BlackRockがトークン化現金の新商品2種を発表、ステーブルコイン準備資産に照準

世界最大の資産運用会社BlackRockが、トークン化現金の新商品2種を発表した。イーサリアム上で取引可能なマネーマーケットファンドと、日次配当再投資機能を備えたマルチチェーン対応ファンドだ。

いずれも米国のステーブルコイン規制「GENIUS法」に準拠した準備資産として設計されており、機関投資家によるブロックチェーン金融への参入を一層後押しする動きとなる。

伝統的金融の巨人が繰り出す矢継ぎ早のトークン化戦略。今回の発表が暗号資産市場と従来の金融市場の融合に何を意味するのか、詳しく見ていく。

新商品BSTBLとBRSRV、その仕組みと狙い

新商品BSTBLとBRSRV、その仕組みと狙い

BlackRockが8月3日に発表したのは、「BlackRock Select Treasury Based Liquidity Fund(BSTBL)」と「BlackRock Daily Reinvestment Stablecoin Reserve Vehicle(BRSRV)」の2商品だ。いずれも既存のマネーマーケットファンドをブロックチェーン上で取引できるようにする、いわゆるトークン化商品である。

トークン化とは、国債や株式、ファンドといった伝統的な金融資産の所有権をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現する技術のこと。決済時間の短縮や24時間365日の取引、透明性の向上といった利点があるとされる。

BSTBL、既存ファンドのイーサリアム版

BSTBLは、BlackRockが既に運用しているマネーマーケットファンドのトークン化株式クラスだ。基盤となるブロックチェーンにはイーサリアムが採用されている。既存ファンドの実績ある運用ノウハウをそのままに、オンチェーンでの機動的な取引を可能にする設計である。

対象となるのは、BlackRockの中核的な流動性ファンド「BlackRock Select Treasury Based Liquidity Fund」。短期国債を中心とした運用で、元本の安定性と流動性の高さが特徴だ。

BRSRV、日次配当とマルチチェーン対応で差別化

BRSRVは日次での配当再投資機能を備え、複数のブロックチェーンに対応する。従来のマネーマーケットファンドでは配当の受取りと再投資に数日のタイムラグが生じることがあるが、BRSRVではこのプロセスが1日単位で自動化される。資金効率を追求する大口投資家やステーブルコイン発行者にとって、この違いは見過ごせない。

BlackRockの発表によれば、Securitize社がBRSRVのトランスファーエージェントおよびトークン化プロバイダーを務める。Securitizeは、BlackRockが2024年に立ち上げた初のトークン化ファンド「BUIDL」でもパートナーを務めた実績を持つ。

GENIUS法がもたらす追い風、ステーブルコイン準備資産としての適格性

GENIUS法がもたらす追い風、ステーブルコイン準備資産としての適格性

両ファンドの最大の特徴は、米国のステーブルコイン規制枠組み「GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)」の下で、認可された支払い用ステーブルコイン発行者の適格準備資産となることを目的としている点だ。

GENIUS法は、米国で発行されるステーブルコインに対して、準備資産の内容や開示義務を定める法律。簡単に言えば「ステーブルコインの裏付け資産は信頼できる現金同等物でなければならない」というルールだ。この準備資産にマネーマーケットファンドを含めることができれば、発行者にとって運用益を確保しながら規制要件を満たせる大きな選択肢となる。

BlackRockの最高財務責任者(CFO)であるマーティン・スモール氏は、2026年第2四半期の決算説明会で次のように述べている。

「我々は既にCircle社向けに600億ドルの準備金を運用している。これはステーブルコイン市場全体の約3000億ドルのうち、およそ4分の1に相当する。ステーブルコインには多くの成長余地があり、当社は選ばれる準備資産管理者になりたい」

600億ドルという数字は、機関投資家がいかにステーブルコイン市場を巨大な事業機会と見ているかを如実に示している。BlackRockはこの分野で先行者利益を狙っているわけだ。

BUIDLの成功と拡大するトークン化戦略

BUIDLの成功と拡大するトークン化戦略

BlackRockが初めてトークン化ファンド「BUIDL」を立ち上げたのは2024年のことだった。以来、BUIDLの運用資産は約25億ドルにまで成長し、暗号資産市場では融資やレバレッジ取引の担保としても利用されるようになっている。

担保とは、取引相手に対する信用リスクを軽減するために差し入れる資産のことだ。通常は現金や国債が使われるが、BUIDLのようなトークン化されたマネーマーケットファンドは、ブロックチェーン上で瞬時に差し入れと回収ができるため、取引の効率を格段に高められる。

BlackRockのキャッシュマネジメント部門でプロダクトおよびプラットフォームのグローバル責任者を務めるジョン・スティール氏は、次のようにコメントしている。

「ステーブルコインやその他のトークン化金融商品を支える高品質な準備資産への需要が高まる中、これらのファンドは、伝統的市場とデジタル市場の両方でマネーマーケットファンドの投資ソリューションを利用する新たな選択肢を顧客に提供する」

BlackRockのキャッシュマネジメント部門は、企業や銀行、財団、保険会社、公的基金など幅広い顧客向けに約1兆730億ドルの現金戦略を運用している。トークン化商品はこの巨大な運用プラットフォームの延長線上に位置づけられている。

トークン化RWA市場、2030年には5.5兆ドルへ

トークン化RWA市場、2030年には5.5兆ドルへ

BlackRockの今回の発表は、ウォール街全体でトークン化の勢いが加速しているタイミングと重なる。rwa.xyzのデータによれば、トークン化された実物資産(RWA / Real-World Assets)の市場規模は過去1年で200%以上拡大し、300億ドルを超えた。ここでいうRWAとは、国債や社債、不動産、株式など、現実世界に存在する資産をブロックチェーン上にトークン化したもの全般を指す。

さらに、金融大手Citiの予測では、トークン化証券の市場規模は2030年までに5.5兆ドルに到達する可能性があるという。これは現在の暗号資産市場全体の時価総額を大きく上回る数字であり、伝統的金融とブロックチェーン技術の融合がいかに巨大な潮流であるかを物語っている。

BlackRockのCEOであるラリー・フィンク氏は、これまでもトークン化を「金融市場を近代化する手段」として繰り返し称賛してきた。米国のマネーマーケットファンド全体の資産はすでに8.4兆ドルを超えており、ここからトークン化へのシフトが進めば、市場構造そのものが変わる可能性がある。

一方で、GENIUS法をはじめとする規制の整備はまだ途上にある。発行体にとっては準拠すべきルールが固まりつつある段階であり、BlackRockのように規制を見越して商品を投入できる事業者と、後追いにならざるを得ない事業者との差は開いていくだろう。伝統的金融の巨人が暗号資産のインフラに進出することで、業界全体の信頼性と流動性が底上げされる半面、競争環境は一段と厳しさを増すと見られる。

この記事のポイント

  • BlackRockがトークン化現金商品のBSTBLとBRSRVを新たに発表し、機関投資家のオンチェーン移行を加速させている
  • 両ファンドはGENIUS法に準拠したステーブルコイン準備資産として設計され、規制対応の先手を打つ戦略が見える
  • BRSRVは日次配当再投資とマルチチェーン対応を備え、従来ファンドとの差別化を図っている
  • トークン化RWA市場は過去1年で200%以上成長し、Citiの予測では2030年に5.5兆ドル規模へ達する見通し
  • 伝統的金融大手の参入で市場の信頼性が増す一方、規制対応力の差が今後の競争を左右する可能性が高い
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