カナダ、ステーブルコイン直接償還を提案。個人でも手数料1%以下で現金化可能に

カナダ政府は10月24日、ステーブルコイン保有者が発行体に直接償還を請求できる新たなルール案を公表した。個人保有者を対象に、最低償還額を設けず、手数料は1%を上限とする内容だ。

現状、主要ステーブルコインのUSDCでは個人が直接償還する手段が限られている。カナダの提案は、取引所で売却する以外の出口を確保する狙いがある。ステーブルコイン規制をめぐる国際的な議論に一石を投じる内容だ。

カナダが示した償還ルールの全体像

カナダが示した償還ルールの全体像

カナダ官報に10月24日付で掲載された提案は、ステーブルコイン法(Stablecoin Act)の運用細則に当たる。同法は2026年3月26日に国王裁可を得ているが、中核条項はまだ発効していない。政府の影響評価書は2027年秋の施行を想定している。

提案の柱は3つある。1つ目は、対象となる保有者であれば金額にかかわらず償還請求できること。2つ目は、発行体が償還手数料として請求できる上限を1%に抑えること。3つ目は、通常は3営業日以内に償還を完了することだ。

ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産である。価格が安定しているため、送金や決済、暗号資産取引の待機資金として広く使われている。

償還(かんげん)とは、保有しているステーブルコインを発行体に返して、連動する法定通貨を受け取る行為だ。たとえば100米ドル分のUSDCを発行体に渡せば、100米ドルが銀行口座に振り込まれる仕組みを指す。

提案では、残高が少ないことを理由に償還請求を拒否することは認められなくなる。これまで機関投資家向けに限られがちだった直接償還の裾野を、個人まで広げる内容だ。

償還は額面どおり、つまりステーブルコインが追従する通貨で支払われる。USDC保有者なら米ドルでの償還となる。カナダ人保有者がカナダドルでの受け取りを望む場合は、別途、為替変換や送金の手配が必要になる。

1%という手数料上限はあくまで最大値であり、実際のコストは発行体の設定する手数料と銀行送金経路によって左右される。発行体は手数料を新設または引き上げる場合、7日前までにウェブサイトで告知する義務も課される。

Circleが示すアクセスの格差

Circleが示すアクセスの格差

この提案の背景にあるのが、現行の償還へのアクセス格差だ。米ドル建てステーブルコイン最大手のUSDCを発行するCircleは、個人による直接償還を事実上認めていない。

Circleが10月15日に更新した欧州経済領域外の保有者向け利用規約では、発行体はCircle Internet Financial, LLCとされ、直接償還にはCircle Mintアカウントが良好な状態であることが条件となっている。登録済みの適格アカウントを持たない個人は、トークンをCircleに送って銀行送金を求めることはできない。

Circle Mintは機関投資家と登録ディストリビューター向けのサービスであり、個人目的での利用者は対象外と明記されている。申し込み時には身元確認や本人確認、制裁対象者チェックなどが行われる。

さらに、適格な機関投資家であっても銀行口座の連携が必要だ。利用規約では、本人名義かつMintアカウントの名義と一致する、認証済みの銀行口座が求められる。

つまり、現行のUSDCでは個人保有者が発行体から直接現金化する道はほぼ閉ざされている。カナダの提案は、このようなアクセス格差を規制で解消しようとする試みといえる。

ただし、提案の対象範囲は注意深く見る必要がある。ステーブルコイン法は、カナダ国内の購入者が利用できるステーブルコインを発行する国内外の発行体に及ぶ。カナダで事業所を持つ、またはカナダ居住者が実際に購入できる状態であれば、外国の発行体も対象になり得る。

対象となるのは、購入者の通常の居住地や本社、主たる事業所がカナダにある場合だ。国籍だけでは判断されない。中央銀行が発行するものは除外され、金融機関向けや閉鎖型のスキームも規制の適用外となる余地がある。

Circleの場合はさらに複雑だ。Mintのページによると、カストディ業務を担うのはCircle National Trustであり、USDCの発行体ではない。つまり、保管機関の銀行免許があるからといって、USDC発行体がカナダの規制枠組みから外れるかは別問題となる。将来の登録や適用除外の判断が重要になる。

3営業日ルールと準備資産市場の例外

3営業日ルールと準備資産市場の例外

提案は償還の所要時間について、発行体が3営業日以内に処理を完了することを求めている。政府の影響評価書によると、この期間は準備資産の決済サイクルと業務処理を考慮した設計だ。

ここでいう準備資産とは、発行体がステーブルコインの価値を保証するために保有している資産のことだ。現金や短期国債、適格マネーマーケットファンドなどが該当する。

注目すべきは、例外的に償還を制限できる条項が盛り込まれた点だ。提案のセクション15(2)は、準備資産の市場で流動性が不足し、すべての償還要請に応じられない場合、発行体が1日当たりの償還上限を設定できるとしている。

この例外条項は、市場が不安定になればいつでも償還を遅らせてよいという一般的な許可ではない。あくまで準備資産が取引される市場の流動性不足が原因で、償還請求に応じきれない場合に限定される。

例外的な制限が発動されても、1%の手数料上限は維持される。金額やタイミングに関する通常の規定は一時的に停止されるが、手数料の上限だけは変わらない設計だ。

準備資産の保全も法の柱となる。施行後は、発行体が流通額と少なくとも同額の準備資産を、参照通貨または適格な流動資産で保有することが義務付けられる。この準備資産は発行体自身の債権者から分離して管理され、保有者の償還請求権のみが優先的に認められる。

ただし、準備資産の分離は保有者の請求権を守るものであり、トークンを銀行預金と同等の保護対象にするものではない。法律は発行体が預金保険の対象であるかのように表示することを禁止している。

実装次第で変わる償還ルートの実用性

実装次第で変わる償還ルートの実用性

個人保有者にとって、この提案が現実になれば得られるものは選択肢の拡大だ。取引所での売却が不利な状況でも、発行体に対する償還請求という別の出口が確保される。

Circleの現行規約も、発行体による条件付きの額面償還と、第三者プラットフォームでの市場価格を明確に区別している。発行体は市場価格をコントロールできないためだ。カナダの提案は、この法的な償還ルートを規制で裏打ちする形となる。

パブリックコメントの期間は官報掲載から60日間だ。施行は2027年秋が想定されている。経過措置として、施行から30日以内に登録申請した既存の発行体は、登録または拒否の通知があるまで発行を継続できる。申請しなければ31日目に経過措置は終了する。これは登録に関する措置であり、償還義務が停止されるわけではない。

最終的な規則の内容、個別の発行体に対する判断、公表される決済手段の詳細によって、この法的ルートが実際に使える第2の出口になるかが決まる。特に準備資産市場の流動性が逼迫した局面で、どこまで機能するかが試金石となる。

カナダの提案は、ステーブルコイン規制をめぐる国際的な議論の中でも、個人保有者の償還権を具体的な運用条件まで落とし込んだ点で先駆的だ。米国ではOCC(通貨監督庁)がステーブルコインの償還ルールを刷新しており、各国の規制競争が激しくなっている。

ステーブルコインの信頼性を支えるのは、最終的に額面で償還できるという保証だ。その保証を誰が、どのような条件で提供するのか。カナダの提案は、この問いに対する1つの回答を示している。

この記事のポイント

  • カナダがステーブルコインの償還ルール案を10月24日に公表。個人も最低償還額なしで請求可能になる
  • 償還手数料は1%が上限、通常は3営業日以内の処理が義務付けられる
  • 現行のUSDCは個人の直接償還を認めておらず、規制で格差を解消する狙いがある
  • 準備資産市場の流動性不足時には1日当たりの償還制限が例外的に認められる
  • 2027年秋の施行を想定。60日間のパブリックコメントを実施中
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