暗号資産取引所バイナンスへの過去最大級となる63億ドルのハッキングで、当初は従業員のノートPC1台が侵入経路とみられていたが、調査の結果さらに複数の侵害ポイントが見つかった。共同CEOのリチャード・テン氏が10月30日にビデオ声明で明らかにした。
攻撃者は証拠を消し去る自己破壊機能を使い、イーサリアムのEIP-7702というアカウント委任機能を悪用してホットウォレットを乗っ取った。通常の承認手続きを一切経ていない点が特徴だ。
バイナンスは出金を停止しており、日曜日(11月1日)の再開を目標にシステムを再構築している。損失63億ドルは全額、自己資金で補償する方針だ。
63億ドルのハッキング、侵害経路は当初想定より広範囲

テン氏は10月30日、X(旧Twitter)上でビデオ声明を公開し、進行中の調査について追加の詳細を伝えた。当初は従業員のノートPC1台が侵害された可能性が疑われていたが、その後の調査で複数の追加的な侵害ポイントが確認されたという。
テン氏は攻撃について「複雑な攻撃だった」と述べ、調査チームが追加の侵害経路を特定したものの、一連の出来事の完全な流れはまだ解明できていないことを認めた。攻撃者は自己破壊メカニズムを使って証拠を消去しており、これが追跡を難しくしている。
証拠消去が追跡を困難に
自己破壊メカニズムとは、攻撃後に痕跡を自動的に消す仕組みのことを指す。調査する側から見ると、ログやスクリプトの一部が意図的に削除されている状態であり、侵入経路の特定を遅らせる要因になる。
米メディアCoinDeskの先行報道によると、攻撃者はウォレットの権限を取得し、悪意のあるコードを使って約25億ドルをわずか数分で引き出した。総額63億ドルのうち、この部分が最初に動いた可能性が高い。
EIP-7702とは何か。攻撃者はどう悪用したのか

今回の攻撃で鍵となったのが、イーサリアムのEIP-7702(アカウント委任機能)だ。EIPとはEthereum Improvement Proposalの略で、イーサリアムの仕様を改善するための提案文書を指す。
アカウント委任機能の仕組み
EIP-7702は、ウォレットの操作権限を別のアドレスに一時的に委任できる仕組みだ。簡単なたとえを使うと、家の鍵を持っていない第三者に「特定の部屋だけ一時的に使っていいよ」と許可を出すようなものである。
本来ならこの委任には承認手続きが必要だ。しかし、テン氏の説明によると、攻撃者はこの仕組みを悪用し、バイナンスの通常の承認プロセスを経ることなくホットウォレットの支配権を握ったとされる。
通常の承認手続きを迂回
取引所のホットウォレットは、顧客の出金に応じるために一定額を常時オンラインで管理するウォレットだ。本来、そこから資金を動かすには複数の承認段階があるはずだった。
攻撃者はこの承認の壁を、EIP-7702を悪用することで回避した。つまり、鍵を盗むのではなく、鍵を使う権限そのものを不正に取得したという構図だ。暗号資産取引所のセキュリティ設計に一石を投じる事例といえる。
出金再開は日曜を目標。補償は自己資金で全額対応

バイナンスは現在、全ユーザーの出金を停止している。テン氏によると、おおよそ40時間後となる日曜日(11月1日)の再開を目標に、システムの再構築とテストを進めている。
復旧作業の対象範囲
復旧作業では、クラウドシステム、従業員のデバイス、秘密鍵の管理体制、取引署名の手続きまで幅広く見直している。単なる穴をふさぐ対応ではなく、基盤そのものの再点検に入った形だ。
63億ドル超の資金を確保済み
補償についてテン氏は、損失63億ドル全額を会社資金でカバーする方針を改めて示した。すでに63億4,000万ドル超を確保しており、そのうち50億ドルは被害に遭った暗号資産としてすでに保有していた分だ。
残りの資産は取引所と店頭取引(OTC)市場を通じて購入を進めている。補償の原資を社外から調達するのではなく、取引所自身の資金で穴埋めする姿勢を明確にしている。
準備金データに矛盾。顧客資産の裏付けに懸念

テン氏は声明で、攻撃対象はバイナンス自身のホットウォレットであり顧客資金ではないと説明した。ところが、CoinDeskによる準備金データの検証では、侵害されたウォレットが顧客残高の裏付け資産を記したリストに含まれていたことが判明した。
ホットウォレットと顧客資産の関係
取引所は一般的に、顧客から預かった資産を独自ウォレットで管理する。そのため「自社のウォレット」と「顧客資産の裏付け」は表裏一体であり、切り分けが難しいのが実情だ。
テン氏の発言と準備金データの記述に食い違いがある点は、顧客資産の保護体制に対する市場の信頼に影響を与える可能性がある。取引所の透明性が改めて問われる局面だ。
準備金証明の公表予定
バイナンスは11月2日(月)に完全な報告書を公表する前に、初期段階の準備金証明(proof-of-reserves)の更新を公開する計画だ。準備金証明とは、取引所が預かっている顧客資産を実際に保有していることを暗号技術で示す仕組みである。
並行して、法執行機関、ブロックチェーン調査会社、トークン発行体とも連携し、盗まれた資産の回収を進めている。盗難資産の追跡と凍結がどこまで機能するかが、今後の焦点になる。
この記事のポイント
- バイナンスの63億ドルハッキングで、当初想定を超える複数の侵害経路が判明した
- 攻撃者はEIP-7702を悪用し、通常の承認手続きを回避してホットウォレットを支配した
- 出金再開は日曜日(11月1日)を目標に、損失63億ドルは全額会社資金で補償する
- 準備金データの検証では、侵害ウォレットが顧客資産の裏付けリストに含まれていた
- 準備金証明の初期更新を月曜前に公表し、完全な報告書は11月2日に出す予定だ

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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