DeFi(分散型金融)レンディング最大手のAaveで、深刻なガバナンス対立が起きている。Aave Chan Initiative(ACI)の創設者マルク・ツェラーが2月25日、Aave Labsの資金調達履歴を精査した「透明性レポート」を公開した。数時間前にAave Labs自身が発表した貢献レポートと真っ向から対立する内容で、DAOコミュニティ全体を二分する議論となった。
対立の引き金は「Aave Will Win」と名付けられた提案だ。Aave Labsにステーブルコインで$4,250万(約64億円)と75,000枚のAAVEトークンを支払う代わりに、Aave関連製品の収益をすべてDAOに還元させる内容だ。AAVEは1枚約$116で、75,000枚分の議決権も提案に含まれる。
この記事では対立の構図と両者の主張、そしてDeFiガバナンスが直面する構造的な課題を解説する。
AaveとDAOガバナンスの基礎知識

Aaveは、暗号資産を担保に預けてUSDCなどのステーブルコインを借り入れ、または預け入れることで利息を得られるDeFiプロトコルだ。中央銀行や証券会社が不要で、スマートコントラクト(自動執行プログラム)がローンの管理を担う。現在の預かり資産は数十億ドル規模で、DeFiレンディング分野で首位に立つ。
そのAaveはDAO(Decentralized Autonomous Organization=分散型自律組織)として運営されている。AAVEトークンを保有する世界中のメンバーが提案に投票し、プロトコルの方向性を決める仕組みだ。ただし実際の開発・運営はAave Labsと複数のパートナー企業が担っており、DAOは資金配分と重要事項の承認機関に近い役割を持つ。
Aave Chan Initiative(ACI)は、このDAOのサービスプロバイダーとして活動する組織だ。議決権の代理行使やガバナンス提案の作成を手がけるが、独立した監査機関ではない。今回の論争でACIは当事者の一方であり、中立な立場にはないことは押さえておく必要がある。
論争の核心——「Aave Will Win」とは何か

提案の内容——DAO資金で動くビジネスモデルへの転換
「Aave Will Win」フレームワークが目指すのは、Aave LabsがベンチャーキャピタルではなくDAO資金で運営されるモデルへの転換だ。Aave.comや今後リリース予定の消費者向け製品から得る収益を100%、DAOのトレジャリー(資産プール)に還元する。その代わりDAOがAave Labsの運営費を負担する。
提案にはAave V4を長期技術基盤として承認する「批准」と、Aaveブランドを管理する新財団の設立も含まれる。コミュニティの一部からは2月13日の議論で「75,000枚のAAVEを付与するとAave Labs自身が今後の投票に大きな影響力を持つ」という懸念が出ていた。
なぜ今なのか——コア開発者BGD Labsの離脱が背景に
この論争が緊迫している背景には、コア技術コントリビューターのBGD Labsが4月1日をもってDAOとの関係を終了すると発表したことがある。BGD Labsはスマートコントラクトの開発・監査・インフラ整備を担ってきた組織だ。その離脱後にプロトコルの技術的維持を誰が担うかが問題となっており、「Aave Will Win」はその空白を埋める提案という側面もある。
対立する2つのレポート

ACIの主張——,600万の使途説明と成果ベースの評価
ツェラーのレポートは、Aave Labsが2017年のICO(Initial Coin Offering=新規トークン発行)収益、VC(ベンチャーキャピタル)からの調達、DAOからの支払いを合計すると生涯で約$8,600万(約130億円)を受け取ったと指摘した。ICOとは企業がトークンを発行して資金調達する手法で、上場前の資金集めに近い仕組みだ。
ACIはこの実績を踏まえ、今後のDAO資金拠出にはROI(投資対効果)の枠組みを適用すべきだと主張した。資金をパフォーマンス指標に紐付け、定期的な透明な報告を義務付けるべきというものだ。また提案を「資金拠出」「収益配分モデルへの同意」「V4批准」の3つに分割して別々に採決することも求めた。
Aave Labsの反論——数値化できない貢献の価値
Aave Labsの貢献レポートは、V1・V2・V3の設計と実装、フラッシュローン(担保なしの瞬間借入機能)、セーフティモジュール(プロトコル保険機能)、エフィシェンシーモード(資本効率化機能)など、現在の収益モデルを支える機能群を自社が構築したと主張した。フラッシュローンとは、同一トランザクション内で借入・利用・返済を完結させる暗号資産固有の仕組みで、アービトラージや清算処理に広く使われる。
Aave Labsは「ガバナンス提案の件数やフォーラム投稿数を数えることは、プロトコルの維持に必要な研究・セキュリティ・インフラ作業の全体像を反映しない」と反論した。数百万人が使うプロトコルを支える「見えない仕事」の価値は、単純な数値指標では捉えられないという立場だ。
この論争が示すDAOガバナンスの本質的課題

今回の対立はAaveに固有の問題ではない。DeFiプロトコルが成熟し資金規模が大きくなるにつれ、「DAOは何に対して誰にお金を払うべきか」という問いに向き合わざるを得なくなる。
ACIの主張する「ROIと透明性」は原則として正論だ。しかしブロックチェーンのセキュリティ監査や長期アーキテクチャ設計のような専門業務を短期的な数値指標のみで評価すると、重要だが地味な仕事が敬遠されるリスクが生まれる。
一方でAave Labsが「自社の貢献は数値化できない」と主張し続ければ、DAOとしての説明責任が形骸化する。資金を拠出するトークン保有者が判断材料を持てなければ、情報を持つ大口保有者が決定を支配する構造に陥る。
BGD Labsの離脱を含め、Aaveは今後のコア開発体制をどう設計するかという根本問題に直面している。「Aave Will Win」への賛否はその第一歩となる。今後のDAO投票の行方と、75,000 AAVEの議決権がどう行使されるかが焦点だ。
この記事のポイント
- AaveでDAO内ガバナンス対立が激化。ACI創設者がAave Labsの生涯資金$8,600万の使途を精査した透明性レポートを公開し、Aave Labsの貢献レポートと対立した
- 論争の核心は「Aave Will Win」提案——Aave Labsへの$4,250万+75,000 AAVEの支払いと引き換えに、同社製品収益を全額DAOに還元するモデルへの転換
- ACIは成果ベースの評価と透明な報告を要求。Aave Labsは数値化できない研究・セキュリティ・インフラ作業の価値を主張し、双方の立場が平行線をたどる
- コア技術開発者BGD Labsが4月1日に離脱表明。技術体制の空白が論争の緊迫度を高めている
- この対立はDeFi全体の課題である「DAOが大規模資金を誰に・何の基準で配分すべきか」を問い直すものだ
出典
- Cointelegraph「Aave governance dispute escalates as ACI and Aave Labs publish dueling reports」(2026年2月25日)

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
