米司法省、Xinbi関連で暗号資産5,200万ドル超を差し押さえ

米司法省は9月10日、東南アジアの詐欺マーケットプレイス「Xinbi」に関連する暗号資産5,200万ドル超を差し押さえたと発表した。米財務省外国資産管理局(OFAC)も同日、Xinbiを国際的な犯罪組織に指定し、関連企業2社に制裁を科している。

Xinbiは2022年頃から、暗号資産と法定通貨を合わせて総額240億ドル以上を処理してきたとされる。今回の措置は、詐欺集団の資金洗浄を支えるインフラそのものを標的にした点で、個別の詐欺業者を追う従来の執行とは性格が異なる。

この記事では、米政府が動いた背景、制裁の対象となった関連企業の役割、そして暗号資産業界への影響を整理する。

米司法省、XinbiのTelegramとウォレットを差し押さえ

米司法省、XinbiのTelegramとウォレットを差し押さえ

米司法省の詐欺センター特別対策部隊(Scam Center Strike Force)は、Xinbiが業者からの支払い回収に使っていたウォレット2つを差し押さえた。この中には約1,200万ドル相当の暗号資産が含まれていたという。

さらに法執行機関は、Xinbiのネットワークで資金洗浄に関わったとみられる47のウォレットについても凍結を求めた。差し押さえと凍結の合計は5,200万ドル超に達する。

ワシントンD.C.連邦地裁は9月7日、Xinbiのマーケットプレイスが運営されていたTelegramチャンネルの差し押さえも承認した。公開された令状によると、業者たちはこのチャンネルで資金洗浄サービスや偽の投資サイト制作、東南アジアの詐欺拠点向けの人材募集サービスを宣伝していた。

今回の作戦が狙ったのは、詐欺産業を支える金融と通信の両インフラだ。個々の詐欺業者だけでなく、その業者たちが集まる「場所」そのものを閉鎖する点が新しい。

Xinbiとは何か、詐欺産業を支える「インフラ」の正体

Xinbiとは何か、詐欺産業を支える「インフラ」の正体

Xinbiは、詐欺に関わる様々なサービスを仲介するマーケットプレイスだ。資金洗浄、フェイク投資サイトの制作、詐欺拠点で働く人材の募集といった「犯罪の部品」を売買する場所である。

こうしたマーケットプレイスが注目されるようになったのは、巨大な詐欺経済圏が東南アジアで急速に拡大したことが背景にある。カンボジアやミャンマーなどの詐欺拠点では、強制的に働かされる被害者が偽の投資サイトや恋愛詐欺を運営している。この産業を支える金融・通信インフラを提供するのが、Xinbiのような存在だ。

米財務省によると、Xinbiのプラットフォームは北朝鮮のハッカー集団や、制裁対象であるPrince Groupと関係する組織にも利用されてきた。単なる詐欺ツールではなく、国家規模の脅威に接続するハブとして機能していたことになる。

Huioneの後釜として成長

ブロックチェーン分析企業TRM Labsのグローバル政策責任者アリ・レッドボード氏はCointelegraphの取材に対し、次のように説明した。

「Huioneが崩壊した後、Xinbiが東南アジアの詐欺拠点向けのエスクロー(第三者預かり)と現金化の層として定着し、産業規模で360億ドル超を動かした」

Huioneもまた、東南アジアの詐欺産業を支えたマーケットプレイスだ。当局の取り締まりで機能が縮小した後、その需要をXinbiが吸収した構図になる。つまり、一つのプラットフォームを潰しても、稼働中の詐欺産業が次の受け皿を見つけるだけだという課題が浮き彫りになる。

OFACが制裁した2社、SafeWとAnwenの役割

OFACが制裁した2社、SafeWとAnwenの役割

OFACはXinbi本体に加えて、シンガポール拠点のSafeW Technologyとカンボジア拠点のAnwen Technologyも制裁対象に指定した。OFACは、テロや国際犯罪に関わる個人・組織の米国内資産を凍結する権限を持つ機関である。

SafeWはXinbiに暗号化メッセージアプリを提供した企業だ。米財務省によると、法執行機関の監視が強まった2025年6月頃から、Xinbiは業者や資金洗浄ネットワークをSafeWのアプリに移していた。摘発を逃れるための「引っ越し」に使われたわけだ。

Anwen Technologyは、Xinbiが使う暗号資産ウォレット兼決済アプリ「XinbiPay(別名NewPay)」を開発したとされる。マーケットプレイスで取引される資金の受け渡しを担う、いわばレジ機能の提供者だった。

制裁の効力は、米国内にあるXinbi関連の資産凍結と、米国人・米国企業による指定事業体との取引禁止だ。米ドル建ての金融システムから遮断することで、資金の流れを止める狙いがある。

テザー社の協力と、制裁の実効性をどう評価するか

テザー社の協力と、制裁の実効性をどう評価するか

米司法省は、ステーブルコイン発行企業テザーが今回の捜査に協力したと明らかにした。テザーは世界最大のステーブルコインUSDTを発行しており、詐欺産業でも広く使われてきた経緯がある。

ステーブルコインは価格が米ドルに連動する暗号資産だ。送金の速さと安さから、合法的な取引でも犯罪的な送金でも利用される。テザーはこれまでも法執行機関と協力して不正なウォレットの凍結を進めてきたが、司法省の公式発表で協力が明記された点は注目に値する。

とはいえ、Xinbiのようなマーケットプレイスが生まれる構造そのものは変わらない。一つのプラットフォームを潰せば、別のプラットフォームが現れる「モグラ叩き」の側面があることを指摘しておくべきだ。

英国は今年3月26日にXinbiへの制裁を発表済みだ。資産凍結や金融ネットワークからの排除が行われたが、XinbiはSafeWのアプリへ移行して活動を続けていた。単独国の措置には限界があり、今回の米英共同の動きはその穴を埋める試みと言える。

今回の執行で評価できるのは、通信インフラと決済インフラの両方を同時に叩いた点だ。Telegramチャンネルを差し押さえ、ウォレットを凍結し、暗号化メッセージアプリと決済アプリの提供者を制裁した。詐欺市場の「場所」と「金の流れ」を同時に断つ、複合的な執行だった。

なぜ今回の制裁が暗号資産業界にとって重要なのか

なぜ今回の制裁が暗号資産業界にとって重要なのか

一連の執行は、暗号資産がもはや「無法地帯の通貨」ではないことを示す事例だ。司法省がテザーの協力を明示したことも含め、オンチェーン分析と法執行の連携が、実務レベルで機能していることがわかる。

オンチェーン分析とは、ブロックチェーンに記録された取引履歴を追跡して資金の流れを明らかにする手法である。詐欺産業が暗号資産を使う理由は、国境を越えた送金が素早く、銀行のような中央管理がないため凍結が難しいとされてきたからだ。

今回の措置は、オンチェーン分析とステーブルコイン発行体の協力によって、その「凍結の難しさ」が急速に克服されつつあることを示している。資金洗浄のために暗号資産を選ぶ犯罪者にとって、状況は確実に厳しくなっている。

一方で、規制当局と暗号資産業界の関係には微妙なバランスもある。過度な制裁や監視は、合法的なプライバシー重視のユーザーや分散型プロジェクトへの萎縮効果をもたらす可能性があるからだ。犯罪対策とイノベーションの両立は、今後も業界全体の課題として残る。

この記事のポイント

  • 米司法省がXinbi関連で暗号資産5,200万ドル超を差し押さえ・凍結
  • OFACがXinbiを国際犯罪組織に指定し、SafeWとAnwenも制裁対象にした
  • Xinbiは2022年以降、総額240億ドル超を処理してきたとされる
  • テザーが捜査に協力し、USDTの不正利用対策が前進した
  • 通信と決済の両インフラを同時に断つ複合的な執行だった
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