ESMAがMiCA登録を初更新、スタンダードチャータードが認可取得

ESMAがMiCA登録を初更新、37事業者が新規認可

ESMAがMiCA登録を初更新、37事業者が新規認可

欧州証券市場監督局(ESMA)は2026年7月3日、暗号資産市場規制(MiCA)に基づく登録簿の初回更新を実施した。今回の更新で37の暗号資産サービスプロバイダー(CASP)が新たに認可を受け、EU域内で正式に事業展開できる体制が整った。

MiCAとはEUが2024年に全面施行した包括的な暗号資産規制の枠組みだ。簡単に言えば、暗号資産関連事業者に銀行や証券会社と同じような「営業免許」を求める法律である。この枠組みがなければ、EU域内での暗号資産サービス提供は原則として認められない仕組みになっている。

今回の更新で最も注目を集めたのが、英金融大手スタンダードチャータード銀行の暗号資産関連子会社だ。同行はルクセンブルク経由で登録を完了し、伝統的金融機関による暗号資産市場への本格参入がまた一歩進んだ形となる。

登録簿の更新は2024年12月のMiCA完全施行期限以降、初めての大規模な追加承認となった。EUの暗号資産規制が実務段階に入り、事業者のコンプライアンス対応が着実に進んでいることを示す節目と言える。

国別の認可状況、ドイツが58件で首位を維持

国別の認可状況、ドイツが58件で首位を維持

ESMAの最新登録簿によると、国別のMiCA認可取得数ではドイツの連邦金融監督庁(BaFin)が58件でトップを維持している。キプロス証券取引委員会(CySEC)は今回の更新で合計21件となり、両国がEU域内の暗号資産ハブとしての地位を固めつつある。

この二国体制には明確な理由がある。ドイツは従来から暗号資産規制で先進的な立場を取り、2020年には暗号資産カストディ業務に銀行免許を要求する独自法を施行していた。つまりBaFinはMiCA以前から暗号資産事業者の審査ノウハウを蓄積していたため、新規制への移行がスムーズだったというわけだ。

一方のキプロスは法人税率の低さと金融規制の柔軟性で知られ、多くの国際的なフィンテック企業が拠点を置く。CySECによる認可数の増加は、EU市場へのアクセスを求める事業者がキプロスを玄関口として選好している実態を反映している。

スタンダードチャータードが選んだルクセンブルクの戦略的意義

スタンダードチャータード銀行がルクセンブルク経由でMiCA認可を取得した判断は、金融業界の経験則に照らすと理にかなっている。ルクセンブルクは投資ファンドや資産管理の分野でEU随一の集積地であり、機関投資家向け暗号資産サービスの拠点として自然な選択だったとの見方がある。

同行は2025年から暗号資産カストディ事業を段階的に拡大してきた。機関投資家からの需要増加を背景に、ビットコインやイーサリアムといった主要暗号資産の保管・決済サービスを提供している。MiCA登録の完了により、EU全域でのクロスボーダー展開が規制面で一本化されるメリットは大きい。

伝統的金融機関による暗号資産市場への参入は、2024年のビットコイン現物ETF承認以降加速している。ブラックロックやフィデリティといった資産運用大手に続き、商業銀行レベルのプレイヤーがMiCA認可を取得したことは、業界の成熟度が一段階上がった証左と捉えられる。

未認可事業者リストは162件で据え置き、監視継続の姿勢

未認可事業者リストは162件で据え置き、監視継続の姿勢

今回の登録簿更新では、非準拠事業者(non-compliant entities)リストに変動はなかった。162件のままで推移しており、新たな摘発や警告の追加は報告されていない。

ESMAのこのリストは、適切な登録なしにEU域内で暗号資産サービスを提供していると疑われる事業者を一覧化したものだ。MiCAでは無登録営業に対して厳しい制裁金や事業停止命令が科される可能性がある。リスト掲載は事実上の「警告」であり、投資家保護の観点から重要な機能を果たしている。

注意すべきは、リスト掲載が必ずしも違法行為の確定を意味するわけではないという点だ。規制当局による調査段階の事業者も含まれる。ただ投資家の立場からすれば、このリストに名前のある事業者との取引には慎重になるべきだと言える。

資産参照トークン(ART)の登録は依然ゼロ、発行体不在の背景

もう一つ注目すべき点として、資産参照トークン(ART)の登録簿に変化がなかったことが挙げられる。ARTとは法定通貨やコモディティなど複数の資産に価値を連動させるステーブルコインの一種で、MiCAでは発行体に対して特に厳格な規制を課している。

具体的には、ART発行体には自己資本要件や準備資産の厳格な管理、ホワイトペーパーの承認取得などが求められる。技術的に言えば、USDCやUSDTのような既存のステーブルコインの一部もARTに分類される可能性があるが、2026年7月時点で正式認可を受けた発行体はゼロだ。

この状況から読み取れるのは、規制当局と発行体側の間で依然として調整が続いているという現実だ。特に準備資産の構成や監査の頻度を巡っては、業界団体とESMAの間で意見の相違が残っていると伝えられている。ART市場の本格的な規制下への移行は2026年後半以降にずれ込むとの見方が業界内では有力だ。

2025年の規制変遷と2026年の展望

2025年の規制変遷と2026年の展望

Cointelegraphの特集記事によれば、2025年は暗号資産規制が世界的に大きく進展した年だった。MiCAの完全施行に加え、米国では証券取引委員会(SEC)による執行強化路線が続き、アジアでは香港とシンガポールがライセンス制度を相次いで導入した。

特筆すべきは2025年後半に顕著になった「規制の断片化」への懸念だ。EUが包括的なMiCAで先行する一方、米国は依然として既存の証券法を適用するアプローチを取り、明確な業種別規制の法制化が見送られた。この乖離がグローバルに事業展開する暗号資産企業のコンプライアンス負担を増大させている。

2026年については、国際的な規制調和が主要テーマになるとの見通しが示されている。G20の枠組みで議論されている暗号資産報告フレームワーク(CARF)の導入が2027年に迫っており、各国の税務当局間で取引情報が自動交換される仕組みへの準備が加速する一年になる。

日本への示唆、MiCA登録でEU市場参入のハードルは下がったのか

今回のESMA登録簿更新は、日本の暗号資産事業者にとっても無関係ではない。MiCAはEU域外の事業者に対しても、EU居住者向けにサービスを提供する場合には登録を義務付けている。日本で金融庁の登録を受けている取引所であっても、欧州市場に進出するには別途MiCA認可が必要だ。

実務上のポイントは、一つのEU加盟国で取得したMiCA認可が域内全体で有効(パスポート制度)になる点だ。つまりキプロスやルクセンブルクといった規制対応に積極的な国で最初の認可を取得すれば、ドイツやフランスにも展開できる。この制度は日本の事業者にとって、EU市場参入のコストを大幅に下げる可能性を秘めている。

ただし現実には、AML(アンチマネーロンダリング)対策やデータ保護規制(GDPR)への対応など、クリアすべきハードルは依然として高い。スタンダードチャータードのようなグローバル金融機関とは異なり、リソースの限られた日本のスタートアップにとっては、現地パートナーとの連携が現実的な選択肢になるとの見方がある。

市場関係者の受け止めと今後の注目点

市場関係者の受け止めと今後の注目点

今回の登録更新を受けて、欧州の暗号資産市場ではポジティブな受け止めが広がっている。37事業者の新規認可とスタンダードチャータードの参入は、MiCAが単なる規制の枠組みを超え、市場拡大のインフラとして機能し始めたことを示唆する材料だ。

アナリストの間では、2026年後半から2027年にかけてMiCA認可取得事業者が100件を超えるとの予測も出ている。特に注目されるのは大手暗号資産取引所の認可状況だ。バイナンスやコインベースといった主要取引所がどの加盟国で認可を取得するかは、EU市場の競争環境を大きく左右する要素になる。

短期的な注目点は2つある。一つはART発行体の認可がいつ動き出すか。もう一つは非準拠事業者リストに新たな大手事業者が追加されるかどうかだ。ESMAは2026年後半にも執行措置の強化方針を打ち出す可能性があり、規制対応に出遅れた事業者にとっては正念場が続く。

この記事のポイント

  • ESMAがMiCA登録簿を初めて大規模更新し、37のCASP事業者が新たに認可を取得した
  • ドイツのBaFinが認可数58件で首位、キプロスCySECが21件で追随している
  • スタンダードチャータード銀行がルクセンブルク経由で登録、伝統的金融機関の参入が加速
  • ART発行体の認可は依然ゼロ、非準拠事業者リストは162件で据え置き
  • 日本の暗号資産事業者にとってMiCAはEU市場参入の重要なゲートウェイとなる
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