金融安定理事会(FSB)がステーブルコインの危機対応に関する報告書を公表し、国境を越えた情報共有と破綻時の計画策定を各国に求めた。ステーブルコイン法規制の国際協調が新たな段階に入る。
報告書は10月15日に開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議の数日前に公表された。FSB議長のアンドリュー・ベイリー氏が添えた書簡では、各国の規制が異なる速度で整備されている現状への懸念が示された。
ステーブルコイン市場はこの1年半で急速に拡大し、その規模は無視できない水準に達している。法制度の未整備が投資家保護の観点から問題視されており、本記事では報告書の要点を初心者にもわかりやすく整理する。
FSBが国境を越えた情報共有を要請

報告書の概要
FSBは、ステーブルコインが市場危機の際に国境をまたぐ金融ルールの隙間を露呈させる可能性があると警告した。情報共有、監視、破綻時対応の計画を各国に求めた。
FSBとは、G20が設立した国際的な金融規制の調整機関である。金融システム全体の安定を守るため、各国の規制当局や中央銀行が参加している。いわば世界の金融監督官が集まる会議体だ。
グローバルステーブルコインは、法定通貨に価値を連動させる暗号資産である。だが、深刻な市場ストレスや発行体の破綻という局面で試されたことがないと報告書は指摘した。
各国の規制枠組みが異なる速度で整備されているため、発行体が破綻した場合に保有者が資金を回収できるのか不透明だ。報告書はこの点を主要な懸念として挙げている。
議長の警告とG20会合
FSBの議長であるアンドリュー・ベイリー氏は報告書に添えた書簡を公表した。書簡の中で、グローバルステーブルコインの仕組みは本質的に国境をまたぐと述べている。
一方で、各国の規制は異なる速度で形作られており、国境を越えた協力はまだ初期段階だという認識を示した。ベイリー氏はイングランド銀行総裁も兼務しており、国際的なステーブルコイン規制の停滞を以前から警告してきた人物である。
今回の報告書は、10月15日に開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議の数日前に公表された。タイミングを狙った発表であることは明らかだ。
ステーブルコイン市場は3,060億ドル規模に拡大

ステーブルコイン市場は2025年初めの時点で約2,060億ドルだった時価総額が、3,060億ドルまで成長した。その大部分は米ドルに連動するステーブルコインが占めている。
ステーブルコインとは、価格が法定通貨に対して安定的に推移するよう設計された暗号資産である。1ドル=1トークンの価値を維持する仕組みで、発行体がドルや国債などの資産を準備金として保管している。準備金とは、保有者からの償還要求に応じるための裏付け資産のことである。
FSBは報告書で、現在の使途の大半は暗号資産投資への出入りに使われていると分析する。一方で、将来的には国境を越えた送金などで、より速く安い決済手段になる可能性にも言及した。
韓国の現代自動車が社内送金にステーブルコインを導入した事例は、その方向性を示す動きの1つだ。決済手段としての利用が広がれば、ステーブルコインの重要性はさらに高まる。
複数発行体モデルがはらむ構造的リスク

報告書が特に高いリスクを指摘したのが「複数発行体モデル」と呼ばれる仕組みである。複数の関連会社が同じステーブルコインを発行し、負債を共有しながら、準備金の資産を別々の法域に保有する形態を指す。法域とは、法律が適用される国や地域のことである。
保有者がグループ内のどの発行体からでも償還できる場合、需要が1つの主体に集中する可能性がある。一方で、必要な資産は別の場所にある。危機時には、その資産を移動させることが難しくなる恐れがある。
発行体が破綻した場合、どの国の破産法が適用されるのか判断が難しくなることも問題だ。FSBはこの構造を「準備金が1つの法域に閉じ込められ、償還要求が別の法域に集中する」と表現した。
なぜ複数発行体モデルが生まれたのか
複数発行体モデルは、各国の規制の違いを活用して事業を展開する目的で採用されることがある。ライセンス要件や税制に対応しやすくするためである。だが、危機時の責任の所在が曖昧になるという副作用を持つ。
金融危機の歴史を振り返ると、責任の所在が不明確な仕組みは、いざという時に制度の間をすり抜ける。FSBの警告はその教訓をステーブルコインに当てはめたものといえる。
24時間取引と従来市場の時間差問題

ステーブルコインは24時間365日取引できる。一方で、裏付け資産となる国債や預金が取引される伝統的な金融市場には営業時間がある。FSBはこの時間差が危機時に問題を引き起こす可能性を指摘した。
取り付け騒ぎが起きた場合、償還が売却に追いつかなければ、ステーブルコインは1ドルの固定価格から乖離する恐れがある。これを「ペッグ外れ」と呼ぶ。ペッグとは価格を一定に保つ仕組みのことである。
一方で、FSBは深く流動性のある二次市場が、裁定取引を通じて価格を元に戻す助けになる可能性も指摘した。価格が下がったところを買い戻す取引が働けば、自然とペッグに戻る力が働く。
準備金の強制売却が伝統的金融に波及する経路
準備金の強制売却や銀行預金の引き出しが起きれば、投資家が流動性を求めて動く過程で、ショックが伝統的な金融市場に広がる可能性がある。ステーブルコインの問題が、暗号資産市場の内側に留まらないということである。
規制の実効性と今後の課題

FSBはデータの弱さも問題視した。暗号資産の取引は匿名性が高いため、保有者がどの国にいるのか、どの法域の規制が適用されるのかを特定しにくい。これが国境を越えた規制の実効性を下げている。
FSBの提言に法的拘束力はない。ただし、加盟国は合意した基準を国内で実践することにコミットする傾向がある。拘束力がなくても一定の影響力を持つ仕組みである。
投資家の立場から見ると、FSBの提言はステーブルコインの安全性を高める方向に働く。ただし、規制の実効性は各国の対応次第であり、すぐに環境が変わるわけではない。利用者としては、発行体の準備金の所在や償還条件を確認する習慣が求められる。
今後の焦点はG20会合
報告書は10月15日のG20財務相・中央銀行総裁会議の直前に公表された。ステーブルコイン規制の国際協調が、今後の主要議題の1つになる可能性が高い。
規制の枠組みが国によって異なる速度で整備されている現状では、抜け穴を突く事業者が現れやすい。FSBの報告書は、その抜け穴を塞ぐための地ならしと位置付けられる。
この記事のポイント
- FSBはステーブルコインの危機対応で国境を越えた情報共有を要請
- 市場規模は約2,060億ドルから3,060億ドルに拡大
- 複数発行体モデルは準備金と償還の所在が分かれる構造的リスクを持つ
- 24時間取引と従来市場の時間差がペッグ外れの引き金になり得る
- 提言に法的拘束力はないが、G20会合で国際協調が進む可能性

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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