TetherのUSDT、米国取扱いに2年の猶予。GENIUS法で迫られる大改革

米国のステーブルコイン規制法「GENIUS法」が、成立から1年の節目を迎えた。この法律により、世界最大のステーブルコインであるTetherのUSDTは、米国市場での存続をかけた2年間の猶予期間に入っている。

Tetherのパオロ・アルドイノCEOは1年前、GENIUS法への準拠を約束した。しかし規制当局による具体的なルール作りが遅れるなか、USDTの準備資産構成や発行体の所在地など、解決すべき課題は山積している。この記事では、GENIUS法がTetherに突きつける現実と、市場への影響を整理する。

GENIUS法とは何か、なぜ重要なのか

GENIUS法とは何か、なぜ重要なのか

ステーブルコインを連邦規制下に置く初の法律

GENIUS法とは、2025年7月にドナルド・トランプ大統領の署名で成立した「米国ステーブルコインのための国家革新の指導と確立法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)」の略称だ。暗号資産市場で初めて、連邦レベルでの包括的な規制枠組みを定めた法律でもある。

ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動するよう設計された暗号資産だ。価格変動の激しいビットコインなどと異なり、送金や決済の手段として実用性が高い。代表的なものにTetherのUSDT(時価総額が業界最大)や、サークル社のUSDCがある。

GENIUS法の核心は、ステーブルコインの発行体に対して、銀行に近いレベルの厳格な規制を課す点にある。具体的には、準備資産を「現金および米国債」のような最も流動性が高く安全な資産で保有することや、通貨監督庁(OCC)への登録が求められる。

発行体に求められる3つの大きな変更点

CoinDeskの記事によれば、Tetherが米国でUSDTの取扱いを継続するためには、少なくとも以下の3つの条件をクリアする必要がある。

  • 準備資産の組み換え:現状、USDTの準備資産には貴金属や融資、ビットコイン(BTC)など、GENIUS法の基準を満たさない資産が最大で約4分の1含まれているとされる。これらを現金や米国債に置き換える必要がある。
  • OCCへの登録:連邦銀行規制当局であるOCCに発行体として登録し、その監督下に入ること。法律専門家はこれを「多大な労力を要する取り組み(significant undertaking)」と指摘している。
  • 不正資金の凍結・差し押さえ対応:法律違反が疑われるアドレス上の資金を、当局の要請に応じて凍結・差し押さえる仕組みの実装が求められる。

「非準拠のステーブルコイン」に残された時間

「非準拠のステーブルコイン」に残された時間

2028年7月までの猶予期間、しかし解釈にズレも

GENIUS法は、施行から3年間の「セーフハーバー(安全な避難所)」と呼ばれる移行期間を設けている。つまり、2028年7月18日までに基準を満たせば、それまでは米国の取引所で取り扱い続けられるというのが大原則だ。

しかしここに解釈の分かれ目がある。この3年の猶予が、海外の発行体にも等しく適用されるのか、という点だ。

法律事務所Davis Polkの弁護士ジャスティン・レバイン氏はCoinDeskに対し、「海外発行体は法律の発効後すぐに違法資金の凍結・差し押さえ命令に従う必要があるが、OCC登録を含む追加要件については約2年の準備期間がある」との見解を示している。

一方で、大手法律事務所ポール・ヘイスティングスが昨年公表した分析では、国内外の発行体で異なる期限が設定されていると解釈されていた。同社は最近この見解をウェブサイトから削除しており、見方は一枚岩ではない。海外発行体は法律が正式に施行される可能性がある2027年1月から、即座に全面準拠を求められるという厳しい見方も存在するのだ。

規制当局のルール策定は遅延、不確実性が課題に

事態をさらに複雑にしているのが、規制当局側の準備不足だ。GENIUS法の成立から1年が経過したが、OCCをはじめとする連邦金融規制当局のいずれも、最終的な実施規則をまだ策定し終えていない。

つまり、企業は「今後準拠すべきルール」の詳細が固まっていない状態で、戦略を練らねばならないという逆説的な状況にある。コンサルティング会社FS Vectorのマネージング・プリンシパル、トレバー・タニファム氏は、リスク許容度の低い小規模な取引プラットフォームは、面倒を避けるために早々と特定のステーブルコインの取扱いを中止するだろうと予想する。

対照的に、強力な法務部門を持つ大企業は、「誰かが玄関まで来て非米国発行体のトークンを上場廃止しろと強制するまで、弁護士とロビイストにカネを払い続ける」という立場を取り得ると、タニファム氏は指摘する。過去の暗号資産を巡る規制の節目で見られたのと同じ構図が、ここでも繰り返される可能性が高い。

Tetherの戦略、沈黙と布石

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アルドイノCEOの「準拠」宣言から1年

CoinDeskの記事によれば、Tetherのパオロ・アルドイノCEOは1年前、GENIUS法署名の直後にホワイトハウスで「TetherはGENIUS法に準拠する」と明言していた。その際、米国市場向けに特化した別トークンを発行する意向も示しつつ、主力のUSDTも海外発行体向けの基準を満たすよう運用すると述べたという。

しかし、CoinDeskが最近のコンプライアンス状況について複数回の問い合わせを行ったところ、エルサルバドルに拠点を置くTetherからは何の回答も得られなかった。

競合サークルは先行、勢力図は塗り替わるか

この規制の動きを追い風にしようとしているのが、Tetherの最大のライバルであるサークル社だ。同社は米国拠点という地の利もあり、GENIUS法の要求事項への「事前準拠(pre-comply)」をより積極的に進めているように見える。

業界では現在、TetherのUSDTとサークルのUSDCが市場シェアを二分している。トランプ大統領が関係するワールド・リバティ・フィナンシャルなど他の発行体も存在するが、現状は遠く及ばない3位争いを繰り広げている状況だ。

しかし、法制化から2年後、この勢力図がどう変わるかは誰にもわからない。CoinDeskによれば、6月の中央集権型取引所(CEX)の取引高は5カ月ぶりに増加に転じ、現物取引は15.3%増の1兆1100億ドルに達した。また、実世界資産(RWA)の無期限先物取引高は過去最高の3110億ドルに急増している。

ステーブルコインが規制の枠組みに入ることで、この巨大な流動性がどの発行体に集まるかが、今後の業界地図を決定的に左右することになるだろう。

GENIUS法だけでは終わらない、もう一つの重要法案

GENIUS法だけでは終わらない、もう一つの重要法案

最後に、より広い視点でもう一つの重要なピースに触れておきたい。GENIUS法は本来、より包括的な暗号資産市場規制法案である「デジタル資産市場明確化法(Digital Asset Market Clarity Act)」とセットで機能することが期待されていた。

業界のロビー活動は、GENIUS法とこの「クラリティ法」の「ワンツーパンチ」を狙っていた。しかしGENIUS法が1周年を迎えた現在も、クラリティ法は2026年の議会会期の最終盤でなお難航している。この法案が成立すればGENIUS法の文言の一部が修正される可能性もあり、そうなればルールはさらに複雑さを増す。

いずれにせよ、Tether、サークル、その他すべてのステーブルコイン発行体は、数カ月以内に連邦規制の枠組みの中に組み込まれる。そのルールをいかに乗りこなすかが、次のリーダーを決めることになる。

この記事のポイント

  • 米国のステーブルコイン規制法「GENIUS法」が成立から1年を迎え、非準拠の海外発行体は2028年7月までの猶予期間に入った
  • TetherのUSDTは準備資産の約4分の1が基準を満たさず、資産構成の大幅な見直しやOCC登録などのハードルが残る
  • 海外発行体に適用される期限の解釈にはズレがあり、早期の上場廃止リスクを指摘する声もある
  • Tetherは新トークン「USAT」を投入したが利用は低調で、CEOのコンプライアンス宣言から1年が経過しても具体的な進捗は不透明だ
  • 規制の進展は、USDCを発行するサークル社など競合に有利に働き、ステーブルコイン市場の勢力図を塗り替える可能性がある
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