Bithumbが誤送金8億円を回収へ 裁判所に資産仮差押えを申請

韓国を代表する暗号資産取引所の一つ、Bithumbが裁判所に資産の仮差押えを申請した。2月に発生した大規模な誤送金問題で、一部のユーザーが返還を拒否している約8億円相当のビットコインを回収するためだ。

問題の発端は単純な人的ミスだった。取引所スタッフが報酬プログラムの支払い通貨を「ウォン」ではなく「BTC」と誤入力した結果、一時的に40兆円を超えるビットコインが口座に表示される事態が発生した。この事件は、暗号資産取引の高速性・不可逆性と人的エラーが組み合わさることで、小さなミスが巨額の紛争に発展するリスクを浮き彫りにしている。

Bithumbが申請した資産仮差押えの内容

Bithumbが申請した資産仮差押えの内容

Bithumbは2026年4月、ソウル中央地方法院に対し、7BTCの仮差押えを申請した。この資産は時価で約8億円(約830万ドル)に相当する。仮差押えとは、訴訟が始まる前に債務者の資産の処分を禁止する保全処分の一種だ。これにより、対象となるビットコインが売却や移動されることを防ぐ。

地元メディアの報道によれば、取引所はこの措置を「仮押収」として開始した。これは本格的な民事訴訟に先立つ法的ステップであり、返還拒否を続ける一部ユーザーとの争いが法廷闘争へとエスカレートすることを意味する。仮差押えが認められれば、Bithumbは続いて本訴訟を提起し、資産の返還を正式に求めることになる。

未返還額は当初の12.3億ウォンから7BTCに

2月の誤送金発生直後、未返還の残高は約12.3億ウォン(約8.3億円)に上っていた。しかしBithumbはその後数ヶ月にわたり、ユーザーへの働きかけを続け、返還交渉を進めてきた。その結果、未返還額は7BTC(約8億円)まで減少した。今回の仮差押え申請は、最後まで応じないごく一部のユーザーを対象とした最終手段と言える。

2月に発生した「40兆円誤送金」事件の全容

2月に発生した「40兆円誤送金」事件の全容

この大規模な誤送金事件は、2026年2月6日に発生した。Bithumbが実施したプロモーションキャンペーンが発端だった。キャンペーンでは249人の当選者に対し、それぞれ62万ウォン(約46万円)を付与する予定だった。

「KRW」と「BTC」の入力ミスが大惨事に

問題は、取引所のスタッフが支払い通貨の入力フィールドで「KRW」(韓国ウォン)の代わりに「BTC」(ビットコイン)を選択したことにある。この人的ミスにより、システムは各当選者のBithumb内部口座に「62万ウォン」ではなく「62万BTC」を付与してしまった。

249人に62万BTCずつ付与された計算になるため、合計で約1億5,400万BTCが誤って口座に表示されたことになる。当時のビットコイン価格を考慮すると、その価値は40兆円(4000億ドル)を優に超える天文学的数字だ。もちろん、これはBithumbの内部台帳上の表示エラーであり、実際にブロックチェーン上でそれだけのBTCが移動したわけではない。しかしユーザーの画面上には、とてつもない金額のビットコイン残高が突然現れた。

ユーザーによる売却と取引所の即時対応

この表示エラーに気付いた一部のユーザーは、すぐに行動を起こした。誤って付与されたビットコインを売却し始めたのだ。Bithumbがすべての関連口座を凍結するまでのわずか数分の間に、ユーザーたちは合計約1,788BTCを売却した。

この大量売却により、Bithumb内のBTC/KRW(ビットコイン対韓国ウォン)価格は一時、約8,000万ウォン(約540万円)台まで急落した。取引所は直ちに誤った入力を逆転させ、売却されたコインの大半を回収することに成功した。しかし、売却代金の一部はユーザーによって引き出されたり、他の資産に変換されたりしており、完全な原状回復には至らなかった。

韓国法における「不当利得」返還義務

韓国法における「不当利得」返還義務

このような誤送金問題は、韓国では「不当利得」の法理が適用される。不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産によって利益を得て、その結果他人に損失を与えることを指す。韓国の民法は、不当利得を得た者はその利益を返還しなければならないと定めている。

地元メディアが伝える韓国の法律専門家の見解によれば、今回のケースはまさに不当利得に該当するという。誤って受け取ったビットコインそのもの、またはそれを売却して得た現金をユーザーが保有し続けることは、法律上正当な理由がないため、返還義務が生じる。

売却済みBTCの返還は時価買い戻しとなる可能性

特に問題となるのは、誤送金を受けたビットコインを既に売却してしまったケースだ。法律専門家は、ユーザーが売却したビットコインを返還する場合、現在の市場価格で買い戻す必要が生じる可能性を指摘している。2月の誤送金発生時から現在までにビットコイン価格が上昇しているため、ユーザーは当初受け取った金額よりも多い資金を用意しなければならないかもしれない。

例えば、誤送金時に1BTC=70,000ドルで売却したユーザーが、現在1BTC=71,000ドルで買い戻して返還する場合、差額の1,000ドルを自己負担することになる。これが返還を拒否するユーザーがいる一因とも考えられる。

Bithumbの市場における位置付けと影響

Bithumbの市場における位置付けと影響

Bithumbは韓国で2番目に大きい暗号資産取引所だ。CoinGeckoのデータによると、24時間取引高は3億8,800万ドルに達する。韓国最大手のUpbit(同7億8,800万ドル)に次ぐ規模である。

今回の誤送金事件とその後の対応は、取引所のリスク管理と顧客対応の在り方に一石を投じた。巨額の誤送金という前代未聞のミスを起こしながらも、大半の資産を迅速に回収し、最後は法的措置にまで踏み切る姿勢は、取引所の資産保護に対する強い意思を示している。

暗号資産取引所に共通するオペレーショナルリスク

この事件が浮き彫りにしたのは、暗号資産取引所が抱える「オペレーショナルリスク」だ。ブロックチェーン技術そのものの安全性ではなく、それを運用する人間や組織のプロセスに潜むリスクである。入力ミスという単純な人的エラーが、取引所の内部システムと暗号資産の即時決済性によって増幅され、巨額の紛争に発展した。

伝統的な銀行システムでは、多額の送金には複数者の承認や時間を要するチェック体制が働くことが多い。しかし暗号資産取引所の内部処理は、ユーザー体験の迅速さを追求するあまり、一部の操作が即座に反映されるよう設計されている。この事件は、スピードと安全性のバランス、そして人的ミスを防ぐための二重三重のチェック体制の重要性を業界全体に問いかけるものだ。

この記事のポイント

  • Bithumbは2月の誤送金で未返還の7BTC(約8億円)について、裁判所に資産の仮差押えを申請した。法的措置へとエスカレートしている。
  • 誤送金の原因はスタッフが「KRW」ではなく「BTC」と誤入力した人的ミス。249人の口座に合計40兆円相当のBTCが誤表示される事態となった。
  • ユーザーは誤送金に気付き、約1,788BTCを売却。取引所は直ちに口座を凍結し大半を回収したが、約8億円分が未返還のままとなった。
  • 韓国法では誤送金は「不当利得」に該当し、受領者は返還義務を負う。売却済みの場合は時価で買い戻す必要が生じる可能性がある。
  • この事件は、暗号資産取引の迅速性・不可逆性と人的エラーが組み合わさることで、小さなミスが巨額の紛争に発展するリスクを示している。
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