Ant GroupがAIエージェント専用の暗号資産決済基盤「Anvita」を発表

中国の巨大IT企業アリババ・グループの金融関連会社であるアント・グループ(Ant Group)が、人工知能(AI)とブロックチェーンを融合させた新たな一歩を踏み出した。同社のブロックチェーン部門であるアント・デジタル・テクノロジーズは、AIエージェントが自律的に資産を管理し、取引を行うためのプラットフォーム「Anvita」を公開した。

この新プラットフォームは、人間が介在することなく、AI同士が直接支払いを行ったり、契約を締結したりする「エージェント・トゥ・エージェント経済」の構築を目指している。暗号資産(仮想通貨)のインフラを、人間の投資ツールから「AIの活動基盤」へと転換させる野心的な試みだ。

AIが単なる分析ツールを超えて、経済活動の主体となる未来が現実味を帯び始めている。背景には、既存の金融システムでは対応しきれない「超低額・超高速」な決済ニーズの拡大がある。本記事では、Anvitaの仕組みや、Visa、Googleといった競合他社の動向、そしてAI経済がもたらす変革について詳しく解説していく。

AIが経済の主役になる、Ant Groupが放つ新プラットフォーム「Anvita」

AIが経済の主役になる、Ant Groupが放つ新プラットフォーム「Anvita」

アント・デジタル・テクノロジーズがフランスのカンヌで開催された「Real Up」サミットで発表した「Anvita」は、AIエージェントを暗号資産取引の主役に据えるための包括的なプラットフォームだ。AIエージェントとは、特定の目標を達成するために自律的に判断し、行動するソフトウェアプログラムを指す。例えば、最適な投資先を探して自動で資金を移動させたり、必要なデータを他のAIから購入したりする存在だ。

AIエージェントが自律的に取引する未来

従来のAIは、人間に情報を提示し、最終的な判断や実行は人間が行う「補助ツール」としての役割が中心だった。しかし、Anvitaが描く世界では、AI自身が独自のウォレット(デジタル財布)を持ち、自らの判断で資産を保有し、他者と交渉して支払いを行う。これは、人間が寝ている間も、AI同士が秒単位で経済活動を継続することを意味している。

アント・デジタル・テクノロジーズのブロックチェーン事業責任者であるビアン・ジョクン氏は、現実資産(RWA)のトークン化は単なる「静的なインフラ」に過ぎないと指摘する。真の変革は、自律的なエージェントがオンチェーン(ブロックチェーン上)で資産を動かし、ポートフォリオを最適化する「エージェント経済」への移行にあるとの見解を示している。

「Anvita TaaS」と「Anvita Flow」の二本柱

Anvitaは主に2つの製品で構成されている。1つ目は「Anvita TaaS(Tokenization-as-a-Service)」だ。これは、不動産や国債などの現実資産をブロックチェーン上のトークンとして発行するサービスで、機関投資家向けの管理ツールや財務ツールを備えている。トークン化とは、資産の権利をデジタル化し、小口での取引や即時決済を可能にする技術を指す。

2つ目は「Anvita Flow」だ。これはAIエージェントのための市場のような役割を果たす。AIエージェントがこのプラットフォームに登録することで、互いを発見し、タスクを調整し、リアルタイムで決済を行うことができる。例えば、データ収集を得意とするAIと、データ分析を得意とするAIが、Anvita Flowを通じて協力し、その報酬をステーブルコインで即座に清算する仕組みだ。

なぜAIに暗号資産が必要なのか、決済の自動化がもたらす変革

なぜAIに暗号資産が必要なのか、決済の自動化がもたらす変革

AIエージェントが経済活動を行う上で、既存の銀行システムは大きな壁となる。なぜなら、従来の金融インフラは「人間」が「数千円から数百万円」といった単位で取引することを前提に設計されているからだ。AIが求める決済は、それとは根本的に異なる性質を持っている。

従来の金融システムでは不可能なマイクロ決済の実現

AIエージェント間のやり取りでは、1回あたり数円、あるいは1円未満といった「マイクロ決済」が頻繁に発生する。クレジットカードや銀行振込では、手数料が取引額を上回ってしまうため、このような微小な支払いは現実的ではない。また、人間による承認や数日かかる送金時間も、高速で動くAIにとっては致命的な遅延となる。

暗号資産、特にブロックチェーンを利用した決済は、この問題を解決する。仲介者を排除し、プログラムコードによって自動で処理されるため、極めて低い手数料で、かつ24時間365日、瞬時に決済を完了させることができる。つまり、ブロックチェーンはAIにとっての「ネイティブな通貨システム」として機能するということだ。

ステーブルコインUSDCとx402プロトコルの役割

Anvita Flowは、米コインベース(Coinbase)とクラウドフレア(Cloudflare)が共同開発した「x402」というプロトコルを採用している。これは、インターネットの標準的な通信規約であるHTTPを通じて、ステーブルコインによる支払いを直接行えるようにする技術だ。ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産を指す。

この仕組みにより、AIエージェントは従来の複雑な請求システムやサブスクリプション契約を必要とせず、使った分だけをその場で支払うことが可能になる。Anvitaは現在、米サークル(Circle)社が発行するUSDCの統合を進めており、香港、シンガポール、ルクセンブルクでのステーブルコインライセンスの取得も目指している。これにより、法的に準拠した形でのAI決済インフラを整える構えだ。

激化するAI決済インフラの覇権争い、VisaやGoogleの動向

激化するAI決済インフラの覇権争い、VisaやGoogleの動向

AIエージェント向けの決済市場に注目しているのは、アント・グループだけではない。世界的な決済大手やIT巨人も、この未開拓の市場を支配しようと動き出している。AIが消費活動の多くを代替する未来において、その「財布」を握ることは極めて重要な戦略となるからだ。

伝統的金融大手とIT巨人の参入相次ぐ

クレジットカード大手のVisaは、AIエージェント向けの「Trusted Agent Protocol」を発表している。これは既存のカードネットワークを活用した決済を目指すものだ。一方、Googleは「Agent Payments Protocol(AP2)」を2025年9月に公開し、60以上の組織から支持を得ている。ITの巨人が決済プロトコルを共通化しようとする動きは、AI経済の標準化を狙ったものと言える。

マスターカード(Mastercard)も、ステーブルコイン決済インフラを手がけるBVNK社を約18億ドルで買収した。これはステーブルコイン関連の買収としては過去最大規模であり、伝統的な金融ネットワークがブロックチェーン決済を未来の不可欠な要素として捉えている証拠だ。各社が競うようにインフラを整備しているのは、マッキンゼーの予測によれば、2030年までにAIエージェントが媒介する商取引が世界で約3兆ドルから5兆ドルに達する可能性があるからだ。

ソラナ(Solana)など既存チェーンでの活用事例

既存のパブリックブロックチェーン上でも、AIエージェントの活動は活発化している。ソラナ財団の報告によれば、ソラナネットワーク上ではすでに1,500万件以上のAIエージェントによる取引が処理されている。ソラナはその処理速度の速さと手数料の安さから、AIのマイクロ決済に適した環境として選ばれている側面がある。

コインベースのブライアン・アームストロングCEOは、将来的にAIエージェントによる取引ボリュームが人間によるものを上回るとの予測を示している。現在はまだ実験的な段階であり、x402プロトコルの1日あたりの取引高は約28,000ドルにとどまっているが、技術の成熟とともにこの数字は飛躍的に伸びると予想されている。

独自の分析、AIエージェント経済が直面する課題と将来の展望

独自の分析、AIエージェント経済が直面する課題と将来の展望

アント・グループのAnvita参入は、中国発の技術が世界のAI経済圏で主導権を握ろうとする重要な動きだ。しかし、AIが自律的に暗号資産を操る「エージェント経済」が完全に普及するためには、克服すべき課題も少なくない。特にセキュリティと法規制の壁は高い。

普及に向けたハードルと取引ボリュームの現状

最大の懸念は、AIエージェントの「暴走」や「ハッキング」だ。AIが自律的に資産を動かす以上、バグや悪意のある指示によって予期せぬ巨額の損失が発生するリスクがある。また、現在のAI決済の多くはまだテスト段階にあり、一部の分析によれば、観測されている取引の約半分が人工的な活動(テスト用のトラフィック)であるとの指摘もある。本物の経済活動として定着するには、AIが生み出す価値がコストを明確に上回る必要がある。

さらに、匿名性の高い暗号資産をAIが扱うことに対して、規制当局は厳しい目を向けている。マネーロンダリング(資金洗浄)対策や、AIの背後にいる「責任者」の特定など、法的な枠組みの整備が不可欠だ。アント・グループが複数の国でライセンス申請を行っているのは、こうした規制リスクを正面からクリアしようとする現実的なアプローチと言える。

日本企業や投資家が注目すべきポイント

日本においても、AIとWeb3の融合は無視できないテーマだ。AIエージェントが普及すれば、企業のBtoB取引や個人の消費行動が劇的に効率化される可能性がある。例えば、在庫管理AIが自動で最適な供給元から部品を買い付け、その場でUSDC決済を完了させるといったシナリオだ。

投資家にとっては、AI決済のインフラを提供するプロジェクトや、AIエージェントが好んで利用するネットワーク(ソラナやベースなど)の動向が重要な指標となるだろう。AIは人間のように感情で動くことはなく、純粋に「コスト」と「速度」と「信頼性」でインフラを選択する。この「AIによる選択」が、将来のブロックチェーンの勢力図を塗り替えることになるかもしれない。

この記事のポイント

  • アント・グループが、AIエージェントが自律的に取引を行うプラットフォーム「Anvita」を発表した。
  • AnvitaはRWAのトークン化(TaaS)と、AI同士の調整・決済(Flow)の2つの機能を備えている。
  • AI決済には、従来の銀行システムでは困難な「マイクロ決済」を可能にする暗号資産が不可欠である。
  • Visa、Google、コインベースなどの巨人もAI決済プロトコルの覇権争いに参入している。
  • 2030年までにAIが媒介する商取引は約3兆ドルから5兆ドルに達するとの予測がある。
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