実世界資産(RWA)のトークン化を手がけるOndo Financeで、創業者ナタン・オールマン氏の死去をきっかけに、経営権をめぐる深刻な法廷闘争が発生した。デラウェア州衡平法裁判所に提出された複数の文書によれば、遺産を管理する母キャスリーン・オールマン氏が、元社長で現最高経営責任者(CEO)のイアン・デ・ボード氏を相手取り、会社の支配権の確定を求めている。
暗号資産プロジェクトの中でも特に創業者の株式や議決権が集中する傾向がある中、突然の死去に伴う相続手続きの空白期間を突いた支配権争いは異例だ。この訴訟は、分散型金融(DeFi)屈指のRWAプレイヤーであるOndoの将来だけでなく、ベンチャー企業の後継者計画の在り方にも一石を投じることになる。
Ondo Financeとは?トークン化RWA市場のリーダー

Ondo Financeは、米国債やマネーマーケットファンドといった伝統的な金融商品をブロックチェーン上でトークン化し、誰でも少額からアクセスできるようにするプロジェクトだ。たとえば、これまで機関投資家向けだった短期国債に、暗号資産ウォレットを通じて投資できる仕組みを提供している。
いわゆる「トークン化RWA」分野の代表格であり、DeFiの流動性を取り込みながら、現実の資産をオンチェーンに載せる橋渡し役として急速に存在感を高めてきた。こうしたビジネスモデルを支える法的主体は、米国デラウェア州で設立された伝統的な株式会社だ。
RWAトークン化の先駆者
Ondoが発行する代表商品には、米国債に裏付けられたOUSGや、利回りを生むステーブルコイン代替のUSDYなどがある。これらは、DeFiプロトコルの中で担保として使われたり、分散型取引所で取引されたりと、既存の暗号資産経済と密接に結びついている。
創業者のナタン・オールマン氏は、ゴールドマン・サックス出身の経歴を持ち、RWA市場の開拓に強いリーダーシップを発揮してきた。Ondoの成長とともに、同氏はCEO、唯一の取締役、そして議決権の過半数を握る支配株主という三役を兼ねており、事実上すべての重要決定を動かせる立場にあった。
ガバナンス構造と創業者の支配力
Ondoが発行するガバナンストークン「ONDO」も存在するが、トークン保有者が直接的に会社の経営陣を選んだり、事業方針を左右したりする仕組みは極めて限定的だ。実質的な支配権は、デラウェア州法に基づく株式会社の株式と取締役会に集中している。
つまり、Ondoのような暗号資産プロジェクトであっても、根っこの部分は伝統的なコーポレートガバナンスで動いており、創業者の一存が会社の進路を決める構造だった。この点が、今回の経営権争いを複雑かつ深刻なものにしている。
創業者ナタン・オールマン氏の死去と凍結された議決権

問題の発端は2026年5月、ナタン・オールマン氏が急逝したことにある。死因や同氏が保有していた議決権の正確な割合は裁判書類でも黒塗りされているが、遺産として相続手続きの対象になった点が混乱を招いた。
死去直後の空白期間
オールマン氏が亡くなった時点で、OndoのCEO兼唯一の取締役という地位と、それに付随する議決権は自動的に遺産に移った。しかし、遺産管理人が正式に選任されるまでは、誰もその議決権を行使できない状態だった。
この空白期間は約1か月にわたった。この間、会社の経営にあたって重要な判断を下せる正統な権限者が事実上存在しないという、ベンチャー企業にとって致命的な状況が続くことになる。
ハワイ州の検認手続き
オールマン氏の母であるキャスリーン・オールマン氏は、ハワイ州で遺産の検認手続きを進め、2026年6月26日に正式な遺言執行者(パーソナル・レプレゼンタティブ)として任命された。この時点で初めて、凍結されていたオールマン氏の議決権を動かせるようになった。
しかし、任命までの1か月間に、Ondo社内では別の動きが進んでいた。それが、イアン・デ・ボード氏による一連の企業行動だ。
デ・ボード氏のCEO就任と一連の企業行動

訴状によると、デ・ボード氏は、オールマン氏の死去直後からOndoの社内規程(バイローズ)に基づき、自身が自動的にCEOに就任したと主張し始めた。そして、単独取締役への就任、アドバイザーの雇用、業績連動型の報酬付与、新たな取締役の追加など、会社の根幹に関わる決定を次々と実行した。
バイローズに基づく主張
デ・ボード氏の主張のカギは、バイローズの解釈にある。同氏は「CEOが空席になった場合、社長であった自分が自動的にその後任となる」との規定が存在すると述べ、権限の正当性を訴えている。実際、2026年5月には同氏がCEOに就任したことを公式にX(旧Twitter)でアナウンスする投稿も行われた。
さらに、デ・ボード氏は議決権に関する取り決めを用いて自らを単独取締役に選任し、一人で経営のかじ取りを進めた。これにより、外部の専門家の起用や新たなインセンティブプランの承認など、通常なら取締役会の承認を得るべき事項も独断で進められる状態になった。
遺産側の反論
一方、キャスリーン・オールマン氏側は、バイローズの文言を読み解けばCEOの後任には取締役会による正式な任命が必要であり、デ・ボード氏の一連の行動は法的に無効だと主張している。つまり、正規の取締役会決議を経ていない以上、一方的なCEO就任も取締役の選任もすべて根拠を欠くというロジックだ。
この対立構造は、単なる人事抗争ではなく、会社の法的支配権そのものが宙に浮いている状況を意味している。
キャスリーン・オールマン氏の対応と取締役会再編

遺産管理人として議決権を行使できるようになったキャスリーン・オールマン氏は、当初から強硬策に出たわけではない。裁判書類によれば、彼女は協調的な権限移行を図った。
当初の協調路線と拒絶
具体的には、まず自らを取締役に選任し、事業の継続を認める暫定方針を採択した後、デ・ボード氏を社長として再確認した。さらに、株主名簿などの基本的な企業情報を要求し、共に働く意思を示したという。
ところが、デ・ボード氏とOndoの社外弁護士は、キャスリーン・オールマン氏のこうした行為を一切認めず、要求された企業記録の提供も拒否した。これにより協調は完全に破綻し、遺産側はより直接的な対応に踏み切ることになる。
デ・ボード氏排除と暫定CEO就任
キャスリーン・オールマン氏は取締役会を拡大し、新たな取締役を任命した。そして2026年7月24日の取締役会で、デ・ボード氏をすべての会社役職から解任する決議を可決。自らは取締役会長と暫定CEOに就任した。
この一連の措置は、あくまで暫定的なものだと位置づけられている。訴状には、キャスリーン・オールマン氏の目的は、取締役会がナタン・オールマン氏の後継者を正式に探す間、ガバナンスを安定させ、事業を滞りなく続けることだと記されている。
訴訟の争点と業界への示唆

現在、デラウェア州衡平法裁判所には、Ondoの法的支配権を誰が握るのかを決定し、ガバナンス紛争が解決するまで異例の企業行動を差し止めるよう求める申し立てが出ている。遺産側は迅速な判断を求めており、支配権の不確実性が契約や支出、株式発行などに影響を与えかねないと警鐘を鳴らしている。
デラウェア州裁判所での攻防
デ・ボード氏はCoinDeskの取材に対し、「キャスリーン・オールマン氏の訴訟提起は遺憾であり、会社、株主、チーム、Ondoエコシステムの利益に反する」とコメント。さらに「彼女の主張には根拠がなく、法廷で明らかになる」とも述べ、主要投資家やOndo財団を含むステークホルダーの支持を得ていると強調した。
一方、Ondo取締役会は別の声明で、「創業者ネイト・オールマンの『オンチェーン市場こそ金融の未来』という信念に引き続きコミットしている」と表明。後継者探しを進めつつも、事業運営に支障はないとの姿勢を示している。裁判所はまだ申し立ての内容について判断を下しておらず、提出されているのは現時点で遺産側の主張のみだ。
後継者計画の重要性
今回の騒動は、暗号資産プロジェクトにおける後継者計画(サクセッションプラン)の不在が、どれほど深刻なガバナンス危機を招くかをまざまざと見せつけている。Ondoのように創業者が議決権を圧倒的に握る構造はスタートアップでは珍しくないが、万が一の際に誰がどう権限を引き継ぐのかを明確に定めておかなければ、経営の空白期間に思わぬ混乱が起きる。
また、トークン化RWAというイノベーティブな領域であるからこそ、今回の法廷闘争は市場の信頼を揺るがすリスクもはらむ。Ondoは今週、ブロックチェーン・ドットコムの元CFOアダム・シュリスマン氏を最高財務責任者に迎えたことを発表しており、事業の継続性をアピールしている。しかし、経営権をめぐる不透明感が長引けば、機関投資家の資金流入やパートナーシップにも影を落としかねない。
この記事のポイント
- Ondo Financeで創業者死去を契機に、遺族と前社長の間で経営権争いが発生し、デラウェア州で訴訟に発展した。
- 死去後の遺産検認期間中に凍結された議決権をめぐり、前社長がCEO就任と取締役会掌握を強行した一方、遺産側はこれを無効と主張している。
- 遺産管理人の母は協調を試みたが拒否され、最終的に取締役会を再編して前社長を解任、自ら暫定CEOに就任した。
- 暗号資産プロジェクトでも伝統的な株式会社ガバナンスが支配権の要であり、創業者の後継者計画の不在が致命的な混乱を招く教訓となった。

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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