Rippleが長年の牙城としてきた日本市場で、ステーブルコインを巡る新たな戦いが幕を開けた。同社はSBIグループと組み、ドル連動型ステーブルコイン「RLUSD」の提供を日本で正式に開始した。日本市場はRippleにとって最も深い関係を築いてきた市場の一つだが、そこにCircleと野村證券の連合、さらには国内メガバンク群が雪崩れ込む構図となっている。
RippleがRLUSDのローンチを発表したその翌日、Circleと野村證券は早ければ2027年にも企業向けのUSDC決済サービスを日本で立ち上げる計画を報じられた。この記事では、Rippleの地盤であった市場が、なぜ今「戦国時代」の様相を呈しているのか、各陣営の戦略と今後の展望を解説する。
RLUSD、ついに日本市場へ上陸する
RippleとSBIグループは2026年6月24日、金融庁の認可を受けた形で、ドル連動型ステーブルコイン「RLUSD」の日本での提供開始を発表した。RLUSDはSBI VCトレードを通じて、機関投資家だけでなく個人投資家も利用できるようになる。暗号資産取引所での取り扱いにとどまらず、個人の決済需要も視野に入れた展開となる点が特徴だ。
Rippleにとって日本は特別な市場である。SBIグループとは2016年から資本提携関係にあり、SBIレミットはRippleの送金基盤「Ripple Payments」上で国際送金サービスを構築してきた。RLUSDは、こうした長年のインフラ上に「規制されたドル資産」というレイヤーを追加するものであり、単なる新規上場とは意味合いが全く異なる。
Rippleの発表によれば、RLUSDは2024年後半のローンチ以来、時価総額が約17億ドルに達している。SBI VCトレードは、RLUSDを「プラットフォーム上で2つ目の米ドルステーブルコイン」と位置づけ、すでに取り扱うUSDCと併存させる方針だ。差別化の核となるのは、RippleとSBIの10年にわたる関係性と、既存の送金ネットワークとの親和性である。
Circleと野村證券が狙う「企業決済」という巨大市場

RLUSDの発表からわずか1日後、Circleと野村證券が日本で新たなサービス計画を公表していると日本経済新聞が報じた。これはUSDCを用いたデジタル資産決済および企業向け支払いサービスで、早ければ2027年の開始を目指すというものだ。
このサービスが標的とするのは、企業財務、サプライヤーへの支払い、海外子会社への送金、そして外国為替決済といった領域だ。現在、これらの国際送金には2〜3営業日かかるのが一般的だが、ステーブルコインを使えば数分にまで圧縮できる可能性がある。
市場規模も桁違いだ。国際決済銀行(BIS)の2025年のデータによると、日本の外国為替市場における1日の取引額は4,400億ドルに達する。Circleと野村證券が照準を合わせているのは、単なる暗号資産取引所の流動性ではなく、国家経済の血流とも言える企業間決済の基盤そのものなのである。
信頼を武器に企業領域へ
USDCはすでに2025年3月、SBI VCトレードを通じて日本に上陸している。バイナンスジャパンやbitbank、bitFlyerも取り扱いを示唆しており、取引所レベルでの流通経路は確保されつつある。しかし、野村證券との提携はそこから一歩も二歩も踏み込むものだ。
野村ホールディングスとレーザーデジタルが日本の投資専門家518人を対象に行った調査では、63%がステーブルコインのユースケースとして、財務管理、クロスボーダー決済、暗号資産投資、トークン化された証券決済などを想定していると回答した。さらに、主要金融機関が発行するステーブルコインに最も高い信頼が寄せられる結果も出ている。
このデータは、Circleと野村證券の戦略の核心を突いている。Rippleがブランド力と送金インフラで勝負するのに対し、Circleと野村は「銀行と同等の機関信頼」をテコに、企業の財務担当者が安心して使える決済手段を提供しようとしているのだ。
円建てステーブルコインの台頭と国内決済の奪い合い

ドル建てステーブルコインの競争が熱を帯びる一方で、円建てのステーブルコインも急速に存在感を増している。SBIはRLUSDのローンチとほぼ同時期に、SBI新生信託銀行とStartaleの技術協力を得て、円建てステーブルコイン「JPYSC」の提供も開始した。
JPYSCは改正資金決済法に基づく「電子決済手段」の枠組みで発行される、日本初の信託型円ステーブルコインだ。大口送金、オンチェーンでのFX取引、機関投資家向け融資、トークン化された実物資産(RWA)の決済などを主な用途として想定している。
メガバンク連合、2027年を照準に
Reutersの報道によると、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、みずほフィナンシャルグループのメガバンク3行は、2027年3月期までに円建てステーブルコインを共同発行する計画を進めている。金融庁も実証段階を支援しているとされる。
このスケジュールは、Circle・野村證券の2027年目標と完全に重なる。国内の企業間決済(B2B)や円から円への送金では、日本企業にとって為替リスクのない円建ての手段が圧倒的に有利だ。ドル建てステーブルコインは、為替変動リスクという構造的なハンデを背負うことになる。
もし銀行発行の円ステーブルコインが国内決済フローを吸収してしまえば、ドル建てステーブルコインの主戦場は国際送金と暗号資産市場の決済に狭まる。これはRippleにとっても、Circleにとっても、市場の奪い合いがより激しくなることを意味する。
SBIの「全方位戦略」が意味するもの
この騒動の中心にいるのがSBIグループである。同社は2016年にRippleに出資し、2025年3月にはUSDCの取り扱いを開始、2026年6月にRLUSDをローンチし、同じ週にJPYSCも立ち上げた。金融庁の電子決済手段リストを見ると、SBI VCトレードはUSDC、RLUSD、JPYSCの3つすべてを同時に取り扱っている。
この動きを単なる「乱れ撃ち」と見るのは誤りだ。SBIの真の戦略は、規制されたアクセスレイヤーを構築し、どのステーブルコインが最終的に勝っても手数料収入を確保できるポジションを取ることにある。いわば「軍需産業」的な立ち位置であり、プラットフォーム事業者としての収益モデルを追求しているのだ。
Rippleにとってこれは、SBIという強力な販路を確保できる保証であると同時に、同じプラットフォーム上でUSDCやJPYSCとの直接競争にさらされることをも意味する。RLUSDが送金インフラとしての実績を取引量に転換できるかどうかが、今後の焦点となる。
今後18カ月が勝負を決める

日本市場には現在、4つのステーブルコインカテゴリーが並立している。RLUSD(Rippleの送金レールを活用したクロスボーダー送金)、USDC(取引所アクセスと野村證券支援の企業決済)、JPYSC(円建ての大口送金と機関投資家向けフロー)、そしてメガバンクの円ステーブルコイン(国内B2B決済)だ。
クロスボーダー送金の分野では、RippleはSBIとの実績と既存の送金インフラを持っている。ここでの優位性は揺るがないように見えるが、USDCが野村證券の支援で企業領域に急速に浸透すれば、状況は一変する。企業の外為決済はRippleが狙う領域でもあり、最も危険な衝突点となる。
最大の懸念材料は、RLUSDが現在のところ「取引所に上場しているステーブルコイン」以上の取引量をまだ証明していない点だ。野村證券がUSDCの企業決済を軌道に乗せ、メガバンクの円ステーブルコインが国内決済を獲得するまでに、RippleがSBI VCトレード上での存在感を越えて、実需の送金フローをどれだけ取り込めるか。この時間との戦いが、Rippleの日本戦略の成否を分けることになる。
Circleと野村證券、そしてメガバンク連合の目標である2027年まで、残された時間は18カ月ほどだ。Rippleの先行優位が持続的な送金インフラとして結実するのか、それとも日本市場の主導権は機関信頼と銀行網を持つプレイヤーに収斂するのか。答えが出るのは、これからだ。
この記事のポイント
- RippleはSBIと組み、RLUSDを日本で正式に提供開始。個人投資家も利用可能に。
- Circleと野村證券が企業向けUSDC決済サービスを2027年にも開始予定と報じられる。
- MUFG、SMBC、みずほのメガバンク3行も円建てステーブルコインを計画しており、国内決済での競争が激化。
- SBIはUSDC、RLUSD、JPYSCを同時に取り扱い、プラットフォーム収益を狙う全方位戦略を展開。
- 今後の焦点は、Rippleが企業決済の領域で取引量を確保できるか、そして銀行発行の円ステーブルコインとの棲み分けにある。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
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