ロシアで初めて、暗号資産取引所とカストディ事業者が政府の公式登録簿に登録された。ロシア中央銀行が10月7日、新法に基づく最初の登録リストを公表した。
登録されたのは取引所運営事業者4社とカストディ事業者5社。最大手銀行ズベルバンクや国営系のVTB銀行など、国内の主要金融機関が名を連ねている。
これまで法的な位置づけが不明確だったロシアの暗号資産市場が、認可を受けた事業者を中心に動き始める。西側諸国の金融制裁が続くなか、暗号資産を国際決済の代替手段として整備する狙いが背景にある。
ロシア中銀が初の事業者登録簿を公表

ロシア中央銀行は10月7日、暗号資産事業者の公式登録簿を初めて公開した。9月1日に施行された新法に基づく最初の登録で、取引所運営事業者4社とデジタルカストディ事業者5社が認められた。
取引所運営4社とカストディ事業者5社
取引所運営事業者として登録されたのは、T-Invest Lab、Zefir(ゼフィール)、Sistema-Crypto、VTB銀行の4社である。カストディ事業者はズベルバンク、Atomyze(アトマイズ)、Voltari(ヴォルタリ)、Cloud Infrastructure、VTB銀行の5社だ。VTB銀行は両方のリストに掲載された唯一の事業者となっている。
カストディとは、利用者に代わって暗号資産を保管・管理するサービスを指す。銀行の貸金庫にたとえると分かりやすい。貸金庫が金品を預かるように、カストディ事業者は暗号資産の秘密鍵を厳重に管理し、利用者が自分で管理するよりも安全な保管環境を提供する役割を担う。
最大手行と国営系銀行が名を連ねる
登録事業者の顔ぶれを見ると、ロシアの主要金融機関が暗号資産を正式事業として位置づけ始めたことがうかがえる。ズベルバンクは預金額や顧客基盤で国内首位を走る最大手銀行だ。VTB銀行も政府系の大手行として知られる。こうした銀行が暗号資産の保管サービスに参入することで、国内市場の信用力が高まるとの見方がある。
ズベルバンクが12月1日に暗号資産商品を開始

ズベルバンクは10月6日、デジタルカストディ事業者としての登録を申請したと発表していた。同行は約2カ月後の12月1日に、最初の暗号資産商品を提供する計画を明らかにしている。
既存アプリからBTC・ETH・USDTにアクセス
当初対応するのはビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、テザー(USDT)の3銘柄である。提供経路は既存のズベルバンク・オンライン、ズベル投資、ズベルビジネスの各プラットフォームになる。新しい専用アプリを導入するのではなく、普段使っている銀行サービスから暗号資産を扱えるようになる形だ。
暗号資産を初めて扱う人にとって、参入のハードルは大きく下がる。取引所への口座開設や秘密鍵の管理方法を一から学ぶ必要がない。銀行が保管から売買までを担うため、従来の金融サービスに近い感覚で利用できるようになる。
巨大な顧客基盤が動き出す影響
ズベルバンクの顧客基盤は国内人口の大半をカバーする規模だ。同行のアプリを通じて暗号資産が一般層に広がれば、ロシアの暗号資産市場のすそ野は一気に拡大する可能性がある。これまで取引所を使っていた一部の投資家だけでなく、銀行預金しか持たない層にも暗号資産への導線が開かれるからだ。
ただし、初日から全機能がそろうわけではないとみられる。登録や審査の進捗に応じて、対応銘柄や対象顧客が段階的に拡大される可能性もある。実際のサービス内容は11月から12月にかけて明らかになるだろう。
新法が定めた枠組みと残る決済禁止

今回の登録は、ロシアが2026年に整備した暗号資産法の運用開始を意味する。8月にプーチン大統領が署名した法律は、取引所、カストディ事業者、ブローカー、投資家をひとつの法的枠組みに組み込んだ。
中銀の監督下に置かれる市場
法律によって、暗号資産市場の監督権限は中央銀行に集約された。事業者は登録が義務付けられ、登録を受けていない事業者は営業できなくなる。投資家保護の観点から、一定の財務要件やセキュリティ基準も求められるとみられる。
つまり、それまで法的な位置づけが不明確だった暗号資産の売買や保管が、銀行と同様の規制対象になったということだ。これにより、本人確認やマネーロンダリング対策の基準も統一される。
支払い手段としての利用は引き続き禁止
一方で、法律は暗号資産を商品やサービスの支払いに使うことを引き続き禁止している。許可されたのは投資・保管の枠組みであり、ルーブルの代わりにビットコインで買い物をすることは認められていない。
この点はロシアの政策として現実的な落とし所といえる。暗号資産を決済手段として認めれば、資本規制や通貨管理が複雑になる。中央銀行は通貨発行権を守りつつ、投資対象としての暗号資産は管理下に置く方針だ。
制裁下のロシアが暗号資産基盤を整える狙い

ロシアが暗号資産の法整備を急いだ背景には、西側諸国による金融制裁がある。2022年のウクライナ侵攻以降、ロシアの主要銀行は国際決済網SWIFTから排除され、ドルやユーロ建ての取引に大きな制約を受けてきた。
国際決済網からの分断と代替手段の模索
こうした環境下で、暗号資産は制裁の枠外で価値を移転できる手段として注目されている。ビットコインやステーブルコインを使えば、従来の銀行ネットワークを経由せずに国境を越えた取引が可能になる。実際、ロシアと友好国との貿易決済に暗号資産を使う動きは、法整備の前から段階的に進んでいた。
今回の登録制度は、こうした非公式な動きを国家管理の枠内に取り込む狙いがあるとみられる。取引所やカストディ事業者を登録制にすることで、資金の流れを当局が把握しやすくなるからだ。
制裁対象国に共通する動きと限界
制裁下で暗号資産を活用する動きはロシア特有ではない。イランも暗号資産マイニングを公認し、輸出決済への活用を模索してきた経緯がある。中国は国内取引を原則禁止する一方、香港を経由した国際的な暗号資産取引には一定の余地を残しているとされる。ロシアの選択は、制裁対象国が暗号資産を金融インフラの代替物として位置づける流れの延長線上にある。
とはいえ、暗号資産による制裁回避には限界もある。主要取引所の多くは欧米の規制に従い、制裁対象者との取引を制限している。さらに、ブロックチェーン上の取引は追跡可能なため、大規模な資金移動は西側当局に監視されやすい。暗号資産への移行は万能策ではなく、あくまで補完的な選択肢にとどまるとの見方が多い。
この記事のポイント
- ロシア中央銀行が初の暗号資産事業者登録簿を公表した
- 取引所運営4社とカストディ事業者5社が登録され、ズベルバンクやVTB銀行が含まれる
- ズベルバンクは12月1日にBTC・ETH・USDT対応サービスを開始する計画
- 新法は投資・保管を認める一方、支払い利用は引き続き禁止している
- 制裁による国際決済網の分断が、ロシアの暗号資産基盤整備を後押ししている

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