権交代も見据えた動きがすでに始まっている。政権の方針が変われば、同じ法案でも受け止められ方が変わってくる。成立のタイミングを逸すれば、また一からやり直しだ。
この規制がDeFiに与える真のインパクト

CLARITY法が目指す市場構造の明確化は、中央集権的な取引所にとってはプラスに働く。証券なのか商品なのかがはっきりすれば、上場のハードルやコンプライアンスコストが予測可能になるからだ。だが、DeFi(分散型金融)にとっては評価が分かれる。
セーフハーバー条項がなければ、DeFiプロトコルの開発者は引き続き、法的リスクにさらされる。一方で、分散化の定義が厳格すぎれば、「分散型」を自称するプロジェクトは軒並み規制対象になりかねない。DeFi業界はこの法案を、成長のための基盤と見るか、枷と見るかで揺れている。
開発者コミュニティへのメッセージ
今回の修正案の動きは、開発者にとってはひとつのシグナルだ。少なくとも、議員の一部が「コードを書くこと自体を犯罪にしない」というラインを明確にしようとしている。これは悪いニュースではない。
ただし、規制の枠組みができるということは、グレーゾーンが減るということでもある。これまで規制の網の目をくぐっていたプロジェクトは、いずれ決断を迫られる。分散化を本気で進めるか、それとも規制された事業体として活動するか。その選択は近づいている。
DeFiにとって「良い法律」か「悪い法律」か
この問いに対する答えは、最終的にどの修正案が採用されるかで変わる。開発者保護がしっかりと盛り込まれ、分散型ネットワークの定義が現実的なものであれば、DeFiにとっては良い法律になりうる。しかし、過剰なコンプライアンス負担や、あまりに限定的な分散化基準が導入されれば、マイナスの影響は避けられない。
Cointelegraphが指摘するように、この法案がDeFiにとって吉と出るか凶と出るかは、まさにこれからの修正案のせめぎ合いにかかっている。規制の枠組みは、イノベーションの方向性を決定的に変える力を持つからだ。
この記事のポイント
- 米国上院銀行委員会で審議予定の暗号資産法案に、100件を超える修正案が提出された
- 議員とその家族の仮想通貨保有を禁じる倫理規定が、党派を超えて注目を集めている
- ソフトウェア開発者を刑事責任から保護するセーフハーバー条項の成否が、将来のDeFi開発を左右する
- 法案成立には民主党議員7人以上の賛成が必要で、中間選挙を控えた時間的制約も重くのしかかる

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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