ブラックロック、ゴールドマンら54社が参加、英国がトークン化タスクフォースを始動

英国政府が金融市場のトークン化を本格的に推進するため、ブラックロックやゴールドマン・サックス、JPモルガンといった世界的金融機関を含む54社と共同タスクフォースを立ち上げた。

このタスクフォースは向こう1年をかけ、英国の金融市場全体でトークン化の実証実験に取り組む。初手として国債を裏付けとするトークン化レポ取引に焦点を当てる方針だ。

これは暗号資産業界にとどまらず、国際金融の基盤そのものを変えうる動きである。ロンドンが国際金融センターとしての地位を維持し続けるための、国家を挙げた戦略的賭けとも言える。

英国政府が54社とタスクフォースを始動、参加企業の顔ぶれ

英国政府が54社とタスクフォースを始動、参加企業の顔ぶれ

今回の取り組みは、英国大蔵省(HM Treasury)の「ホールセール・デジタル市場チャンピオン」に任命されたクリス・ウーラード氏が主導する。同氏は過去8年間、英国の金融行動監視機構(FCA)の議長を務めた規制の重鎮だ。

タスクフォースには、ブラックロック、ゴールドマン・サックス、HSBC、JPモルガン、モルガン・スタンレー、UBSといった名だたる金融機関が名を連ねている。さらに、ロンドン金融街を統括するシティ・オブ・ロンドン公社がこの活動を後押しする。

ここで言う「トークン化」とは、国債や株式、不動産といった実世界の資産(RWA、Real World Assets)を、ブロックチェーン上で管理・取引できるデジタルなトークンに変換する技術を指す。伝統的に手続きが複雑で時間のかかる資産取引を、インターネット上で瞬時に行えるようにする技術基盤と考えればわかりやすい。

英国がトークン化で金融ハブの地位を固める狙い

英国がトークン化で金融ハブの地位を固める狙い

国家戦略としての「デジタル国債(DIGIT)」構想

今回の計画で最も注目を集めているのが、英国政府が自国債を分散型台帳技術(DLT)上で発行する「DIGIT」構想へのコミットメントだ。DLTとは、特定の管理者を置かずに複数の参加者でデータを共有・管理する技術で、ブロックチェーンはその代表例である。

中央銀行や政府系シンクタンクの独立系調査機関OMFIFのデジタル通貨研究所のジョン・オーチャード所長はCoinDeskの記事で、この点を欧州や米国との「最も重要かつ興味深い違い」だと指摘している。

政府が発行するデジタル国債が市場に存在すれば、それは極めて安全性の高い「高品質な安全資産」として機能する。これが核となり、大規模なホールセール資本市場をブロックチェーン上に構築していくための土台となる。オーチャード氏は「これは極めて意義深く、実用的な一歩だ」と評価する。

市場規模は2035年までに最大88兆ドルへ

トークン化された実世界資産(RWA)の市場は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の試算によれば、2035年までに最大88兆ドルに達する可能性がある。これは、現在の暗号資産とステーブルコインの市場規模約3兆ドルをはるかに凌駕する数字だ。

つまり、この分野はまだ黎明期にあり、先行者利益が極めて大きい。英国政府が国家戦略としてこの分野に乗り出す背景には、この巨大な市場の覇権争いで後れを取りたくないという危機感がある。

トークン化が金融市場にもたらす経済効果

トークン化が金融市場にもたらす経済効果

生産性向上と税収増の具体的試算

ウーラード氏の報告書は、トークン化によって生み出される具体的な経済効果にも踏み込んでいる。それによると、2035年までに年間の経済生産高が最大330億ポンド増加し、税収も年間140億ポンド押し上げられる可能性があるという。

こうした生産性向上の主な要因は、取引の即時決済化や仲介コストの大幅削減にある。ロンドンのような国際的なトレーディングセンターにとって、この効率化は競争力を左右する死活問題となりつつある。

「ネットワークゲーム」という認識

ウーラード氏は報告書の中で、トークン化市場を「ネットワークゲーム」だと強調している。ネットワークゲームとは、参加者が増えるほど市場全体の価値や利便性が高まる性質を指し、ソーシャルメディアの普及と同じ力学で動く。

重要なのは、このゲームにおける英国の居場所が「保証されたものではない」という点だ。ウーラード氏は「このゲームは競争であり、英国が国際市場のルール形成に関与し続けたいのであれば、最も俊敏なプレイヤーと同等のスピードで動く必要がある」と警告している。

欧州・米国との開発競争に打ち勝てるか

欧州・米国との開発競争に打ち勝てるか

英国だけがこの分野で動いているわけではない。OMFIFのオーチャード氏によれば、欧州中央銀行(ECB)も「ポンテス(Pontes)」と呼ばれる同等のプログラムを進めており、2027年第4四半期に稼働予定だという。

また、今回の報告書は、イングランド銀行が2028年に既存の大口資金決済システム(RTGS)とブロックチェーン上の証券を同期させる実証実験の実施を示唆している。RTGSとは、金融機関間の大口資金の送金を即時に完了させる仕組みであり、いわば金融システムの心臓部だ。

一方、米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行禁止といった政治的制約もあり、この分野での動きには細心の注意を払わざるを得ない状況にある。これにより、英国と欧州が一時的にリードを奪う可能性も出てきている。

課題は決済網と複数ネットワーク間の相互運用性

課題は決済網と複数ネットワーク間の相互運用性

とはいえ、トークン化市場の構築には大きな技術的ハードルも残る。バンキング・サークルのチーフ・デジタル・アセット・オフィサーであるキリット・バティア氏は、最大の課題のひとつとして「相互運用性」の問題を挙げている。

トークン化された資産が真に機能するには、資金調達、決済、担保としての移動が、異なるブロックチェーンネットワーク間でもシームレスに行える必要がある。バティア氏は「トークン化市場には、リアルタイム決済やクロスボーダー送金、複数の規制された通貨形態、そしてステーブルコイン、トークン化預金、既存の法定通貨インフラ間の相互運用性を支える決済インフラが不可欠だ」と指摘する。

こうした新たな配管がなければ、デジタル資産の表層的な取引速度は上がっても、結局は後ろ盾となる旧来の金融インフラがボトルネックになりかねない。これこそが、国家規模の実証実験が必要とされる最大の理由といえる。

この記事のポイント

  • 英政府はブラックロックなど金融大手54社とタスクフォースを組み、向こう1年でトークン化の実証実験を開始する
  • 最大の焦点は政府自らがデジタル国債(DIGIT)を発行し、安全な基軸資産として市場を育成する戦略だ
  • トークン化された実物資産(RWA)市場は2035年までに最大88兆ドルに達すると試算されており、国家間の主導権争いが激化している
  • 物流ならぬ「金融の配管」とも言うべき決済インフラとネットワーク間の相互運用性の確保が、実用化に向けた最大の課題となる
共有:

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)