ビットコイン開発者がAI監査で85件の深刻な脆弱性を発見、24時間で5,000件報告

AIを活用した大規模なセキュリティ監査によって、ビットコイン関連の390プロジェクトから24時間で4,962件もの脆弱性が報告された。この中には85件のクリティカル(致命的)なバグが含まれている。

この監査を主導したのは、Cashuプロトコルの開発者として知られる匿名開発者Calle氏を中心とする16名のボランティアチームだ。彼らはAIモデルをビットコインのウォレットや暗号ライブラリ、インフラストラクチャに向けて、わずか1日でこれだけの成果を上げた。

つまり、ビットコインのエコシステムには想像以上の脆弱性が潜んでおり、AIの登場によってその発見速度が飛躍的に向上したということだ。この出来事は、暗号資産のセキュリティ監査のあり方を根本から変える可能性を秘めている。

24時間で5,000件近い脆弱性を検出

24時間で5,000件近い脆弱性を検出

今回の監査は、ビットコインエコシステム全体を対象にした過去に例のない規模のプロジェクトだった。16名のボランティア開発者が、AIモデルを使ってビットコインのウォレット、暗号ライブラリ、関連インフラなど390ものプロジェクトを同時にスキャンしたのである。

その結果、わずか24時間で4,962件の脆弱性が報告された。内訳はクリティカル(致命的)が85件、高深刻度が635件にのぼる。これは1人あたり1時間に約1件のクリティカルなバグを発見している計算になるという。

Calle氏はX(旧Twitter)への投稿で「状況は極めて悪い」と率直な感想を述べている。これだけの数の脆弱性が、しかもクリティカルなものまで含めて短期間で見つかったことは、ビットコインエコシステムのセキュリティがこれまでいかに手つかずだったかを物語っている。

AIエージェントが変える脆弱性発見の現場

今回の監査で使われたのは、AIエージェントと呼ばれる自律型のプログラムだ。AIエージェントとは、人間の指示に従って自律的に動作するAIシステムのことで、今回はコードベースを解析してセキュリティ上の弱点を探し出す役割を担った。

従来のセキュリティ監査では、熟練した開発者が手作業でコードを精査する必要があった。この方法は時間とコストがかかり、大規模なプロジェクトになるほど見落としも増える。ところがAIエージェントを使えば、短時間で膨大なコードをくまなくチェックできる。

この監査の自動化システムを構築したRob Hamilton氏によれば、計算コストは1日あたり約1万ドル(約150万円)程度だという。従来の手動監査と比較すれば、コストパフォーマンスは桁違いに高い。問題はバグを見つけることではなく、適切な保守担当者に報告を届けることだとHamilton氏は指摘している。

発見された脆弱性の深刻度と影響範囲

発見された脆弱性の深刻度と影響範囲

85件のクリティカルなバグとは、具体的にどれほどの危険性を持つものなのか。セキュリティの世界では、脆弱性の深刻度を「クリティカル」「高」「中」「低」のように分類するのが一般的だ。クリティカルは最も深刻で、悪用されれば資金の喪失やシステムの完全な乗っ取りにつながる可能性がある。

Calle氏によれば、クリティカルな報告の大半はプロジェクトの所有者によって迅速に検証されたという。具体的には、ローカルのテスト環境で動作するPoC(概念実証)を使って、実際に悪用できることを再現した上で報告されている。

PoC(概念実証)とは何か

PoC(Proof of Concept)とは、発見した脆弱性が実際に攻撃に使えることを示すサンプルコードのことだ。セキュリティ研究者が「このバグは理論上危険です」と言うだけでは、開発者は対応の優先度を判断できない。PoCがあることで「確かにこの手順で資金が抜き取られる」と確認できるため、修正の緊急性が明確になる。

今回の監査では、AIが見つけた脆弱性に対して人間の開発者がPoCを作成し、報告前に検証するというプロセスが取られた。AIが全てを自動化しているわけではなく、最終的な判断は依然として人間が行っている点は重要だ。

ビットコイン関連プロジェクトへの影響

監査の対象となった390プロジェクトには、ビットコインのウォレットソフトウェア、暗号技術を実装したライブラリ、ライトニングネットワーク関連のツールなどが含まれている。これらは多くのユーザーが日常的に利用している基盤技術だ。

仮にこれらの脆弱性が悪意ある攻撃者に先に見つかっていた場合、大規模な資金流出やサービスの停止といった深刻な被害が発生していた可能性がある。7月30日から発生したColdcardウォレットの不正流出事件では、2021年から放置されていたファームウェアのバグが原因で最大1億1,400万ドル(約170億円)相当の資産が盗まれた。この事例が示すように、未発見の脆弱性はいつ爆発してもおかしくない時限爆弾のようなものだ。

AIが変えるセキュリティ研究のパラダイム

AIが変えるセキュリティ研究のパラダイム

今回の監査は、AIがセキュリティ研究の常識を根本から覆しつつあることを示している。従来、脆弱性の発見には高度な専門知識と長年の経験が必要とされてきた。しかしAIの登場によって、比較的少人数のチームでも大規模な監査が可能になった。

特に注目すべきは、発見された脆弱性の報告が保守担当者を圧倒しているという現実だ。Calle氏はエコシステムに「大きな混乱が起きている」と述べ、大量の報告に埋もれている保守担当者に謝罪の言葉を添えている。チームとしても、AIが生成する「ノイズ(slop)」を適切に選別する方法をまだ学んでいる段階だという。

防御側と攻撃側の非対称性

セキュリティの世界では常に「防御側は全ての穴を塞がなければならないが、攻撃側は1つ見つければよい」という非対称性が存在する。AIはこの非対称性をさらに拡大する可能性がある。

一方で、防御側がAIを使えば、攻撃者に先んじて脆弱性を発見し修正できる可能性も高まる。Calle氏のチームが報告を急いでいる理由もここにある。「我々が発見したのと同じものを、他の誰か(攻撃者)も見つけるだろう」という危機感が背景にあるのだ。

報告のボトルネックと今後の課題

Hamilton氏が指摘するように、現在のボトルネックはバグの発見ではなく、適切な担当者への報告のルーティングだ。大量の報告を処理する仕組みが整っていなければ、せっかく見つけた脆弱性も修正されないまま放置される。

また、Calle氏は保守担当者が同じAIツールを使って報告をほぼ無料で検証できるようになったことも、迅速な報告を行う理由として挙げている。つまりAIは脆弱性の発見だけでなく、修正のプロセスにも変革をもたらしつつあるということだ。

攻撃者も同じAIツールを手にしている

攻撃者も同じAIツールを手にしている

今回の監査が示した最も重要なポイントは、AIによる脆弱性発見がもはや防御側だけの武器ではないという現実だ。攻撃者も同様のツールを利用しており、むしろ防御側よりも先に脆弱性を見つけ出す可能性すらある。

AI企業Anthropicは2026年4月、一般公開を控えた自社モデルを使った実験で、27年間も見つからなかったバグを50ドル未満のコストで発見したと発表している。このバグは銀行の接続や取引所のログイン、インターネットの大部分を支えるサーバーの暗号化ソフトウェアに存在していた。

またGoogleの脅威インテリジェンスチームも同年5月、AIモデルが見つけた脆弱性を基に攻撃を準備している犯罪グループを捕捉したと報告している。これらの事例は、AIがセキュリティのランドスケープを攻撃者側にとっても有利に変えつつあることを示している。

Coldcard事件が示す「眠れる脆弱性」の脅威

7月30日から発生したColdcardハードウェアウォレットの不正流出事件は、未発見の脆弱性がどれほどの被害をもたらすかを如実に示している。この事件では、2021年から存在していたファームウェアのバグが悪用され、最大1億1,400万ドル相当のビットコインが盗まれた。

バグはシード(秘密鍵を生成する元となるデータ)の生成に関するもので、物理デバイスへのアクセスすら必要としなかった。つまり、脆弱な鍵空間さえ特定できれば、遠隔からでも攻撃が可能だったのである。このバグがAIによって早期に発見されていれば、被害は防げたかもしれない。

セキュリティ監査の新たな課題

セキュリティ監査の新たな課題

今回のAI監査プロジェクトは大きな成果を上げた一方で、いくつかの重要な課題も浮き彫りにした。

第一に、大量の報告を処理するエコシステム側のキャパシティの問題だ。オープンソースプロジェクトの多くはボランティアベースで運営されており、突如として数百件の脆弱性報告を受け取っても対応しきれない。報告の優先順位付けやトリアージ(重症度に応じた振り分け)の仕組みが急務となっている。

第二に、AIが生成する「ノイズ」の問題がある。Calle氏が「slop」と呼ぶこの問題は、AIが誤検出(実際には問題のないコードを脆弱性と判断するケース)を大量に生み出すことを指す。これにより保守担当者の負担が増え、本当に重要な報告が埋もれるリスクがある。

第三に、責任ある情報開示(レスポンシブル・ディスクロージャー)のあり方だ。Calle氏のチームは公開前にプロジェクト所有者へ報告しているが、攻撃者が同じ発見をする前に修正を促すには、公開と非公開のバランスが難しい。Hamilton氏は今回の取り組みを「バージョン1」と位置づけており、プロセスの改善はこれからだ。

今後求められる対策

AIによるセキュリティ監査が一般化するにつれて、エコシステム全体での対応力強化が求められる。具体的には、プロジェクトがセキュリティ報告を受け付ける専用の窓口を整備すること、AIによる監査を開発プロセスに組み込むこと、そして発見された脆弱性に迅速に対応できる予算と人員を確保することが重要になる。

また、AIを活用した攻撃への備えも急務だ。防御側がAIを使う以上、攻撃側も使う。この軍拡競争とも言える状況の中で、Bitcoinエコシステムが安全性を維持できるかどうかは、コミュニティ全体の対応力にかかっている。

この記事のポイント

  • 16名のボランティア開発者がAIを使って24時間で390プロジェクトを監査し、4,962件の脆弱性を発見した
  • 内訳はクリティカルが85件、高深刻度が635件。AIの活用により従来の手動監査では不可能な速度と規模を実現した
  • 攻撃者も同様のAIツールを利用しており、Coldcard事件のように未発見の脆弱性が大きな被害につながるケースが増えている
  • 大量の報告を処理するエコシステム側のキャパシティ不足と、AIの誤検出によるノイズが新たな課題として浮上している
  • AI監査はまだ初期段階であり、プロセスの改善とエコシステム全体での対応力強化が急務だ
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