英中銀とFCAがトークン化証券市場の規制協議を開始、24時間決済構想も

英国の金融規制当局が、トークン化されたホールセール金融市場(金融機関同士が取引する大口市場)の本格整備に向けて動き出した。イングランド銀行(英中央銀行)と金融行動監視機構(FCA)は5月19日、規制の枠組みや市場インフラに関する意見募集を共同で開始した。

この取り組みは、2026年内に業界のフィードバックを集約し、具体的なロードマップを策定する大規模なプロジェクトだ。すでに16社がデジタル証券サンドボックス(規制された実証実験環境)でトークン化証券の発行・決済を試験しており、英国はこの分野で欧州をリードする構えを見せている。

暗号資産市場と伝統的金融の境界が曖昧になるなか、大国の中央銀行がブロックチェーン技術を公式の決済インフラに組み込もうとするこの動きは、市場参加者にとって見逃せない転換点となる。

意見募集の全体像と締め切り

意見募集の全体像と締め切り

今回の意見募集は、英国のホールセール金融市場デジタル戦略の一環として位置づけられている。FCAの公式声明によると、規制当局はトークン化証券やポストトレード(取引後の清算・決済)インフラに焦点を当て、健全性監督上の取り扱い、トークン化担保、決済手段に関する提案を概説した。

対象となるのは銀行、投資会社、資産運用会社、中央証券保管機関(CSD)、清算機関(CCP)、取引所、ポストトレードサービス提供者、そしてトークン化ソリューションを開発するフィンテック企業と幅広い。提出期限は今年7月3日だ。つまり、市場参加者は約1カ月半の間に意見をまとめる必要がある。

ロードマップ策定までのスケジュール

規制当局は期限後、業界ワークショップを開催し、2026年夏にフィードバック声明を公表する計画だ。さらに2026年後半には、デジタルホールセール市場の発展に向けた複数当局によるロードマップを発表する。これは単なる意見募集で終わらせず、実装まで見据えた工程表を引くという強い意志の表れといえる。

現時点で対象となる資産クラス

規制当局の説明によれば、現在の意見募集は債券、株式、投資信託の受益証券といったトークン化証券を対象としている。ここでいうトークン化とは、従来の有価証券の所有権をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現する技術だ。紙の権利証や中央集権的なデータベースではなく、分散型台帳で管理されることで、取引の効率化や24時間365日の決済が可能になる。当局は将来的に対象範囲の拡大も検討するとしており、不動産やオルタナティブ資産への広がりも視野に入っている。

デジタル証券サンドボックスで先行する実証実験

デジタル証券サンドボックスで先行する実証実験

意見募集の土台となっているのが、FCAとイングランド銀行がすでに稼働させているデジタル証券サンドボックス(DSS)だ。これはトークン化証券の発行、取引、決済を実際の規制環境下で試験できる場で、いわば「本番相当の模擬実験」といえる。The Blockの記事によれば、16社が初段階の審査を通過し、実際の稼働に向けて準備を進めているという。

DSSの意義は、規制当局が技術の理解を深めるだけでなく、事業者側も法令遵守の枠組みを事前に把握できる点にある。通常、新技術と規制は「技術が先行し、規制が後追いする」という構図になりがちだが、英国はこれを同時並行で進めようとしているわけだ。

24時間決済を見据えたRTGS拡張計画

24時間決済を見据えたRTGS拡張計画

イングランド銀行が並行して進める重要な施策として、RTGS(即時グロス決済システム)とCHAPS(大口資金決済システム)の稼働時間延長がある。The Blockの記事に引用された同行の文書によれば、段階的に週末稼働や営業日の時間延長を導入し、最終的に24時間365日稼働に近づける計画だ。

これはトークン化証券の世界と折り合いをつけるために不可欠な改修である。暗号資産市場が土日も休みなく動くのに対し、従来の中央銀行決済システムは平日の特定時間帯しか稼働しない。決済インフラに時差があるままでは、トークン化による効率化の恩恵は半減してしまう。つまり、中央銀行が自ら「決済の時間軸」を現代化するという意思表明と読める。

Syncroサービスが示す究極の構想

イングランド銀行は2028年を目標に「Syncro(シンクロ)」と呼ばれるリアルタイム同期サービスも開発中だ。これが実現すれば、中央銀行の勘定系システム上でトークン化された担保をCCP(清算機関)の取引や自行のオペレーションに利用できるようになる。中央銀行自身がトークン化資産を公式に受け入れるという姿勢は、制度的な信頼性を一気に引き上げる触媒になりうる。

FCAが示すファンドトークン化の枠組み

FCAが示すファンドトークン化の枠組み

The Blockの記事によると、FCAは4月に政策声明を発表し、実証実験段階を超えたファンドトークン化の広範な採用に向けた枠組みを公表した。この中で注目すべきは、投資家がトークン化されたファンド構造を含む認可ファンドと直接取引できる「任意の直接取引ルール」の導入だ。

これまではファンドの売買は販売会社や仲介業者を通すのが一般的だった。しかしトークン化と分散型台帳を活用すれば、技術的には投資家とファンドの直接的なやり取りが可能になる。規制面での整備が進めば、中間コストの削減や取引の迅速化といった、いわゆる「DeFi(分散型金融)の長所」を伝統的金融に取り込む道が開ける。

分散型台帳上の投資家名簿管理

FCAの政策声明には、ファンドマネージャーが分散型台帳システム上で投資家名簿(ユニットホルダー登録簿)を維持する際のガイダンスも盛り込まれた。投資信託では誰が何口保有しているかを正確に記録する義務があるが、これをブロックチェーン上で行えると公認した格好だ。これは地味に見えて実務への影響は大きい。名簿管理のデジタル化は、分配金の自動支払いや議決権行使の効率化にも直結する。

ここから見える英国の金融デジタル戦略

ここから見える英国の金融デジタル戦略

英国はブレグジット(EU離脱)以降、金融分野で独自の競争力を模索してきた経緯がある。暗号資産・デジタル証券の分野で先行すれば、国際的な資本と人材をロンドンに呼び込める可能性が高い。規制の厳格さと技術革新のバランスをとりつつ、フィンテック企業の成長と投資家保護を両立させるモデルケースを狙っているという見方もできる。

意見募集の範囲が債券・株式・ファンドから始まったことは示唆的だ。まずは既存の証券市場をデジタル化し、実績を積んでから、より複雑なデリバティブや代替資産へと段階的に拡大する戦略とみられる。

一方で、課題もある。イングランド銀行が目指す24時間決済の実現には、リスク管理体制や流動性供給の仕組みを根本から見直す必要がある。また、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の議論とも連動してくる問題であり、民間のステーブルコインとのすみ分けも含めて整理すべき論点は多い。

この記事のポイント

  • イングランド銀行とFCAがトークン化ホールセール市場の規制協議を共同で開始した
  • 意見募集の期限は7月3日、2026年内にロードマップを策定する計画だ
  • デジタル証券サンドボックスで16社が試験運用を進めている
  • RTGSの24時間稼働延長とSyncro構想で決済インフラの現代化も推進中
  • FCAはファンドトークン化の広範な採用に向けた政策声明を4月に発表済み
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