米国とイランの緊張緩和が、暗号資産市場をはじめとするリスク資産全体を押し上げた。トランプ米大統領がイランとの間で2週間の条件付き停戦を発表したことを受け、ビットコインは72,000ドルを突破。一方、原油価格は22%以上の急落を見せた。
地政学的リスクの後退が投資家のリスク選好を高め、伝統的な金融市場とデジタル資産市場の両方で買いが優勢となった。しかし、この停戦はあくまで一時的なものであり、2週間後の行方と今週発表される米国の消費者物価指数などのマクロ経済指標が、市場の次の方向性を決める鍵となる。
停戦発表と市場の即時反応

4月8日、トランプ米大統領はソーシャルメディア「Truth Social」を通じて、イランとの条件付き停戦を発表した。内容は、イランがホルムズ海峡の「完全、即時、かつ安全な」再開に合意することを条件に、2週間の爆撃と攻撃を停止するというものだ。
この発表は、中東情勢の緊迫化に対する市場の懸念を一時的に和らげる効果をもたらした。ホルムズ海峡は世界の原油供給の大動脈であり、その封鎖リスクが後退したことで、原油価格は即座に反応した。米国産原油(WTI)先物価格は1バレル117ドル以上から91ドルへ、22%以上も急落した。
ビットコインとアルトコインの上昇
原油価格の下落、すなわちインフレ圧力の緩和期待は、リスク資産全体にとって追い風となった。ビットコインは発表後、上昇を加速させ、4月9日朝には72,300ドル台の高値を付けた。CoinGeckoのデータによれば、ビットコインは発表から24時間で3.5%上昇し、71,600ドル付近で取引されている。
アルトコイン市場でも買いが広がり、Zcash(ZEC)、LayerZero(ZRO)、Ethena(ENA)などは二桁のパーセンテージ上昇を記録した。暗号資産デリバティブ市場では、この上昇によって空売り(ショート)ポジションの清算額が4億2500万ドルに達した。一方、買い(ロング)ポジションの清算額も1億7000万ドル発生している。
伝統的市場も上昇、S&P500は3.6%高
暗号資産市場だけではなく、伝統的な株式市場も同様の上昇を見せた。米国の代表的な株価指数であるS&P500は3.6%以上上昇し、6,838ドル付近まで値を戻した。日本の日経平均株価や韓国のコスピ指数も上昇に転じ、世界的なリスクオン(リスク資産選好)のムードが鮮明となった。
「TACO」合意とその中身

今回の停戦合意は、トランプ大統領の批判者たちから「TACO」、つまり「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも腰が引ける)」の略称で皮肉られている。これは、大統領が先週「ホルムズ海峡を開かなければ文明全体が今夜滅びる」と強硬な発言をしていたことからの転換を揶揄したものだ。
合意の詳細によれば、停戦期間中、ホルムズ海峡を通過する船舶に対して、イランとオマーンが通行料を徴収することが認められる。この収益は、地域の復興資金に充てられる予定だ。海峡の安全な航行が確保される見通しが立ったことが、エネルギー市場の緊張を緩和する最大の要因となった。
市場関係者の見方:一時的な息継ぎか
暗号資産インフラ企業WeFiの共同創業者兼CEO、マクシム・サハロフ氏はDecryptに対し、この停戦が世界の暗号資産、特にステーブルコインの採用を促進する可能性があると指摘する。地政学的緊張が緩和されれば、国際的な資本移動の手段としての暗号資産の有用性が再認識されるとの見方だ。
一方で、取引所Bitrueのリサーチ責任者、アンドリ・ファウザン・アドジーマ氏は、この合意を「もろい息継ぎ」と表現する。2週間という期限付きであり、根本的な問題は何も解決されていないというのがその理由だ。支持者は現実的な交渉の結果として市場を落ち着かせたと評価するが、批判者は米国の威信と抑止力を損なう短期的な妥協だとみている。
予測市場の見通しは楽観的にシフト
停戦発表を受けて、イベントの結果を予想する「予測市場」の見通しも変化した。Decryptの親会社が運営するMyriad市場では、ビットコインが次に84,000ドルまで上昇する確率が、停戦前の43%から55%に上昇した。また、5月までにホルムズ海峡を通過する船舶の平均隻数が15隻を超える確率は、65%から88%に跳ね上がっている。
注目される今後のマクロ経済指標

地政学リスクがひとまず後退したとはいえ、市場の楽観ムードには注意すべき点がある。サハロフ氏は、今週発表される米国の消費者物価指数(CPI)など、今後のマクロ経済指標を注視する必要があると警告する。CPIが予想以上に高ければ、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ開始時期がさらに先送りされ、経済成長への懸念が再燃する可能性がある。
規制面では、米連邦預金保険公社(FDIC)が「GENIUS法」の要件に基づく提案を承認したことが前進とみられている。この提案では、ステーブルコインの発行者は発行額の100%を現金や現金同等物で裏付けすることが求められる。サハロフ氏は、これによりステーブルコインへの信頼が高まり、採用が進むと指摘する。
暗号資産市場の次の焦点
暗号資産リサーチ企業Arctic Digitalのリサーチ責任者、ジャスティン・ダネタン氏は、ビットコイン上場投資信託(ETF)の資金流入は希望をもたらすが、より広範な「リスクオフ」の市場センチメントによって抑制されていると分析する。現在の価格水準は、サイクルの底ではなく、長期投資家が平均購入コストを下げるのに満足できる水準として後から振り返られる可能性が高いとの見解を示している。
ビットコインの今後の方向性は、2週間後の停戦の行方と、インフレをはじめとするマクロ経済データがどのように展開するかにかかっている。市場の目は、ホルムズ海峡の船舶動向と、米国から発表される経済指標の両方に注がれている。
この記事のポイント
- トランプ米大統領のイランとの条件付き停戦発表が、地政学リスクを後退させた。
- ホルムズ海峡再開期待から原油価格が22%急落、インフレ懸念の緩和がリスク資産を買う材料となった。
- ビットコインは72,000ドル台まで上昇し、アルトコインや伝統的株式市場も連れ高した。
- 停戦は2週間限定であり、市場関係者は「もろい息継ぎ」と評価。根本的な解決には至っていない。
- ビットコインの次の動向は、停戦の行方と、今週発表される米国CPIなどのマクロ指標が鍵を握る。

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