ロシアのプーチン大統領が8月5日、暗号資産市場の包括的な規制枠組みを定める法律に署名した。国営通信社TASSが伝えた。個人投資家による暗号資産の売買が初めて法的に認められることになる。
この法律は取引所やカストディアン(保管業者)、ブローカー、投資家など市場参加者に関するルールを定める一方、国内での商品やサービスの支払いに暗号資産を使うことは引き続き禁止している。ロシアが国際決済の手段として暗号資産を活用し始めてから約2年、国内規制がようやく整備された形だ。
投資家は「一般」と「適格」に区分、リテール層には年間上限

新法の最大の特徴は、投資家を一般と適格の2つに分け、それぞれに異なるルールを適用する点にある。TASSの報道によれば、一般投資家(リテール層)が購入できるのは流動性の高い暗号資産に限られ、上限額は1業者あたり年間30万ルーブル(約3700ドル)に設定された。
どの暗号資産が「流動性が高い」と見なされるのか、具体的な銘柄は明示されていない。ビットコインやイーサリアムのような時価総額上位の通貨が対象になるとみられるが、当局の判断に委ねられる部分も大きい。
一方、適格投資家には購入制限がかからない。あらゆる暗号資産を、金額の上限なく自由に売買できる。ただし、いずれの投資家も「特別な適合性テスト」に合格する必要がある。一般投資家であっても、過去の暗号資産取引の履歴があれば適格ステータスを取得できる仕組みだ。
つまり、すでに海外取引所などで売買を経験しているロシア人にとっては、国内法の整備によってむしろ投資の自由度が増す可能性がある。一方、まったくの初心者は年間約3700ドルという上限の中で取引を始めることになる。
取引所は特別登録と最低資本金が必須に

暗号資産取引所を運営する事業者に対しては、新たに「特別登録簿」への登録が義務付けられた。最低資本金の要件は1500万ルーブル(約18万5200ドル)だ。さらに、金融市場の自主規制機関への加盟も求められる。
この最低資本金は、伝統的な金融機関と比べれば低めの水準だが、小規模な個人運営の取引所やP2Pプラットフォームにとっては参入障壁になり得る。The Blockの記事でも指摘されているように、既存の取引所には2027年3月1日までの猶予期間が与えられており、この間に登録や資本増強を済ませる必要がある。
法律の施行日は2026年9月1日。ただし、暗号資産の発行や流通に関する一部の規定は2027年9月1日からの施行となる。段階的に規制を整備しながら、市場の混乱を避ける狙いがあるとみられる。
国内決済は禁止継続も、国際貿易での利用は公認

今回の法律でも、ロシア国内で商品やサービスを購入する際の支払いに暗号資産を使うことは認められなかった。暗号資産はあくまで投資対象であり、法定通貨としての地位は与えられない。
ところが、居住者と非居住者の間で行われる外国貿易契約に限っては、クロスボーダー決済に暗号資産を利用できる。これは実質的に、2024年からロシアが進めてきた「国際貿易における暗号資産決済の実験」を法制化したものだ。
ロシアがこの仕組みを急いだ背景には、欧米による経済制裁がある。ロシアの銀行が国際的な決済ネットワークであるSWIFTから排除されて以降、ドルやユーロでの貿易決済が困難になった。そこでビットコインなどの暗号資産が、制裁を迂回するツールとして注目されてきた。
The Blockの記事によれば、ロシア政府は2024年12月にはすでに、国際貿易にビットコインを使い始めていると発表していた。当時のシルアノフ財務相は「外国貿易の決済にビットコインを利用している」と公言し、西側諸国に衝撃を与えた。
この動きはChainalysisの分析とも符合する。Chainalysisは2024年、ロシアが暗号資産インフラを整備しているのは西側の制裁をかわすためだと指摘するレポートを発表している。今回の法整備により、これまでグレーゾーンだった国際決済が法的な裏付けを得たことになる。
ロシア中央銀行が制度設計を主導、マイニング規制も強化

この法律の成立は突然の出来事ではない。ロシア中央銀行が主導する形で、暗号資産市場の「組織的な取引」に関するルール作りが進められてきた。
具体的には、2026年4月に法案が下院(国家ドゥーマ)で第一読会を通過。6月には本会議で可決され、連邦議会の承認を経て、8月5日に大統領の署名に至った。また、ロシア中央銀行は法律成立の直前、7月下旬に取引所とデジタル預託機関に関する初の規制草案を公表している。
一連の流れからは、ロシアが暗号資産を経済運営の選択肢として本格的に取り込もうとしている意思が読み取れる。ただし、それはあくまでコントロールされた環境での話だ。
並行して、ロシア当局は暗号資産のマイニング(採掘)に対する監視も強めている。2026年7月には、モスクワ市とモスクワ州、クルスク州の一部で、同年8月15日から2032年末までマイニングとマイニングプールへの参加を禁止する政令が発令された。電力消費の抑制や冬季の電力不足対策が理由とされているが、無許可のマイニング事業を排除する意図もあるとみられる。
国際社会への影響と今後の注目点

ロシアの今回の動きは、暗号資産の国際的な位置づけにも影響を及ぼし得る。G7諸国が金融制裁を強化する中、制裁対象国のロシアが法的枠組みを整えて暗号資産の利用を拡大すれば、「制裁回避の抜け穴」としての暗号資産への警戒感が一段と強まるかもしれない。
実際、米国やEUではここ数年、ロシアが暗号資産を使って制裁をかわすことへの懸念が高まってきた。2024年以降は、ロシアの取引所アドレスを制裁リストに加える動きや、ミキサー(送金経路を不明瞭にするサービス)への規制強化が進んでいる。
今後の注目点は3つある。第1に、9月の法律施行後にどれだけの取引所が登録し、実際にリテール取引が始まるかだ。第2に、クロスボーダー決済の規模がどこまで拡大するか。そして第3に、米欧が対抗措置としてどのような追加制裁を打ち出すかである。
The Blockの記事はまた、ロシア国内での暗号資産の支払い利用禁止が維持されたことを強調している。これは、国内経済のルーブル依存を揺るがさないための措置だ。ロシア政府にとって暗号資産は、あくまで外貨獲得と制裁回避のツールであり、国内の決済手段として普及させる意図はないというスタンスが鮮明になった形だ。
この記事のポイント
- ロシアのプーチン大統領が暗号資産市場の規制法に署名、2026年9月1日施行へ
- 個人投資家は年間30万ルーブル(約3700ドル)まで購入可能、適格投資家は無制限
- 国内での支払い利用は禁止継続、国際貿易でのクロスボーダー決済は合法化
- 取引所は登録制となり最低資本金1500万ルーブル(約18万5200ドル)が必須
- 並行してマイニング規制も強化、モスクワ州などで2032年末まで禁止

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