米財務省がISIS-Kの暗号資産アドレス100件超を制裁、テザーが資金凍結で対応

米財務省が7月2日、イスラム過激派組織ISIS-Kに関連する暗号資産アドレス100件以上を制裁対象に追加した。これを受け、ステーブルコイン発行元テザー社は即座に該当ウォレットの資金を凍結する措置を取った。

この動きは、テロ資金対策における暗号資産業界の協力体制が一段と強化されている実態を示している。特に管理主体が明確なステーブルコインは、法執行機関にとって制裁を執行する重要なゲートウェイになりつつある。

一連の制裁は米国外資産管理局(OFAC)が主導したものだ。ISIS-Kが暗号資産を使って世界中から資金を集めていた実態が、ブロックチェーン分析企業の追跡によって明らかになった。

制裁の詳細と即時凍結の流れ

制裁の詳細と即時凍結の流れ

対象となった134の暗号資産アドレス

OFACは7月2日、ISIS-K(イスラム国ホラサン州)の制裁リストに134の暗号資産アドレスを新たに追加した。内訳はトロン(TRON)ネットワーク上のアドレスが131件、モネロ(Monero)ネットワーク上のアドレスが3件だ。

ISIS-Kとは、アフガニスタンやパキスタン、中央アジアの一部で活動するイスラム国(IS)の地域組織である。OFACは米国における経済制裁の執行を担う機関で、テロリストや犯罪組織の資金源を断つ権限を持つ。今回の措置により、これらのアドレスに関連する資産は米国人や米国企業が取り扱うことが禁止された。

ブロックチェーン分析企業Chainalysisのデータによれば、制裁対象となったトロン上のウォレット群は2023年以降、合計140万ドル(約2億1,000万円)以上を受け取り、88万ドル(約1億3,200万円)以上を送金していた。

テザーによるウォレット凍結の即時対応

制裁発表と同日、ステーブルコイン「USDT」を発行するテザー社は、OFACが指定した131のトロンアドレスすべての資金を凍結した。テザー社はアドレス単位で残高をロックできる機能を持っており、これまでも法執行機関の要請に応じて資金凍結を実施してきた実績がある。

ステーブルコインの凍結は、ビットコインのような非中央集権型の暗号資産では原理的に不可能な対応だ。発行体という「中央管理者」が存在するからこそ、制裁措置をダイレクトに執行できる。この中央集権的な性質は、時に「暗号資産の理念に反する」と批判されることもあるが、違法資金対策という観点では極めて実効性が高い。

ISIS-Kの暗号資産調達手口

ISIS-Kの暗号資産調達手口

メディア部門を通じた寄付の呼びかけ

Chainalysisの調査によると、ISIS-Kは自らのメディア部門「アル・アザイム・メディア財団(al-Azaim Media Foundation)」を活用し、ウェブサイトやメッセージングプラットフォームを通じて暗号資産での寄付を呼びかけていた。

寄付の受付に使われていたのはトロン、モネロ、そしてビットコインの3つのネットワークだ。Chainalysisはこれらのネットワーク上で、過去に組織が使用した寄付用アドレスを複数特定したとしている。

組織がトロンを主要な資金移動手段として選んだ理由の一つに、取引手数料の安さと処理速度の速さがある。一方でモネロは、送金者や受取人のアドレス、取引金額を外部から追跡しにくい強力な匿名性を備えており、資金の流れを隠蔽する目的で併用されていたと見られる。

追跡を困難にするモネロの利用

モネロは、取引の詳細をブロックチェーン上で公開しない「プライバシーコイン」の代表格だ。ビットコインやトロンでは誰でも取引履歴を閲覧できるのに対し、モネロはリング署名やステルスアドレスといった技術で取引の追跡を極めて難しくしている。

つまり、法執行機関にとっては「もっとも捕捉しにくい資金移動手段」ということだ。OFACが今回3件のモネロアドレスを制裁リストに加えたことは、こうした匿名性の高いネットワークであっても監視の目を逃れられないという強いメッセージになる。

ステーブルコイン発行体の制裁執行における役割拡大

ステーブルコイン発行体の制裁執行における役割拡大

Chainalysisは今回の事例について、ステーブルコイン発行体が制裁執行において担う役割が拡大していると指摘している。

実際、テザー社は過去にも多数のウォレット凍結を実施してきた。2023年12月には、米国の制裁リストに掲載された個人や団体に関連するウォレットを凍結するため、新たな自主規制ポリシーを導入している。これは、法執行機関からの正式な要請を待たずに、自ら制裁対象を特定して対応する仕組みだ。

この動きは、暗号資産がマネーロンダリングやテロ資金調達に悪用されるリスクを低減する一方で、発行体による「一方的な資産凍結」がプライバシーや検閲耐性を損なうとの議論も引き起こしている。規制対応と非中央集権の理念、この二つのバランスをどう取るかは、業界全体で引き続き問われている課題だ。

ブラジル最大の犯罪組織PCCへの制裁も同時発表

ブラジル最大の犯罪組織PCCへの制裁も同時発表

暗号資産で3,000万ドル超を資金洗浄

OFACはISIS-Kへの制裁と同時に、ブラジルの犯罪組織「PCC(Primeiro Comando da Capital)」に関連するネットワークも制裁対象に加えた。PCCはブラジル最大の犯罪組織で、麻薬密売や武装強盗などを資金源としている。

米財務省の発表によれば、このネットワークは米国内で生じた違法収益3,000万ドル(約45億円)以上を資金洗浄し、暗号資産を使ってブラジルへ送金していた。具体的にどの暗号資産が使われたかは明らかにされていないが、国境を越えた資金移動に暗号資産が選ばれた実態が改めて浮き彫りになった形だ。

国際的な暗号資産規制の加速を示唆

ISIS-KとPCCという地理的にも活動内容も異なる二つの組織を同時に制裁したことは、米国が暗号資産を使った国際的な資金洗浄ネットワークの取り締まりを本格化させていることの表れだろう。

特に中南米の犯罪組織による暗号資産利用は近年急速に拡大している。送金の速さやコストの低さが、従来の地下銀行システムよりも利便性が高いと見られているためだ。国際通貨基金(IMF)も2024年の報告書で、ラテンアメリカにおける暗号資産を使ったマネーロンダリングのリスク増大について警告を発している。

この記事のポイント

  • 米財務省OFACがISIS-K関連の暗号資産アドレス134件を制裁リストに追加、テザー社が対象のトロンウォレット131件を即時凍結した
  • ISIS-Kはメディア部門を通じてトロン、モネロ、ビットコインで寄付を募っており、制裁対象のウォレット群は140万ドル以上を受け取っていた
  • モネロのような匿名性の高いプライバシーコインであっても、法執行機関の追跡対象になり得ることが示された
  • ステーブルコイン発行体の資金凍結は制裁執行の即効性を高める一方、非中央集権の理念とのバランスが課題となっている
  • 同時に発表されたブラジル犯罪組織PCCへの制裁は、暗号資産を使った国際的な資金洗浄への取り締まり強化を示す
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