EUの金融規制当局である欧州証券市場監督局(ESMA)は、暗号資産プラットフォームに対してMiCA(暗号資産市場規制 / Markets in Crypto Assets)に準拠しないステーブルコインの取り扱いを3か月以内に終了するよう求めた。
2026年10月8日に公表された新指針によるもので、対象には時価総額最大のステーブルコインであるUSDTも含まれる。これはEU域内で暗号資産サービスを提供する事業者にとって、大きな事業方針の転換を迫られる動きだ。
この記事ではESMAの指針の内容、影響を受けるステーブルコイン、既存ユーザーの資産の扱い、そして欧州市場への影響を解説する。
ESMAが示した3か月の猶予と最終期限

ESMAは国家規制当局向けの意見書として、MiCAに違反するステーブルコインに関連するサービスを暗号資産プラットフォームが提供し続けることを問題視した。規制当局は認定済みの事業者に対し、EUの顧客が非準拠ステーブルコインを購入したり、保有量を増やしたりできるサービスの提供を直ちに停止するよう求めている。
さらに既存の顧客が保有する残高については「できるだけ早く、遅くとも意見書公表から3か月以内」に解消するよう各国当局が指導すべきだとしている。この期限は2027年1月8日となる計算だ。
MiCAのステーブルコイン規則とは
MiCAとはEUが2023年に制定した暗号資産の包括的な規制枠組みである。ステーブルコインに関する規則は2024年6月から適用が始まり、EU域内のユーザーに提供されるドル連動型やユーロ連動型のトークンについて、発行体に対して認可取得、準備金の確保、償還体制、情報開示などの要件を課している。
ESMAはステーブルコインを資産参照型トークン(ART)と電子マネートークン(EMT)の2種類に分類している。資産参照型トークンは複数の通貨や資産に連動するものを指し、電子マネートークンは単一の法定通貨に連動するものを指す。
要するに、ユーロ圏の利用者を相手にする以上は、どのステーブルコインであってもEUの定めたルールに従う必要があるということだ。ルールに従わないトークンは、EU市場で流通させるべきではないというのがESMAの立場である。
ESMAの新指針が求める対応
今回の指針でESMAは、認定済みの暗号資産サービスプロバイダー(CASP)に対して、非準拠のステーブルコインに関連するサービスの提供を止めるべきだと明言した。具体的には、EU顧客が該当トークンを購入・取引・スワップしたり、保有量を増やしたりできる機能を停止することを求めている。
対象となるサービスは、交換サービス、取引執行、送金、カストディ(保管)、管理、助言、ポートフォリオ運用と広範囲に及ぶ。暗号資産プラットフォームは自社の提供機能を総点検し、非準拠トークンが関わる導線を遮断する必要がある。
一方でESMAは、既存の保有分を解消するための限定的なサービスは認めている。売却、変換、引き出し、移転、保管などがそれにあたる。新規の購入や宣伝、継続的な市場提供は認められない。
USDTとPayPal USD、非準拠の現実

ESMAの指針は特定のトークン名を挙げていない。しかし、時価総額最大のステーブルコインであるテザー社のUSDTが、非準拠の代表例として広く認識されている。USDTはドルに連動するステーブルコインで、暗号資産市場で最も取引量が多い。
3番目に大きいステーブルコインであるPayPal USDも、MiCAの認可を受けていない。これらは発行体がEUの規制要件を満たすための認可を取得していないため、EU域内の暗号資産プラットフォーム上での提供継続が難しくなる。
USDTが非準拠となる理由
USDTはドル連動型のステーブルコインとして、暗号資産取引の基軸通貨のような役割を果たしてきた。しかしテザー社はEUのMiCA規則に基づく認可を取得していない。MiCAではEU域内でステーブルコインを提供する発行体に対し、認可の取得と準備金の証明、償還の仕組みなどを求めている。
テザー社がこれらの要件を満たすためには、EU域内に拠点を設けて認可を受けるか、既存の認可済み発行体と提携するなどの対応が必要になる。現時点ではその動きは確認されていない。
PayPal USDも対象に
PayPalが発行するステーブルコインPayPal USDも非準拠の状態にある。PayPalは世界的な決済大手だが、ステーブルコインの発行体としてEUのMiCA認可を取得していない。このため、EU域内のユーザーにPayPal USDを提供する暗号資産プラットフォームも、ESMAの指針に従えば取り扱いを終了する必要がある。
すでに複数のプラットフォームが欧州のユーザー向けにUSDTのサービスを制限している。MiCAのプラットフォーム向け規則が2026年7月1日に全面適用されたことで、認可のない事業者がEU域内で営業を続けることはできなくなっていた。今回の指針は、その流れをさらに明確にした形だ。
既存ユーザーの資産はどう扱われるのか

EU域内の取引所などでUSDTを保有しているユーザーは、各プラットフォームの案内に従って対応する必要がある。解消期間中に売却や引き出しができる場合もあれば、より早い締め切りを設定されるケースもある。
重要なのは、ESMAが既存の顧客資産に対して「没収」や「凍結」を求めているわけではないことだ。ユーザーは保有するトークンを売却したり、別のウォレットへ移したり、認可済みのステーブルコインに変換したりする手段を与えられる。
解消期間中に認められるサービス
ESMAが認めている限定的なサービスは、売却、変換、引き出し、移転、保管の5つだ。ユーザーはこれらの手段を使って、非準拠ステーブルコインの保有を解消できる。
たとえばUSDTを保有している場合、取引所によってはUSDTをユーロやドルなどの法定通貨に換えたり、MiCA認可済みのステーブルコインに交換したりできる。どの選択肢が用意されているかはプラットフォームごとに異なる。
ユーザーが知っておくべきこと
取引所にUSDTを置いたままにしている欧州のユーザーは、まず自分が使っているプラットフォームからの通知を確認することが先決だ。対応期限や利用可能な解消手段は、事業者によって異なる可能性が高い。
非準拠ステーブルコインを認可済みの代替トークンに乗り換えるのか、法定通貨に戻すのか、別のウォレットへ移すのか。ユーザー自身の判断が求められる局面になる。猶予期間は最長3か月だが、早めに行動しておく方が安全だろう。
ステーブルコイン規制が欧州市場に与える影響

今回のESMAの指針は、欧州の暗号資産市場におけるステーブルコインの勢力図を大きく変える可能性がある。USDTがEU市場から実質的に排除されれば、その穴を埋めるのはMiCA認可済みのステーブルコインだ。サークル社のUSDCや、ユーロ連動型の認可済みトークンなどが候補になる。
この動きは欧州の暗号資産取引所の流動性にも影響を及ぼす。USDTは世界の暗号資産取引で最も使われているステーブルコインであり、欧州のトレーダーがUSDTを基軸に取引していたケースも多い。それが使えなくなれば、取引ペアの組み替えや流動性の偏りが生じる可能性がある。
欧州の暗号資産市場に与える影響
短期的には、EU域内のユーザーがUSDTから認可済みステーブルコインへ資産を移す動きが加速するだろう。取引所側も非準拠トークンの取引ペアを廃止し、認可済みトークンへの置き換えを進める必要がある。
中長期的には、欧州市場が「規制されたステーブルコイン」の競争の場になる可能性が高い。発行体にとってMiCA認可の取得が競争力の源泉となり、認可を得られない発行体は欧州市場から締め出される。これは投資家保護の観点では前進だが、市場の選択肢が狭まる側面もある。
今後の展開と独自の見解
今回のESMAの指針は、規制当局がMiCAの実効性を本気で確保しようとしている証拠だと受け止めるべきだ。2026年7月の全面適用からわずか3か月余りで、非準拠ステーブルコインへの具体的な期限を設定してきた。規制の「猶予期間」は終わりに近づいている。
注目すべきは、テザー社が今後EU市場に対してどのような戦略を取るかだ。認可取得に向けた動きを見せるのか、EU市場を事実上撤退するのか。テザー社の選択は、USDTの世界市場での地位にも影響を及ぼす可能性がある。
また、この動きは他地域の規制当局にも波及する可能性がある。欧州が非準拠ステーブルコインの排除に踏み切れば、米国やアジアの規制当局も同様の対応を検討するかもしれない。ステーブルコインをめぐる規制競争は、次の段階に入りつつある。
この記事のポイント
- ESMAが非準拠ステーブルコインの取り扱い停止を暗号資産プラットフォームに要求
- 既存の顧客資産は2027年1月8日までの3か月以内に解消する必要がある
- USDTとPayPal USDが非準拠の代表例として認識されている
- 解消期間中は売却・変換・引き出し・移転・保管のみが認められる
- 欧州市場ではMiCA認可済みステーブルコインへの移行が加速する見通し

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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