アルゴリズミックステーブルコインのBalance Coin(BNC)が99%以上の暴落を起こし、事実上無価値となった。不正流出した資産は約915Kドル(約1億3,000万円)に上る。
ブロックチェーンセキュリティ企業Slowmistの調査によると、攻撃者はBNCの基盤となるプロトコルで利用されていた価格情報(オラクル)を操作し、通常では清算されない担保を強制的に清算させたという。
この事件は、2022年のTerraUSD(UST)崩壊以来繰り返し警鐘が鳴らされてきたアルゴリズミックステーブルコインの構造的脆弱性を再び浮き彫りにした。同時に、DeFiプロトコルにおけるオラクル設計の重要性を改めて印象づける結果となっている。
Balance Coinの99%暴落とその衝撃

Cointelegraphが7月22日に報じたところによると、Balance Coin(BNC)の価格は攻撃発生前の0.9954ドルから0.001358ドルまで急落した。下落率は99.8%を超え、1ドルにペッグするよう設計されたステーブルコインとしての機能を完全に喪失している。
BNCはBalance Protocolが発行するアルゴリズミックステーブルコインで、主にビットコインキャッシュ(BCH)を裏付け資産としていた。Balance Protocolを運営するガバナンス組織は42DAOである。
Cointelegraphは42DAOにコメントを求めたが、本稿執筆時点で公式な声明は発表されていない。プロトコルのGitbookに記載された情報が、現時点で確認できる唯一の公式ドキュメントとなっている。
アルゴリズミックステーブルコインとは何か、BNCはなぜ崩壊したのか

アルゴリズムで価値を維持する仕組み
アルゴリズミックステーブルコインとは、法定通貨や暗号資産の裏付けではなく、プログラムされたアルゴリズムによって1ドルなどの目標価格を維持しようとする暗号資産だ。中央集権的な管理者を必要とせず、完全にオンチェーンで運用される点が最大の特徴である。
たとえるなら、自動運転で動くバランスボールのようなものだ。価格が1ドルを下回れば供給を減らし、1ドルを上回れば供給を増やす。この需給調整によって価格を一定に保とうとする仕組みだが、一度バランスを崩すと自己修復が極めて難しいという致命的な弱点を抱えている。
UST崩壊の教訓は活かされなかった
この弱点が最も劇的に露呈したのが2022年5月のTerraUSD(UST)崩壊だ。USTは姉妹トークンLUNAとの交換メカニズムによって1ドルを維持していたが、大口の売り圧力に耐えきれずデススパイラル(価格下落がさらなる下落を招く悪循環)に陥り、400億ドル以上の市場価値が1週間足らずで消失した。
今回のBNC暴落は、USTとは異なるメカニズムで発生したものの、根本にある問題は共通している。それは「外部データに依存するシステムの脆弱性」と「ブラックスワン的な事象への耐性不足」だ。
Slowmistが明かした攻撃の詳細、オラクル操作で複数ボールトを清算

オラクルとは何か、なぜ操作されたのか
ブロックチェーン上のスマートコントラクトは、外部の情報を自力で取得できない。そこで必要になるのがオラクル(Oracle)だ。オラクルとは、現実世界のデータ(価格情報、天候、スポーツの結果など)をブロックチェーンに橋渡しする仕組みであり、いわばブロックチェーンにとっての「通訳兼情報配信者」の役割を果たす。
DeFiプロトコルにとって最も重要なオラクルデータは価格情報だ。担保の評価額や清算ラインの判定に使われるため、この数値が正確でなければプロトコル全体の安全性が崩壊する。
1トランザクションで完結した複合攻撃
Slowmistの分析によれば、今回の攻撃者はBNCの基盤システムで参照されていたバイナンス版ビットコイン(BTCB)のオラクル価格を操作し、「異常に低い」価格を意図的に作り出した。これにより、通常であれば担保価値が十分で清算対象にならない複数のBTCBボールト(担保を預け入れる金庫のような仕組み)が、一斉に清算可能な状態に陥った。
Slowmistはこの攻撃を「1トランザクションで完結するコンボ攻撃」と表現している。MakerDAOスタイルの清算システムに存在した価格保護メカニズムの欠如と清算遅延の隙を突き、一気にアービトラージ(裁定取引)で利益を抜き取る手口だったという。
要するに、攻撃者は本来ありえない低価格をシステムに信じ込ませ、無理やり清算を発生させて差額を奪い取ったのだ。これは銀行の担保評価システムをハッキングして、十分な価値がある不動産を「無価値」と誤認させ、投げ売り価格で買い叩くような行為に近い。
DeFiセキュリティに突きつけられた課題

2026年も続くDeFiエクスプロイトの連鎖
Cointelegraphの記事が指摘するように、2026年に入ってからもDeFiプロトコルを狙った攻撃は後を絶たない。攻撃者の標的はスマートコントラクトのコード上の欠陥だけでなく、管理者権限の乗っ取りやクロスチェーンブリッジの脆弱性など、ますます多様化している。
今回のBNC事件で注目すべきは、攻撃対象がコードそのものではなく「データの信頼性」だった点だ。スマートコントラクト自体にバグがなくても、参照する外部データが汚染されれば、プロトコル全体が致命的な被害を受ける。これは単なる技術的問題ではなく、システム設計の思想そのものに関わる課題である。
AIがハッキングを加速させるわけではない
一方で、巷間言われるような「AIがDeFiハッキングを爆発的に増加させている」という見方については、業界内から慎重な声も上がっている。Dragonflyのパートナーは「AIがDeFiのハック黙示録を引き起こしたわけではない」と述べており、攻撃の本質は依然として人間による脆弱性の悪用にあるとの見解を示している。
むしろ問題の核心は、UST崩壊から4年が経過してもなお、アルゴリズミックステーブルコインの設計が根本的な改善を見せていないことにある。BNCのケースでは、価格保護メカニズムと清算遅延という、MakerDAOが初期から実装してきた基本的な安全装置が欠落していた。これは技術の未熟さというより、設計思想そのものの欠陥と言わざるを得ない。
クロスチェーン依存が生む新たなリスク
もう一点見逃せないのは、BNCがビットコインキャッシュ(BCH)を裏付けとしながらも、攻撃に利用されたのはバイナンス版ビットコイン(BTCB)のオラクルだったという皮肉な構造だ。これは単一チェーン内で完結しない、クロスチェーン的な依存関係が新たな攻撃ベクトル(侵入経路)を生み出していることを示している。
DeFiプロトコルが複数のチェーンやラップドトークン(他のブロックチェーン上の資産を代理するトークン)を扱うようになるほど、システムの複雑性は増し、検証すべきデータポイントも指数関数的に増加する。今回の事件は、その複雑性がそのままリスクの総量となることを改めて証明した形だ。
42DAOのガバナンスと今後の展望
Balance Protocolを運営する42DAOは、現時点で公式声明を発表していない。Cointelegraphの取材にも応じておらず、被害の全容や補償計画、プロトコルの再建方針は一切明らかになっていない。
BNCの価格が0.001ドル台まで下落した現状では、ペッグの回復は事実上不可能と見られている。UST崩壊後のTerraエコシステムがTerra 2.0として再出発したように、何らかの移行措置やコミュニティ主導の再建計画が必要になるだろう。しかし、42DAOの情報開示の遅れは、残存するBNC保有者の不安をさらに増幅させている。
この記事のポイント
- Balance Coin(BNC)がオラクル操作による攻撃で99%以上暴落し、915Kドル相当の資産が不正流出した
- Slowmistの分析では、MakerDAOスタイルの清算システムに価格保護と清算遅延の欠陥があったことが原因と指摘されている
- UST崩壊から4年、アルゴリズミックステーブルコインの構造的脆弱性は依然として解消されていない
- クロスチェーン的な依存関係が増すDeFiにおいて、オラクル設計とデータの信頼性確保が最重要課題となっている

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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