カザフスタンのトカエフ大統領が7月8日、暗号資産の導入を加速させる大統領令に署名した。同国はビットコインマイニングにおける世界有数のハッシュレートを誇るが、今回の措置はそれを超えてデジタル資産全般の受け入れを目指すものだ。
大統領令の柱は二つある。一つはデータセンターとデジタルマイナーが新設された発電能力の最大70%まで直接アクセスできる「70/30」エネルギーモデルの導入。もう一つはトークン化された金融商品の開発と国家レベルの取引インフラ整備だ。
中央アジアのこの動きは、国際的な暗号資産企業の投資先として同地域が急速に存在感を増している流れをさらに加速させる可能性がある。規制の明確化によって、これまでグレーゾーンで活動していた事業者が合法的に参入できる道を開くからだ。
データセンターとマイナーに朗報、新「70/30」エネルギーモデルとは

カザフスタン政府が導入した「70/30」エネルギーモデルは、データセンターとデジタルマイナーによる電力調達の仕組みを抜本的に変える制度だ。カザフスタンデジタル開発・イノベーション・航空宇宙産業省(MAIDD)の発表によれば、インフラ整備で新たに生み出された発電能力の最大70%に、これらの事業者が直接アクセスできるようになる。
従来、カザフスタンのマイナーは国の電力網から供給を受ける形が一般的だった。しかしこの手法では、一般家庭や他産業との電力の奪い合いが発生し、需要が逼迫する冬季にはマイニング事業への電力供給が制限されるケースが頻発していたのだ。
新モデルでは、発電事業者が送電網を経由せずにデータセンターやマイナーへ直接電力を販売できる契約形態を認めることになる。これは発電事業者にとって大口の安定顧客を確保できるメリットがあり、マイナー側から見ても電力調達の安定性とコスト予見性が格段に高まる。
なぜこのタイミングでエネルギー改革が必要だったのか
カザフスタンは2021年の中国によるマイニング禁止措置を受けて、ビットコインマイニング事業者の主要な移転先となった経緯を持つ。ケンブリッジ大学オルタナティブファイナンスセンター(CCAF)の2022年データでは、同国は推定ハッシュレートで世界第3位にランクインしている。
ハッシュレートとは、ビットコインなどのPoW(プルーフ・オブ・ワーク)型暗号資産におけるマイニングの計算処理速度を示す指標だ。これが高いほど多くの計算資源がネットワークに投入されていることを意味し、国別のシェアはそのままマイニング事業の集積度を反映する。
急激なマイニング事業者の流入は、カザフスタンの老朽化した電力インフラに大きな負荷をかけた。2022年から2023年にかけては計画停電が相次ぎ、政府は無許可マイニング事業者の取り締まりと、認可事業者への電力割当制度を導入している。今回の「70/30」モデルは、こうしたエネルギー需給のひっ迫を構造的に解決しようとする試みと捉えられる。
トークン化金融商品と国家取引インフラの青写真

大統領令のもう一つの柱は、トークン化された金融商品の開発と、それらを取引するための国家インフラ整備だ。現時点では具体的な商品設計やタイムラインは明らかにされていないが、同国がデジタル資産を単なるマイニングの場所以上の存在に格上げしようとする意図が読み取れる。
トークン化とは、不動産や株式、債券といった現実の資産をブロックチェーン上でデジタルトークンとして表現する技術を指す。これによって、従来は大口投資家しかアクセスできなかった資産クラスを小口化し、より多くの投資家が参加できるようになる。たとえば、1億円の不動産を1万トークンに分割すれば、1トークンあたり1万円から投資できるイメージだ。
MAIDD大臣が語る「グローバル資本の誘致」戦略
MAIDDのジャスラン・マディエフ大臣は今回の発表で「我々の目標は、カザフスタンをグローバルな資本と専門知識の誘致拠点にすることだ。同時に、この市場に参加するすべての人に最大限の透明性と保護を提供する」と述べている。
このコメントから読み取れるのは、単なる規制緩和ではないという点だ。投資家保護と市場の透明性をセットで強化することで、合法的かつ信頼できるデジタル資産市場を国家主導で育成する方向性が見える。
Cointelegraphの記事によれば、この大統領令には中央アジアの国としてデジタル資産投資を積極的に呼び込む狙いが明記されている。過去に同国が示してきた暗号資産マイニングへの寛容な姿勢を、より広範なフィンテック領域に拡大する動きといえる。
鉱業大国からデジタル資産ハブへの転換

カザフスタンの暗号資産政策は、これまでビットコインマイニングという川上の産業に偏重していた。今回の大統領令は、トークン化金融商品や取引インフラといった川下領域への拡張を明確に打ち出した点で、政策の転換点として位置づけられる。
エネルギー資源が豊富で電気料金が比較的安いという同国の優位性は、マイニングだけでなくデータセンター全般の誘致競争でも武器になる。AI(人工知能)の普及でデータセンター需要が世界的に急増する中、この「70/30」モデルは暗号資産マイニング以外のハイテク産業にも適用可能な枠組みだ。
さらに興味深いのは、Solana Companyがカザフスタンの60億ドル規模の暗号資産巨大都市構想を支援すると報じられている点だ。国を挙げてフィジカルなインフラとデジタル資産エコシステムの両面を整備しようとする動きは、中東のUAEやバーレーンが先行する「暗号資産ハブ」競争に中央アジアから名乗りを上げる格好となっている。
国際競争の中でのカザフスタンの立ち位置
アジアの暗号資産ハブをめぐっては、ドバイが先行している。規制の明確さと税制優遇措置を武器に、BinanceやBybitなど大手取引所が拠点を構えているのは周知の事実だ。またCointelegraphのマガジン記事では、台湾が包括的な暗号資産法を可決したことも報じられている。
カザフスタンの差別化要因は、何といっても豊富なエネルギー資源と既存のマイニング事業者の集積だ。トークン化金融商品の開発に成功すれば、「エネルギーの安さ」と「規制の明確さ」に加えて「国内に流動性のある取引市場」という三つ目の誘因を提示できる。これは他のハブ候補国にはない組み合わせである。
この記事のポイント
- カザフスタンのトカエフ大統領が暗号資産導入加速の大統領令に署名、マイニング偏重からデジタル資産全般へ政策転換
- 新「70/30」エネルギーモデルでデータセンターが新設発電能力の最大70%に直接アクセス可能に
- トークン化金融商品と国家取引インフラの整備により、グローバル資本の誘致を本格化
- 豊富なエネルギー資源と規制明確化を武器に、中央アジア発の暗号資産ハブを狙う戦略が浮き彫りに

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
