Robinhoodが独自L2公開、英国向け暗号資産取引も計画

米国の人気投資アプリを運営するRobinhoodが、独自のパブリックブロックチェーン「Robinhood Mainnet」の稼働を発表した。イーサリアムのセカンドレイヤー(L2)として設計され、同社の暗号資産サービスの中核を担う基盤となる。

同時に、分散型金融(DeFi)サービス「Robinhood Earn」の提供開始や、英国居住者向け暗号資産取引の計画も明らかにしている。株取引アプリとして知られるRobinhoodが、暗号資産事業を単なるオプションではなく主力事業へと本格的に転換させる動きだ。

この記事ではRobinhoodの新たな一手が持つ意味と、暗号資産市場に与える影響を具体的な数字とともに整理する。

Robinhoodが公開した「Robinhood Mainnet」とは何か

Robinhoodが公開した「Robinhood Mainnet」とは何か

まず押さえておくべきは、Robinhood Mainnetが単なるプライベートチェーンではなく、誰でも利用できる「パブリックブロックチェーン」として設計されている点だ。イーサリアムのL2ネットワークとして稼働し、取引の高速化と手数料の大幅な引き下げを実現する。

L2とは「レイヤー2」の略称で、メインのブロックチェーン(レイヤー1)の上に構築される拡張ソリューションである。イーサリアムは分散性とセキュリティに優れる一方、取引が集中すると処理速度が落ち、ガス代と呼ばれる手数料が高騰する課題を抱えている。この課題を解決するのがL2の役割だ。メインチェーンの安全性はそのままに、取引の大部分を別のレイヤーで処理する。高速道路でいえば、渋滞する本線に対してバイパスを建設するイメージに近い。

既存L2との違いとRobinhoodの強み

Robinhood Mainnetの最大の特徴は、既存の巨大なユーザーベースと直接接続される点にある。同社のアプリは2026年時点で数千万人のユーザーを抱えており、これらのユーザーがウォレットや複雑なブリッジ操作を意識することなくL2上で取引できる体験が提供される見込みだ。

通常、L2を利用するにはメタマスクなどの専用ウォレットを用意し、イーサリアムから資産を移す「ブリッジ」という操作を自分で行う必要がある。この技術的なハードルが、多くの一般ユーザーにとって参入障壁となっていた。Robinhoodのアプローチはこうした複雑さをアプリの背後に隠し、これまで株やETFを売買していたのと同じアプリ上で、シームレスにL2の恩恵を受けられるようにするものだ。

メインネット公開のタイミングと人員削減

このメインネット公開のわずか数週間前、RobinhoodのCEOであるVlad Tenev氏は全従業員の約10%を削減する人員整理を発表している。再編の一環と説明されているが、暗号資産事業へのリソース集中を加速する動きとの見方が強い。

同社の2026年第1四半期の暗号資産取引収入は前年同期比で約50%減少し、2億5,200万ドルから1億3,400万ドルまで落ち込んだ。この数字は4月の決算発表で明らかになったものだ。収入減という逆風の中で、単なるコストカットではなく独自ブロックチェーンの立ち上げという積極投資に踏み切った点は注目に値する。第2四半期の決算は7月29日に発表予定である。

Robinhood EarnがもたらすDeFiの大衆化

Robinhood EarnがもたらすDeFiの大衆化

Robinhood Mainnetと同時に発表されたのが、分散型金融サービス「Robinhood Earn」だ。このサービスは、ユーザーが自己管理型ウォレットを通じてドル連動ステーブルコイン「USDG」を貸し出し、推定年利約7%の利回りを得られる仕組みを提供する。

ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産である。USDGもその一種で、1USDGが常に約1米ドルの価値を保つよう設計されている。Robinhood Earnでは、このUSDGを預けることで、銀行預金では到底得られない水準の利回りを狙える。

自己管理型ウォレットの意義

ここで重要なのは「自己管理型ウォレット」という言葉だ。通常、取引所に預けた資産は取引所が管理するウォレットに保管される。これは便利な半面、取引所がハッキングされたり破綻したりした場合に資産を失うリスクがある。一方、自己管理型ウォレットでは資産を自分で直接管理するため、第三者の経営破綻リスクを気にせずに済む。

Robinhood Earnはこの自己管理型ウォレットを前提とすることで、従来の中央集権的な利回り商品とは一線を画している。ユーザーは自分の資産を自分でコントロールしながら、DeFiプロトコルが生み出す利回りを受け取れる。この点は、暗号資産の思想である「自己主権」に忠実な設計といえる。

株価は約8%上昇、市場の反応

これらの発表を受けて、Robinhoodの株価は発表当日に約8%上昇した。暗号資産取引収入の減少という逆風の中で、独自ブロックチェーンとDeFiサービスという新たな収益源への期待が株価に反映された形だ。

アナリストの間では、取引収入に依存しがちな収益構造を、DeFiプロトコルの手数料収入やステーブルコイン関連の収益で多角化できる点が評価されている。Robinhood Earnの年利7%という数字は、競合するDeFiプロトコルと比較しても遜色のない水準だ。

L2市場の競争激化、Baseとの対決構図

L2市場の競争激化、Baseとの対決構図

Robinhoodが参入するL2市場は、既に過熱気味の競争環境にある。代表格は米Coinbaseが支援する「Base」で、Robinhood Mainnetと直接競合する存在だ。

BaseはL2ネットワークの中で、預け入れられた総資産額(TVS)で約110億ドルを記録し、業界第2位の規模を誇る。Robinhood Mainnetはまだ立ち上がったばかりでTVSの規模では遠く及ばないが、差別化要因は明確だ。Coinbaseが主に暗号資産ネイティブのユーザーを抱えるのに対し、Robinhoodは株式投資から暗号資産に入ってきたライトユーザー層という異なるセグメントを持つ。

Baseが直面した障害、シーケンサーのバグ

L2市場の競争を語る上で避けられないのが、技術的な信頼性の問題だ。2026年6月、Baseは数時間のうちに2度のネットワーク停止を経験した。開発チームが後に公開した事後分析によれば、原因は「シーケンサー」と呼ばれる取引順序を整理する中核システムのバグだった。

シーケンサーとは、L2上で発生した取引を正しい順序に並べ替えてレイヤー1に記録する役割を担うシステムを指す。いわば取引の交通整理役であり、ここで障害が起きるとネットワーク全体がストップする。約110億ドルもの資産を預かるネットワークが数時間停止した事実は、L2技術がまだ成熟過程にあることを示している。

Robinhood Mainnetにとっては、これは好機ともいえる。競合のトラブルを踏まえて安定性をアピールできれば、ユーザー獲得の追い風になる。ただし、新興のネットワーク自体もバグや障害とは無縁ではないため、過度な楽観は禁物だ。

英国居住者向け暗号資産取引、規制対応の布石

英国居住者向け暗号資産取引、規制対応の布石

Robinhoodは英国居住者向けの暗号資産取引サービスを計画していることも発表した。同社は既に英国で株取引アプリを提供しており、そこに暗号資産取引を追加する形になる。

欧州連合(EU)では暗号資産市場規制(MiCA)が施行され、英国でも独自の規制枠組みの整備が進んでいる。Robinhoodはこうした規制環境の明確化を捉え、欧州市場での暗号資産事業を拡大しようとしている。取引所ではなく自己管理型ウォレットとDeFiを組み合わせる同社のアプローチは、規制当局との対話においても柔軟性を発揮する可能性がある。

規制対応の巧みさとリスク

Robinhoodの暗号資産戦略で目を引くのは、規制リスクを前面に出さずに事業を拡大する巧みさだ。米国では証券取引委員会(SEC)との対話を積み重ね、法的にグレーゾーンとされるトークンの取り扱いを慎重に選別してきた実績がある。英国でも同様のアプローチで、段階的にサービスを展開していくものと見られる。

もっとも、L2ネットワークとDeFiサービスを組み合わせたビジネスモデルは、規制当局にとって新たな検討課題となる。特に、分散型プロトコルを運営する主体が誰か、という点は今後の焦点だ。Robinhoodが単なるアプリ提供者なのか、それとも金融インフラの運営者なのか、その境界線が問われることになる。

Robinhoodの暗号資産転換が示す業界の潮流

Robinhoodの暗号資産転換が示す業界の潮流

Robinhoodの今回の動きは、単なる一企業の新サービス発表にとどまらない意味を持つ。伝統的なフィンテック企業が、独自ブロックチェーンの立ち上げとDeFiサービスへの本格参入に踏み切った事例だからだ。

かつて暗号資産市場は、CoinbaseやBinanceといった暗号資産ネイティブの取引所が主導してきた。しかし近年は、PayPalが独自ステーブルコインを発行し、VisaやMastercardがブロックチェーン決済の実証実験を進めるなど、既存の金融インフラ企業が相次いで参入している。RobinhoodのL2立ち上げは、この流れを加速させる起爆剤になる可能性がある。

ユーザー体験の統合が鍵

暗号資産の普及において最大の障壁は、長らく「使いにくさ」だった。秘密鍵の管理、ガス代の概念、ブリッジ操作といった専門知識がなければ、安全に利用することが難しい。Robinhoodが目指すのは、こうした複雑さをアプリの中に封じ込め、従来の株取引と変わらない操作性でブロックチェーンの恩恵を提供することだ。

もしRobinhoodが成功すれば、暗号資産市場のユーザー層は飛躍的に拡大する。現在、全世界の暗号資産ユーザーは数億人規模と推計されているが、Robinhoodの数千万人という既存ユーザーがL2上で活動し始めれば、ネットワーク効果は計り知れない。

リスク要因、収益構造の変化と競合の反撃

もちろん、課題も山積している。第1四半期の暗号資産取引収入が約50%減少した事実が示すように、Robinhoodの収益は市場の好不調に大きく左右される。L2ネットワークやDeFiサービスで安定収益を確保できるかは未知数だ。

また、Baseを運営するCoinbaseも黙ってはいないだろう。Coinbaseは米国最大の暗号資産取引所であり、技術開発力とブランド力ではRobinhoodを上回る。スマートウォレットやアカウント抽象化といった新技術でユーザー体験の簡素化を進めており、競争はこれから激化する。

この記事のポイント

  • Robinhoodが独自L2「Robinhood Mainnet」を公開し、パブリックブロックチェーン事業に本格参入した
  • DeFiサービス「Robinhood Earn」ではステーブルコインUSDGの貸し出しで年利約7%を提供、自己管理型ウォレットを採用
  • 暗号資産取引収入が前年比50%減となる中での積極投資であり、収益構造の転換を図る狙いがある
  • L2市場はBaseが約110億ドルのTVSで先行するが、Robinhoodは株式投資ユーザー層という異なるセグメントで差別化を図る
  • 英国居住者向け暗号資産取引も計画しており、規制対応を進めながら欧州市場への拡大を目指す
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