中東情勢の緊迫化に伴い、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡を巡る動きが激しさを増している。一時は停戦合意への期待から海峡が開放されるとの報道が流れたが、事態は再び不透明な局面に入った。
この地政学的な動揺は、単なるエネルギー問題にとどまらず、ビットコインをはじめとするリスク資産の価格形成に大きな影響を及ぼしている。市場は現在、4月22日に設定された停戦期限を一つの大きな分岐点として注視している状況だ。
原油価格の変動がどのようにビットコインの価格を左右し、投資家が今後どのようなシナリオに備えるべきなのか、最新のデータを基に紐解いていく。
ホルムズ海峡の再封鎖とエネルギー市場の混乱

イランが金曜日に発表したホルムズ海峡の開放に関する声明は、エネルギー市場に今年最大級の衝撃を与えた。この発表を受けて、原油価格は急激な反落を見せている。
具体的には、北海ブレント原油が12.95%下落して86.52ドルとなり、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)も14.26%下落の81.19ドルを記録した。これらはいずれも3月11日以来の安値水準であり、単日の下落幅としては4月8日以来の大きさだ。こうした原油安を受け、米株市場は上昇、債券利回りは低下、ドル安が進行する中で、ビットコインは一時78,300ドル付近の安値を付けた後、日中高値で78,300ドル台まで値を戻す場面があった。
しかし、この「開放」による市場の安堵感は長くは続かなかった。4月18日の時点で、イランは再び海峡を封鎖したと発表している。米国によるイランへの海上封鎖が解除されなかったことが理由だという。再封鎖のニュースは、市場を再び4月22日の停戦期限に向けたカウントダウンへと引き戻した。
短期間の開放中に海峡を通過できた石油・ガス・タンカーはわずか8隻にとどまった。これは、通常の交通量とは程遠い数字だ。海峡を通過するにはイランの港湾海事局やイスラム革命防衛隊(IRGC)の許可が必要であり、イランが指定した安全航路を通らなければならないなど、依然として厳しい制限下にあることが浮き彫りとなっている。
なぜ原油価格の下落がビットコインの追い風になるのか

ビットコインと原油価格の間には、マクロ経済を通じた密接な相関関係が存在する。この関係を理解する鍵は、インフレ期待と米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策にある。
原油価格が下落すると、輸送コストや製造コストが下がり、短期的にはインフレ圧力が弱まる。インフレが沈静化すれば、FRBが金利を高く維持する(ハイヤー・フォー・ロンガー)必要性が薄れ、利下げの時期が前倒しされるとの期待が高まる。ビットコインは金利が付かない資産であるため、利下げ期待による米ドル安や流動性の拡大は、価格上昇の強力なエンジンとなるのだ。
実際に、原油価格が急落した際、市場ではFRBの利下げ時期に関する予測が変化した。それまでは2027年まで利下げはないと見ていたトレーダーたちが、2026年12月までの利下げを織り込み始めたのだ。3月のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録でも、原油価格の上昇が2026年のインフレを押し上げ、中東紛争の長期化がコアインフレへの波及リスクを高めると懸念されていたため、原油安はこの懸念を和らげる要因となった。
現在のビットコインは「デジタルゴールド」としての避難先資産というよりも、流動性に敏感なリスク資産として振る舞っている。ハイテク株のセンチメントやFRBの動向、そして通貨供給量の増減に連動する傾向が強い。そのため、原油安によるマクロ環境の改善は、ビットコインにとって最もクリーンな追い風と言える。
4月22日の停戦期限に向けたカウントダウン

現在、市場のすべての視線は4月22日の停戦期限に注がれている。ホルムズ海峡は世界の石油液体消費量の約20%にあたる、日量平均2,000万バレル(2024年予測)が通過する極めて重要なルートだ。このうち、原油とコンデンセートの84%、LNG(液化天然ガス)の83%がアジア市場へと向かっている。
4月22日までに船舶の通行が正常化に向かわなければ、世界供給の5分の1を担うルートが機能不全に陥ったままとなる。紛争開始以来、すでに約5億バレルの原油が世界市場から失われており、その損失額は約500億ドルに上る。一方で、4月の世界的な地上在庫は4,500万バレルほど減少しており、需給バランスは綱渡りの状態だ。
海運会社は航行の再開に慎重な姿勢を崩していない。法的および安全上の明確な基準が示されるのを待っている状態であり、保険料も高止まりしたままだ。さらに、米海軍は海峡の一部に機雷が設置されているリスクが完全に払拭されていないと指摘している。物理的な供給の回復には、外交的な合意から数週間のタイムラグが生じるのが通例だ。例えば、ペルシャ湾からオランダのロッテルダムまで船舶が移動するには約21日を要する。
投資家は今後数日間、船舶の通過数や保険会社の対応、そして米国とイランの外交交渉における言葉の選び方に注視する必要がある。これらは、次にビットコインがどちらの方向に動くかを示唆する先行指標となるからだ。
今後のシナリオとビットコイン価格への影響

ここからの市場の展開には、大きく分けて2つのシナリオが考えられる。それぞれのシナリオがビットコインに与える影響は対照的だ。
シナリオ1、停戦が成立し航行が正常化する場合
この場合、船舶の通過数が増加し、機雷の警告が解除され、保険料も引き下げられる。原油価格は70ドル台から80ドル台へとさらに軟化する可能性がある。EIA(米国エネルギー情報局)は紛争前から市場が供給過剰気味であると見ていたため、プレミアムが剥落すれば下落幅は予想以上に大きくなるかもしれない。
このシナリオでは、FRBの利下げ期待がさらに高まり、ビットコインにとって絶好の買い場が訪れる。シティグループの強気予測では、このようなマクロ環境の改善が続けば、ビットコインは今後12ヶ月で165,000ドルに達する可能性があるとしている。
シナリオ2、停戦が名ばかりで正常化に失敗する場合
停戦が合意されたとしても、航路が政治的に管理されたままであったり、安全性が確保されなかったりする場合、船舶の通行量は回復しない。そうなれば原油価格は再び100ドルから115ドルのレンジへと跳ね上がるだろう。これは、多くの大手金融機関が予測していた水準だ。
インフレ抑制の期待が裏切られれば、利下げ観測は後退し、ビットコインは現在織り込んでいる「デエスカレーション(緊張緩和)プレミアム」を失うことになる。シティグループの弱気シナリオでは、金融引き締めが長期化するリスクによって、ビットコインが58,000ドルまで下落する可能性も指摘されている。
独自の分析、ビットコインは「流動性のカナリア」か

今回のホルムズ海峡を巡る一連の動きから見えるのは、ビットコインがもはや独立した資産クラスではなく、グローバルな流動性の変化を最も早く察知する「カナリア」のような存在になっているということだ。金(ゴールド)が地政学リスクそのものに反応して買われるのに対し、現在のビットコインは、そのリスクが引き起こす「金融政策の変化」に反応している。
これは、ビットコインの市場参加者が機関投資家中心へと移行したことの現れでもある。彼らにとってビットコインは、ドルの購買力低下や金利変動に対するレバレッジのかかったベータ(市場連動)資産なのだ。したがって、中東のニュースを追う際には「イランが何を言ったか」だけでなく、「それが原油価格を通じてFRBをどう動かすか」という一段深い視点が欠かせない。
4月22日までの4日間、市場のボラティリティは極めて高くなることが予想される。短期的な価格変動に一喜一憂するのではなく、船舶の通行量という実体経済のデータを確認しながら、冷静にマクロのトレンドを見極めることが求められるだろう。もし航行の正常化が確認されれば、それはビットコインが新たな最高値を更新するための、最後のパズルのピースになるかもしれない。
この記事のポイント
- ホルムズ海峡の再封鎖により、原油価格とビットコイン価格が再び不安定な局面に入った
- 原油安はインフレ期待を下げ、FRBの利下げを促すため、ビットコインにはプラスに働く
- 4月22日の停戦期限が、今後の供給正常化を占う最大の焦点となっている
- 船舶の通行量が1日140隻の通常水準に戻るかどうかが、強気シナリオの鍵を握る
- 正常化が失敗すれば原油は100ドル超え、ビットコインは58,000ドル付近への調整リスクがある

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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