欧州中央銀行(ECB)とEU各国の中央銀行が、ステーブルコイン保有に間接的な利回りをもたらす貸付・借入・ステーキングなどのサービスを、暗号資産プラットフォームに禁止させるよう要求した。
ECBと欧州連合(EU)の中央銀行で構成する欧州中央銀行制度(ESCB)は9月22日、欧州委員会による暗号資産市場規制(MiCA)見直しの協議に対し、57ページの回答を提出した。
この動きは、ステーブルコインが支払い手段から貯蓄手段へと性格を変えることを防ぎ、銀行預金との競争条件を守る狙いがある。欧州のデジタル通貨政策における重要な分岐点となる。
ECBとEU中銀、ステーブルコイン利回り禁止の拡大を要求

ESCBは回答文書で、暗号資産サービスプロバイダー(CASP)がステーブルコインに報酬を支払うことを禁じる既存の規則を引き続き支持すると表明した。その上で、この禁止はMiCAが既に対象としているサービスだけに限定すべきではないと主張している。
暗号資産の貸付・借入・ステーキングなど、まだ規制されていない活動にも禁止を広げる必要があるという立場だ。これまで規制の網をすり抜けていた間接的な利回り提供を、立法によって封じようとしている。
間接的リターンも禁止対象に
「電子マネーは支払いに使うためのものであり、貯蓄の手段ではない」。ESCBは回答文書にこう明記した。ステーブルコインは電子マネーの一種と位置づけられている。利回りを付けると銀行預金に近い性格を帯び、規制上の区別が曖昧になるというのが中央銀行の懸念だ。
MiCAは欧州連合(EU)が導入した包括的な暗号資産規制で、2024年6月から段階的に適用が始まった。現行の規制では、CASPがステーブルコインの保有者に利息や報酬を支払うことを禁止している。
ところがESCBは、ステーブルコインが貸付やステーキングなどの仕組みを通じて利回りを生む商品に変容する可能性を指摘する。直接的には報酬を払わなくても、別の暗号資産で還元する設計にすれば、規制の実質的な抜け穴になり得る。ESCBはこうした事態を防ぐため、間接的な報酬も含めて禁止するよう求めた。
米国のクラリティ法論争と同型
この構図は米国でも議論になった。ステーブルコイン規制を定めるクラリティ法を巡っては、米国の銀行団体8団体が上院議員に対し、ステーブルコイン報酬への制限を強化するよう要請していた。暗号資産プラットフォームが銀行預金と競合する利回りを提供することを問題視したためだ。
クラリティ法は9月15日の採決で否決され、制定には至らなかった。倫理規定を巡る対立も影響した。米国で規制の明確化が政治的な行き詰まりを見せる一方、欧州はより厳格なルールを先行して固めようとしている。
なぜ中央銀行はここまで踏み込むのか

ESCBが間接的リターンの禁止にここまで踏み込む背景には、金融システムの安定性と公平な競争環境の確保という2つの狙いがある。中央銀行の危機感は、回答文書の随所ににじみ出ている。
電子マネーと銀行預金の境界線
ステーブルコインが利回りを生むようになると、利用者にとっては銀行預金とほとんど変わらない選択肢になる。銀行預金は預金保険や自己資本規制など、厳格なルールの下で運用されている。一方、ステーブルコインを預ける暗号資産プラットフォームは、同様のリターンを提供しながら規制上の負担は軽い。
この非対称性が、EU金融システムの競争条件を歪めるとESCBは見ている。利用者が高い利回りを求めて暗号資産プラットフォームに資金を移せば、銀行の預金基盤が弱体化する。これは金融政策の有効性にも影響を及ぼしかねない。
金融システムの競争条件を守る
ESCBは回答文書で「直接的・間接的を問わず報酬の禁止を維持し、必要なら強化することが明確な立法上の優先事項であるべきだ」と述べた。表現は相当に強い。欧州の中央銀行が、ステーブルコインの利回り商品を銀行システムへの脅威と認識していることが伝わってくる。
さらにESCBは、ステーブルコインの発行者が銀行に預ける大口預金が、銀行にとって不安定な資金調達源になるリスクも指摘した。発行者が償還に応じるために資金を急に引き出せば、銀行の流動性が揺らぐ可能性がある。この問題意識は、次の準備金ルールの見直し提案にもつながっている。
準備金ルールの見直しも同時に提案

ESCBの回答には、ステーブルコイン発行者の準備金に関する規制の見直しも盛り込まれた。利回り禁止の拡大だけでなく、発行者の資産運用のあり方にも踏み込んだ内容だ。
銀行預金要件の撤廃を求める
現行のMiCAでは、ステーブルコインの発行者は準備金の少なくとも30%を信用機関、つまり銀行の預金として保有することが義務づけられている。重要ステーブルコインに指定された場合は、この比率が60%に引き上げられる。
ESCBはこの最低預金要件を撤廃し、代わりに「どれだけ早く現金化できるか」という流動性の基準に置き換えるべきだと提案した。具体的には、発行者が1〜5営業日以内に満期を迎える準備資産を一定割合で保有することを求める内容だ。
この提案は、準備金をどこに置くかではなく、どれだけ速やかに現金に変えられるかに焦点を移すものだ。ESCBは、ステーブルコインの大口預金が銀行の資金調達基盤を不安定にする可能性を重視している。銀行への過度な集中を避け、市場性のある安全資産での運用を促す狙いがある。
流動性ベースの新基準とは
出発点としてESCBが挙げたのが、欧州銀行監督機構(EBA)の基準草案である。この草案では、重要ステーブルコインは準備金の少なくとも40%を1日以内に満期を迎える資産で保有することが求められている。さらに60%を5営業日以内に満期を迎える資産で保有する必要がある。
重要でないステーブルコインの場合、同じ基準は20%と30%に設定されている。重要度に応じて流動性要件を変える設計だ。
現行の銀行預金要件と新しい流動性基準は方向性が異なる。銀行預金要件は、どちらかといえば銀行セクターを保護する側面があった。新しい基準は、むしろ銀行への依存を減らし、流動性の高い安全資産での運用を促す内容といえる。ステーブルコインの安定性を高めるための現実的なアプローチだろう。
欧州の暗号資産市場に与える影響

ESCBの提案が実現すれば、欧州で事業を展開するステーブルコイン発行者や暗号資産プラットフォームには大きな影響が出る。利回りを武器に利用者を集めてきたサービスは、欧州市場でその魅力を失うことになる。
ステーブルコイン発行者への打撃
特に影響が大きいのは、ステーブルコインを預けると追加のトークンがもらえるリワードプログラムや、ステーブルコインを貸し出して利息を得るレンディングサービスだ。欧州の利用者はこうした選択肢を失う可能性がある。
一方で、今回の提案はステーブルコインを「支払い手段」として純化させる狙いがあるとも読める。利回りを禁じることで投機的な需要を抑え、実際の送金や決済に使う利用者を中心に据えようという方向性だ。ステーブルコインの社会的な信頼を高める効果はあるだろう。
競争力の観点からの分析
ただし、規制の厳格化が欧州の暗号資産ビジネスの競争力を削ぐリスクもある。利回りを得たい利用者は、規制の緩い地域のプラットフォームに流れる可能性がある。欧州の規制当局は消費者保護とイノベーションのバランスに悩むことになる。
欧州が提案するこの規制強化は、米国でのクラリティ法否決とは対照的な動きだ。米国では規制の明確化が政治的な対立で頓挫したが、欧州はより厳格なルールを先行して固めようとしている。ステーブルコイン規制を巡る欧米のアプローチの違いは、今後さらに鮮明になるだろう。
この記事のポイント
- ECBとEU各国の中央銀行が、ステーブルコインの間接的利回り禁止の拡大を要求した
- 貸付・借入・ステーキングなど未規制の活動も禁止対象に含めるべきと主張
- 電子マネーと銀行預金の境界を曖昧にし、金融システムの競争を歪めると懸念
- 準備金の銀行預金要件(30%〜60%)を流動性基準に置き換える提案も併せて行った
- 米国ではクラリティ法が否決され、欧米の規制アプローチの違いが鮮明になった

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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