StrategyのSTRCが額面25%割れ、ビットコイン調達モデルに試練

企業が公開市場を使ってビットコインを買い続ける。その資金調達の仕組みに異変が起きている。Strategy(旧MicroStrategy)が発行する優先株STRCが、額面の100ドルを大きく下回る水準まで売り込まれたのだ。

時価は約75ドルと、額面から25%近い下落。これまで同社のビットコイン買い増しを支えてきた「市場で資金を調達し、ビットコインを買い、その含み益でさらに調達力を高める」という循環に、初めて本格的な亀裂が入った格好だ。

今回の下落が示すのは、単なる株価の調整ではない。投資家がStrategyの財務構造そのものに割引を要求し始めたという変化だ。この記事では、STRC下落の背景、80億ドルに上るとされる現金需要、そして「ビットコイン最大の企業保有者」を支えてきた資金調達モデルの持続性について読み解く。

Strategyのビットコインプレミアムが消えた

Strategyのビットコインプレミアムが消えた

Strategyが他のビットコイン保有企業と一線を画してきたのは、市場が同社に「ビットコインプレミアム」を付けてきたからだ。これは単純に保有するビットコインの時価総額だけでなく、公開市場を通じてビットコインを積み上げ続ける能力に対して、投資家が追加の価値を認めていたことを意味する。

そのプレミアムの有無を測る指標が「企業価値対純資産価値(mNAV)」だ。純資産価値とは、保有ビットコインの時価に現金や負債を加味した会社の正味価値。mNAVが1倍を上回っていれば、市場はStrategyのビットコイン調達力に追加の評価を与えていることになる。

ところが6月27日、このmNAVが1倍を割り込んだ。投資家はもはや「Strategyがビットコインを買い増す能力」に対して、追加の対価を払わなくなったのだ。むしろ、ビットコインの周りに築かれた複雑な資本構造のコストやリスクを割り引いて見るようになっている。

背景にあるのはビットコイン価格の低迷だ。BTCは足元で6万ドルを下回る水準で推移しており、これがStrategyの普通株にも波及した。同社の普通株(MSTR)は6月27日に2年ぶりの安値となる82ドルまで下落している。

長年、Strategyのビットコイン戦略は自己強化型のループとして機能してきた。市場が高い評価を与える→株式や証券を有利な条件で発行できる→調達した資金でさらにビットコインを買う→保有量の増加が投資家の期待をさらに高める。この循環が同社を世界最大のビットコイン保有企業に押し上げた。

しかし、同じループは逆回転もする。普通株と優先株が同時に下落すれば、新たな資金調達の条件は悪化する。調達コストが上がれば、ビットコイン購入のペースを維持するのが難しくなる。株主にとっての関心は「ビットコインが上がるかどうか」だけではなく、「Strategyが市場から資金を調達し続けられるか」に移りつつある。

80億ドルの現金需要が迫る

80億ドルの現金需要が迫る

今回のSTRC下落で浮き彫りになったのは、Strategyが今後2年間で直面する現金需要の規模だ。Ooramp Bitcoinの機関投資家向け部門を統括するグレン・キャメロン氏の試算によれば、その額は約80億ドルに達する。

年間17億ドルの配当負担

キャメロン氏が指摘する圧力のひとつは、優先株が生み出す配当負担だ。Strategyの年間優先配当負担は約17億ドルと試算されている。このうちSTRCだけで約12億ドルを占める。内訳は約1億490万株の発行済みSTRCに対し、額面100ドルを基準に年率11.5%の配当が発生する計算だ。

優先株とは、普通株より先に配当を受け取る権利を持つ株式のことだ。企業から見れば、銀行融資よりは柔軟だが、普通株よりは支払い義務が重い資金調達手段になる。

STRCの場合は変動金利型に設計されており、株価が額面の100ドルから離れるほど配当利回りが上昇する仕組みだ。理論上は、利回り上昇が投資家を引き付け、株価を100ドル付近に戻す効果を狙っている。だが実際には、配当負担の増加がStrategyの資金繰りを圧迫する副作用が生じている。

STRCが75ドルで取引されている現状では、実効利回りは約15%に達する。投資家がStrategyの優先株に求めるリターンが、設計上の配当率を大きく上回っている証拠だ。これは優先株が「安価な調達手段」から「高コストの資金源」に変わったことを意味する。

転換社債45億ドルの返済リスク

もうひとつの圧力は転換社債だ。キャメロン氏の分析では、2027年9月から2028年6月にかけて、約45億ドル相当の転換社債で投資家が現金償還を求める可能性がある。

転換社債とは、一定の条件で発行企業の株式に転換できる社債のこと。株価が転換価格を上回っていれば、投資家は株式に転換して値上がり益を得る。しかし、株価が転換価格を大きく下回ると、株式転換の魅力はなくなり、満期時に現金での償還を求める投資家が増える。

具体的な期限は2027年9月15日(約10億1,000万ドル)、2028年3月1日(20億ドル)、2028年6月1日(約15億ドル)と、わずか9カ月の間に集中している。Strategyの普通株が82ドルと低迷する中では、転換価格に届く見込みは薄く、現金償還の圧力は高まる一方だ。

配当と社債償還を合わせると、キャメロン氏の試算どおり80億ドルという数字が現実味を帯びてくる。一方でStrategyの手元現金は約14億ドル。同社はすでに弱気相場の中で証券を売却して現金を積み増しているが、それは同時に既存株主の希薄化を進めていることでもある。

Strategyに残された選択肢

Strategyが取り得る選択肢は限られている。普通株の追加発行は既存株主の持ち分を薄める。優先株の追加発行は配当負担をさらに膨らませる。借り換えは市場の信任が前提であり、STRCやMSTRが下落している状況では条件が悪化する。ビットコイン購入ペースを落とせば、同社を特徴づけてきた積極的な積み増し戦略の説得力が損なわれる。

そしてビットコインそのものを売却することは、「無期限に保有を続ける」というStrategyの基本方針からの最も急激な転換になる。CryptoSlateの記事によれば、同社は配当支払いのために過去に32ビットコインを売却した事例があるが、本格的な売却に踏み切れば市場への影響は計り知れない。

STRCが「ジャンククレジット」扱いに

STRCが「ジャンククレジット」扱いに

STRCの下落を巡っては、過去の暗号資産プロジェクトの崩壊と比較する声も出ている。ブロックチェーン分析企業アーカム・インテリジェンスは、STRCとテラ(Terra)のLUNAを同列に扱う見方に異を唱えた。

アーカムの指摘によれば、STRCはアルゴリズム型ステーブルコインとは全く仕組みが異なる。STRCには自動的なペッグ防衛メカニズムはなく、額面100ドルを下回ったからといって清算が強制的に発生することはない。永久優先証券であるSTRCは償還期限が存在せず、配当も取締役会の承認と会社の支払い能力に依存している。

つまり、STRCが75ドルで取引されていることは、即座の破綻を意味するわけではない。Strategyには一時的な資金繰りの柔軟性が残されている。

しかし市場は別の警告を発している。投資家はもはやSTRCを「いずれ100ドルに戻る証券」とは見なさず、「Strategyが配当を払い続け、資本を調達し続けられるか」に賭ける利回り商品として値付けしているのだ。

これは暗号資産に特有のレバレッジ商品というより、ストレス下にある企業の信用リスクにより近い価格形成だ。額面から25%のディスカウントは、Strategyの資本構造の中で相対的に劣後するポジションを取ることへの高いリスクプレミアムを反映している。

オプション市場が示す60ドルへの警戒

この警戒感はオプション市場にも表れている。7月17日を期限とするSTRCのプットオプション(売る権利)では、行使価格60ドルに大量の建玉が観測されている。一部の投資家が、STRCがさらに下落すると見て、その値下がりから利益を得られるポジションを構築している格好だ。

60ドルという水準は、額面から実に40%のディスカウントになる。市場の一部参加者がそこまでの下落をヘッジしている事実は、優先株への信認がどれほど揺らいでいるかを物語っている。

リップルCEOがセイラーモデルを批判

リップルCEOがセイラーモデルを批判

Strategyの証券が総じて圧力にさらされる中、暗号資産業界の内部からも批判の声が上がっている。リップル社のブラッド・ガーリングハウスCEOは6月27日のCNBCインタビューで、マイケル・セイラー氏の資金調達戦略に異議を唱えた。

ガーリングハウス氏は「金融工学(ファイナンシャル・エンジニアリング)は長期的な価値を生み出さない。デジタル資産の長期的価値は最終的にユーティリティ(実用性)によって決まる」と述べた。同氏はビットコイン自体には強気の見方を維持しているが、STRCの下落はStrategyのモデルが圧力下にある証拠だと指摘する。

さらに「マイケル・セイラーのチームは正しいことに集中しておらず、それが市場全体に悪影響を及ぼしている」と切り捨てた。この発言は、暗号資産業界に横たわる哲学的な違いを浮き彫りにしている。

セイラー氏のアプローチはビットコインの希少性と公開市場へのアクセスを軸に、ひたすら保有量を積み上げる戦略だ。一方ガーリングハウス氏の考え方は、決済やトークン化された金融インフラといった実用性を重視する立場。この対立は以前から存在していたが、STRCの下落とmNAVの1倍割れによって、批評家側に新たな材料が加わった形だ。

これに対しセイラー氏は「ボラティリティはあらゆる資本構造を試す。Strategyはビットコイン、規律ある資本配分、信用の質、そして長期的な価値創造に集中し続けている」と反論している。

ビットコインが上昇を続け、Strategyの証券がプレミアムで取引されている間は、同社のモデルは自己強化的に見えた。証券を売り、ビットコインを買い、投資家の熱意が次の調達を支える。だがSTRCの下落、MSTRの低迷、mNAVの縮小は、同じ構造をより脆弱に見せている。

次の試練は、Strategyが「ビットコイン最大の企業保有者」に押し上げた戦略そのものを弱めることなく、市場の信認を回復できるかどうかだ。

この記事のポイント

  • Strategyの優先株STRCが額面100ドルを25%下回る75ドル台に急落し、資金調達モデルに亀裂
  • 企業価値対純資産価値(mNAV)が1倍を割り込み、同社の「ビットコインプレミアム」が消失
  • 今後2年間で優先配当と転換社債の償還により約80億ドルの現金需要が発生する見通し
  • 実効利回り15%に達したSTRCは、もはや「安価な調達手段」ではなく「高コストの資金源」に変化
  • リップルCEOが「金融工学より実用性が価値を決める」と批判し、業界内の哲学的な対立が鮮明に
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