ギリシャ規制当局、BinanceのMiCA申請を拒否か

世界最大の暗号資産取引所Binanceが、欧州での事業継続を左右する規制審査の岐路に立っている。同社がEU全域でサービスを提供するために必要なMiCAライセンスの申請が、ギリシャの金融監督機関によって拒否される見通しだ。6月16日、Reutersが関係者の話として報じた。
BinanceはCoinDeskの取材に対し、申請内容はMiCAの要件に適合しており、ギリシャ当局も準拠を認めていると反論。すでに承認プロセスが進んでいたとの立場を強調している。月末に迫る審査期限を前に、両者の主張は真っ向から対立している格好だ。
MiCAとは何か、なぜ6月末が期限なのか

EU統一の暗号資産規制、MiCAの基本
MiCA(Markets in Crypto Assets)は、欧州連合が2023年に成立させた暗号資産市場の包括的な規制枠組みだ。これまでドイツやフランスなど各国が独自にルールを設けていた状況を改め、EU加盟国すべてで共通のライセンス制度を導入する。いわば、暗号資産事業者のための「EUパスポート」である。
この制度の下で認可を受ければ、一つの加盟国で得たライセンスで他の26カ国でも同じサービスを提供できる。取引所やカストディ事業者、ステーブルコイン発行体を含む幅広い事業者が対象だ。暗号資産を法定通貨と同じような金融商品の枠組みで扱おうとする国際的な潮流の先駆けでもある。
6月末に迫る移行期限と審査の行方
MiCAの完全施行に伴い、既存事業者が新制度の下で営業を続けるには、2026年6月末までにライセンスを取得するか、移行措置を認められる必要がある。この期限が目前に迫る中、Binanceはギリシャの資本市場委員会(HCMC)を窓口に申請手続きを進めてきた。
Reutersの報道が事実なら、HCMCはBinanceの申請を拒否する意向だという。同委員会は本稿執筆時点でコメント要請に応じていない。ただ、EUの規制当局であるESMA(欧州証券市場監督局)レベルでも何らかの確認作業が行われた形跡があり、単なる国内判断にとどまらない重みを持つ案件であることがうかがえる。
Binance側の主張、申請は「MiCAに準拠」

報道発表後に即座の反論
BinanceはReutersの報道を受け、すぐに反論の声明を発表した。同社の広報担当者はCoinDeskに対し、「我々の理解では、HCMCは申請内容を審査し、MiCA要件に完全に準拠していると判断した」と電子メールで述べている。
さらに担当者は「HCMCはESMAに対し、申請は適合しており、今後の理事会でライセンスを認可する意向だと伝えていた」とも主張。つまり、内部手続きではすでにゴーサインが出ていたにもかかわらず、方針が覆された可能性を示唆しているわけだ。
過去18カ月に及ぶ申請手続きの実態
Binanceによると、MiCAライセンスの取得に向けた準備は1年半前からスタートしている。ギリシャを拠点に選んだ背景には、当初マルタでの申請を模索していた経緯がある。マルタにはすでにオフィスを構えていたが、昨年末にギリシャの持ち株会社を設立し、HCMC向けの申請を本格化させたとギリシャメディアは伝えている。
EU域内でどの国を選ぶかは、税制だけでなく規制当局のスタンスや申請処理能力を考慮した戦略的判断だ。Binanceがギリシャを選んだのは、比較的スムーズな審査を期待してのことと見られている。しかし今回の報道は、その目論見が外れる可能性を示唆している。
市場全体への波及、取引量の減少とRWAの好調

暗号資産取引量、2024年9月以来の低水準
Binanceの規制問題は、すでに市場全体に冷や水を浴びせている可能性がある。5月の暗号資産取引所の合計取引量は前月比3.45%減の約4兆4,100億ドルと、2024年9月以来の低水準に落ち込んだ。規制の不透明感が投資家心理を冷やしているという見方もある。
特に欧州市場に依存する取引所にとって、MiCAライセンスの取得は事業継続の生命線だ。大手の一角であるBinanceがつまずけば、他の取引所も審査が厳格化される可能性があり、市場シェアの再編が進むかもしれない。
RWA関連取引が独り勝ち、新たなトレンドか
一方で、こうした逆風下でも好調を維持している分野がある。現実資産(RWA)のトークン化に関連する永久先物の取引量は、市場全体の縮小に逆行して10.4%増加し、過去最高を更新した。
RWAとは、国債や不動産、株式といった伝統的な資産をブロックチェーン上でトークン化したものを指す。規制対応に強いとされる資産クラスに資金が流れている構図だ。Binanceの欧州でのライセンス問題が長期化すれば、こうした「規制耐性」のある分野に資金がシフトする流れが加速するかもしれない。
Binanceに残された選択肢、欧州戦略の行方
申請国を変更するカード
仮にギリシャでライセンスが取得できなくても、Binanceが欧州市場から即座に撤退するとは限らない。MiCA制度では、一つの加盟国で認可されればEU全域で事業展開できる。つまり、申請国を別のEU加盟国に切り替えるという手が残されている。
実際、Binanceはこれまでも複数の国に拠点を分散してきた経緯がある。フランスやスペイン、イタリアでは比較的早くから現地の登録手続きを完了させている。これらの国で改めてMiCA申請を行う可能性は十分に考えられる。ただし、6月末の期限に間に合うかは不透明だ。
規制との向き合い方、今後の試金石に
Binanceは過去にも各国の規制当局と衝突してきた。米国では証券法違反で巨額の制裁金を支払い、創業者のChangpeng Zhao氏が経営から退く事態に発展した。欧州でのMiCA審査は、新生Binanceがどれだけ規制遵守の姿勢を貫けるかを試す場でもある。
規制当局との対話を重ねてきた同社の広報姿勢は、以前よりも格段にソフトになった印象だ。それだけに、今回のギリシャでの拒否報道は、Binanceにとって規制リスクが完全に払拭されたわけではないことを改めて示す材料と言える。
この記事のポイント
- BinanceのMiCAライセンス申請がギリシャHCMCによって拒否される見通しとReutersが報道
- Binanceは申請の適合性を主張し、すでに内部手続きで承認が進んでいたと反論
- 6月末の期限を過ぎれば、EU加盟国でライセンスなしの営業が困難になる
- 申請国を他国に切り替える余地はあるが、時間的な制約が大きい
- 市場全体の取引量は減少する一方、RWA関連取引が過去最高を更新し、規制耐性資産への資金シフトが鮮明に

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
