イーサリアムの次期大型アップグレード「Glamsterdam(グラムステルダム)」が、開発の最終段階に入った。開発チームは全EIP(イーサリアム改善提案)を実装したテスト環境を稼働させており、一般向けテストネットへの展開前の最終調整を進めている。
今回のアップグレードは2022年の「マージ(The Merge)」以来、最大規模のプロトコル改革になると見られている。ブロック構築の仕組みからガス代の計算方法まで、イーサリアムの根幹に関わる複数の変更が予定されているためだ。
2026年後半の実装が有力視されており、イーサリアムのスケーラビリティと公正性を大きく前進させる節目になりそうだ。
Glamsterdamとは何か、マージ以来の大改革へ
Glamsterdamは、イーサリアムが次に予定しているプロトコルアップグレードの名称だ。複数のEIPをひとつのパッケージにまとめ、ネットワーク全体で一斉に適用するハードフォークとして実施される。
イーサリアム財団(EF)のコア開発者であるParithosh Jayanthi氏はCoinDeskの取材に対し、Glamsterdamは「マージ以来おそらく最大のフォークになる」と述べている。同氏によれば、今回の変更は「イーサリアムに関する多くの前提を変え、将来的なスケーリングの基盤を整える」ものになるという。
マージとは2022年9月に実行された歴史的アップグレードで、イーサリアムの合意形成の仕組みをプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へ移行させたものだ。Glamsterdamはそれに匹敵するインパクトを持つと開発陣は位置づけている。
なぜ今このタイミングなのか
イーサリアムはここ数年、ロールアップを中心としたレイヤー2スケーリングの普及が進んできた。一方で、基盤となるレイヤー1には依然としてブロック構築の中央集権化やガス代の不透明性といった構造的な課題が残っている。
Glamsterdamはこれらの課題に直接切り込む内容だ。単なる機能追加ではなく、ネットワークの経済設計そのものを再調整することで、イーサリアムの長期的な競争力を高める狙いがある。
3つの柱、Glamsterdamがもたらす技術的変化

今回のアップグレードには複数のEIPが含まれるが、特に注目すべきは「ePBS」「ブロックレベルアクセスリスト」「ガス再価格設定」の3つだ。いずれもイーサリアムの使い勝手と経済性を大きく変える可能性がある。
ePBS(提案者と構築者の分離)
ePBSは「enshrined Proposer-Builder Separation」の略で、ブロックを提案する役割とブロックを構築する役割をプロトコルレベルで分離する仕組みだ。
現在のイーサリアムでは、この分離は主にオフチェーンのソフトウェア「MEV-Boost」に依存している。取引の並び替えから利益を得るMEV(Maximal Extractable Value)をめぐっては、一部の大手プレイヤーに権力が集中しやすい構造が問題視されてきた。
ePBSによってブロック構築の分離をプロトコル自体に組み込めば、外部サービスへの依存を減らし、MEVに関連する操作リスクを低減できる。ざっくり言えば、ブロックの組み立てと提出を別々の参加者に任せるルールを、イーサリアムの基本設計に書き込むようなものだ。
ブロックレベルアクセスリスト
ブロックレベルアクセスリストは、各ブロックがあらかじめ「どのアカウントやスマートコントラクトのデータにアクセスするか」を宣言できるようにする仕組みだ。
この宣言があると、イーサリアムのクライアントソフトウェアは必要な情報を事前に読み込めるようになる。結果としてブロックの実行速度が上がり、処理がより予測しやすくなる。取引の順序に依存するMEVの機会も減らせる可能性がある。
例えるなら、倉庫から必要な部品をその都度取りに行く方式から、あらかじめピックアップリストを作って効率よく集める方式に変わるイメージだ。
ガス再価格設定、手数料の経済設計が変わる
3つ目の柱はガス代の再価格設定だ。Jayanthi氏は「イーサリアム上のアクションにかかるコストを大きく変える」と説明しており、高度な計算処理は安くなる一方で、状態データの保存にかかるコストは上がる方向になるという。
具体的には、EVM(イーサリアム仮想マシン)の各命令にかかるガス代を見直し、実際の計算負荷により正確に対応させる。ゼロ知識証明(ZKP)を用いたスケーリング技術との親和性も高める設計だ。
ゼロ知識証明とは、データの中身を公開せずに「そのデータが正しいこと」だけを証明できる暗号技術である。この技術を使うロールアップは特に計算コストの影響を受けやすいため、今回の再価格設定はレイヤー2の普及を後押しする効果が期待されている。
開発の現在地、devnetからテストネットへ
Glamsterdamの開発は現在、devnet(開発者向けテストネットワーク)の段階にある。Jayanthi氏によれば「すべてのEIPを含んだdevnetを稼働させている」状況で、これはコードを安定化させて公開テストネットに展開する前の最終フェーズにあたる。
devnetとは、一般の利用者がアクセスできない閉じた環境で、開発者が新機能の動作確認やバグ修正を行うためのネットワークだ。ここでのテストが完了すると、SepoliaやHoleskyといった公開テストネットにコードがデプロイされ、より広範な検証が行われる。
具体的な稼働日はまだ決まっていないが、2026年下半期の実装が見込まれている。Jayanthi氏は「固定のタイムラインはないが、大きな進展があった」とコメントしている。
コミュニティへの波及と注意点
開発陣は現在、テストの継続に加えて、ガス再価格設定がエコシステムに与える影響についてコミュニティへの周知活動も進めている。手数料体系の変更はDeFiプロトコルやウォレット、取引所など幅広い関係者に影響を及ぼすためだ。
Jayanthi氏は今後の作業について「主にテスト、仕様の最終決定、再価格設定に関するコミュニティへの周知、そして出荷だ」と述べている。実装までの準備が着実に進んでいることを示す発言といえる。
市場とエコシステムへの影響、マクロデータにも注目

Glamsterdamの技術的な重要性に加えて、マクロの取引環境にも変化の兆しがある。CoinDeskの集計によると2026年5月の暗号資産取引所の合計出来高は前月比3.45%減の4兆4,100億ドルとなり、2024年9月以来の低水準を記録した。
一方で、現実資産(RWA)のパーペチュアル先物(無期限先物)取引高はトレンドに逆行して10.4%増加し、過去最高を更新している。伝統的な金融資産をブロックチェーン上で取引するRWA市場への関心が高まっていることを示すデータだ。
Glamsterdamによるガス代の再設計や処理効率の向上は、こうしたRWA関連プロトコルの運用コストにも直接影響を与える。取引の実行コストが下がれば、より多くの資産クラスがオンチェーンに移行する動きが加速する可能性もある。
長期的なスケーリングへの布石
Jayanthi氏が「将来のスケーリングに向けた基盤を整える」と語るように、Glamsterdamは単発の機能追加ではない。ePBSによるMEV対策、アクセスリストによる効率化、ガス再設計によるコスト最適化は、いずれもイーサリアムが数千〜数万のトランザクションを安定的に処理できる未来を見据えた布石だ。
これらの変更が実装されれば、レイヤー2への依存度が高い現在のスケーリング戦略にも一石を投じることになる。レイヤー1自体の処理能力と経済設計が強化されることで、より多様なアプリケーションが直接イーサリアム上で稼働しやすくなるからだ。
この記事のポイント
- イーサリアムの次期大型アップグレードGlamsterdamが最終開発段階に突入、全EIPを含むdevnetが稼働中
- マージ以来最大のプロトコル改革と位置づけられ、2026年下半期の実装が有力視されている
- 主要変更はePBS、ブロックレベルアクセスリスト、ガス再価格設定の3本柱で、ネットワークの公正性と効率を向上
- 開発陣はテストとコミュニティ周知を並行し、スケーリングの長期的基盤を整える段階にある

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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