米国のビットコインATM運営最大手Bitcoin Depotが、連邦破産法第11章(チャプター11)の適用を申請し、すべての事業を停止して会社を清算する手続きに入った。規制環境の激変にセキュリティ侵害が重なり、事業継続が不可能になったと判断した格好だ。
ナスダック上場企業である同社は、北米で最大の暗号資産ATMネットワークを構築し、世界で9,000台以上のキオスク端末を展開していた。今回の申請は、単なる経営不振ではなく、米国の暗号資産ビジネスを取り巻く環境がこの数年でいかに厳しくなったかを象徴する出来事だ。
規制強化が直撃したビジネスモデル

チャプター11とは、米国で経営難に陥った企業が、裁判所の監督下で資産の売却や事業の再編を進める手続きだ。清算を前提とするケースでは、残った資産を売却し、債権者への弁済を進めることになる。Bitcoin DepotのCEOであるAlex Holmes氏は、プレスリリースのなかで今回の決断に至った背景をはっきりと説明している。
「BTM(ビットコインテラー機)運営事業者を取り巻く規制環境は大きく変化した。各州は取引限度額の設定など、より厳格なコンプライアンス義務を課すようになり、一部の州ではBTMの営業そのものが制限、あるいは完全に禁止された。事業者は訴訟リスクや規制当局による執行措置の増加にも直面している」というのが、会社側の公式な見解だ。
コネチカット州での免許停止が引き金に
すでに2026年3月、同社はコネチカット州での送金事業者免許が停止されたことを受け、経営陣を刷新していた。この際にHolmes氏が新CEOに就任したが、当時の予測では、こうした州レベルの規制強化により中核事業の収益が前年比で30%から40%減少する見通しが示されていた。
金融サービス業では、いわゆる「レギュラトリーリスク」、つまり規制や法改正によって事業の前提が覆されるリスクが常につきまとう。ビットコインATMの場合、マネーロンダリング(資金洗浄)や詐欺への悪用を防ぐため、本人確認や取引報告の義務が年々重くなっており、これに対応するためのコストと手間が、ビジネスとしての採算ラインを大きく圧迫していたとみられる。
相次いだ打撃と急速な経営悪化

規制の逆風だけが唯一の原因ではない。同社は2026年に入ってから、立て続けに経営上の困難に見舞われていた。
370万ドルのセキュリティ侵害
追い打ちをかけたのが、4月に発覚したセキュリティ侵害だ。同社のITシステムがハッキングを受け、管理していた暗号資産ウォレットから370万ドル(当時のレートで約5億5,000万円)相当の資産が不正に流出した。この一件は企業信頼を大きく揺るがし、すでに悪化していた経営状態をさらに深刻なものにした。
セキュリティ事件後、同社は2026年第1四半期(1〜3月期)の決算発表を延期した。その理由として、現金輸送中の資金管理プロセスに「重大な不備」が発見され、財務諸表の確定に追加の時間が必要になったと説明している。
収益半減と赤字転落
その後、暫定的な未監査データとして明らかになった業績はさらに厳しい内容だった。2026年1〜3月期の売上高は前年同期比で49.2%減少し、純損益は前年同期の1,220万ドルの黒字から、一転して950万ドルの赤字に転落していた。
週末の終値は2.93ドルと前日比で5.4%上昇したものの、過去1カ月で29.6%、過去6カ月では79.5%も株価が下落していた状況だ。規制強化が本格化する前から、市場は同社の将来性に厳しい目を向けていたことがうかがえる。
清算ではなく「事業停止」という選択

興味深いのは、同社が今回の手続きを「資産売却を伴う秩序ある事業停止」と位置づけていることだ。チャプター11は通常、企業の再建を目的とすることが多いが、今回は当初から完全な清算を視野に入れた動きとなっている。すでに同社の全ATMネットワークはオフラインに切り替えられ、カナダを含む海外子会社もすべて閉鎖される予定だ。
この決断は、単に資金が尽きたからではない。州ごとに異なる規制のパッチワークの中で、全国規模のビットコインATM事業を持続可能にすることは、もはや現実的ではないという経営判断だ。収益を生む前に規制対応コストがのしかかり、加えてセキュリティ事故が信頼を損ねたとなれば、新たな投資家を募って再建を目指す道も閉ざされてしまう。
暗号資産ATM業界が直面する構造的問題

Bitcoin Depotの破綻は、単独の企業に起きた出来事ではなく、米国の暗号資産ATM業界全体が抱える構造的な問題を映し出している。
ビットコインATMは、街角のキオスク端末で現金を暗号資産に交換できるサービスで、銀行口座を持たない層へのアクセス手段として普及してきた。しかし、この「現金と暗号資産が直接触れ合う」という特徴そのものが、規制当局にとってはマネーロンダリング対策の最大の懸念材料だった。本人確認の強化や取引限度額の引き下げは、利用者の利便性を損なうだけでなく、ATM運営事業者の収益モデルである「高頻度の小口取引」を根底から揺るがすものだ。
The Blockの報道によれば、CEOのHolmes氏も「現在のビジネスモデルはもはや持続不可能になった」と明言している。つまり、規制環境が変わるのを待つという選択肢は、同社には残されていなかったのだ。
この記事のポイント
- 米ビットコインATM最大手のBitcoin Depotがチャプター11を申請し、事業清算へ
- 州レベルの規制強化により事業モデルが立ち行かなくなった
- 370万ドルのハッキング被害や収益半減が決定打に
- 暗号資産ATM業界は、利便性と規制対応の板挟みという構造的な課題に直面している

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
