ブラックロックがOCCにGENIUS法規則修正を要求、トークン化準備資産の上限撤廃を主張

世界最大の資産運用会社ブラックロックが、米国のステーブルコイン規制を巡る重要局面で矢継ぎ早に要求を突きつけた。OCC(通貨監督庁)が提示したトークン化準備資産への数量上限案に対し、正式に反対意見を提出したのだ。

ブラックロックは自社のトークン化ファンド「BUIDL」の成長余地を狭めかねないこの規制案を「目的に対して無関係だ」と断じ、OCCに方針の撤回を求めた。同時に、適格準備資産の拡大やETFの明確な位置づけなど、多岐にわたる修正要求を展開している。

このやり取りは単なる一企業の意見表明にとどまらない。トークン化国債市場が急拡大し、伝統的金融と暗号資産の境界線が急速に溶けつつある現状を映し出す。ブラックロックの主張の行方は、今後のステーブルコイン市場の構造そのものを左右する可能性がある。

GENIUS法の施行規則策定、パブリックコメント最終日にブラックロックが動く

GENIUS法の施行規則策定、パブリックコメント最終日にブラックロックが動く

舞台は2026年5月2日。OCCが2月から開始していたGENIUS法施行規則案へのパブリックコメント募集が、この日を期限に締め切られた。GENIUS法とは2025年7月にトランプ前大統領が署名した、連邦レベルでステーブルコイン発行体を規制する包括的な法律だ。

法律の施行には各規制当局による詳細な規則策定が不可欠であり、OCCは3月2日に連邦官報で376ページに及ぶ草案を公表した。この草案に対し、ブラックロックは最終日に17ページの詳細なコメントレターを提出した。タイミングといいボリュームといい、明らかに周到に準備された対応だったと言える。

OCCの草案がカバーする論点は広範囲にわたる。準備資産の構成、自己資本のあり方、カストディ(資産保管)の手法、さらにはステーブルコイン発行体による利回り提供の禁止まで、200問を超える質問形式で業界に意見を求めた。

ブラックロックが特に焦点を当てたのは、PPSI(許可型支払ステーブルコイン発行体)に関する規定だ。PPSIとはGENIUS法のもとで連邦認可を受け、合法的にステーブルコインを発行できる事業体を指す。ブラックロックはこのPPSI向け規則の複数の条項について、詳細な修正を求めた。

20%上限案への痛烈な反論、BUIDLファンドの実績が物を言う

20%上限案への痛烈な反論、BUIDLファンドの実績が物を言う

今回のコメントレターで最も注目を集めたのが、トークン化準備資産に対する数量上限への反対だ。OCCは草案の中で、準備資産全体に占めるトークン化資産の比率を20%程度に制限する案を打診していた。

トークン化準備資産とは、国債などの伝統的金融資産をブロックチェーン上でデジタルトークン化したものを指す。通常の国債と経済的価値は同じだが、ブロックチェーン上で発行・移転されるため、決済の迅速化や24時間365日の取引が可能になる特徴がある。

ブラックロックはこの20%上限案を「OCCの規制目的に対して無関係だ」と断じた。同社の主張は明確で、準備資産のリスク特性は信用の質、デュレーション(満期までの期間)、流動性によって決まるのであって、「その資産が分散型台帳で保有・移転されているかどうか」は本質的なリスク要因ではない、という理屈だ。

BUIDLファンドが握る市場の鍵

ブラックロックがこれほど強く反対する背景には、同社が手がけるトークン化ファンド「BUIDL」の存在がある。BUIDLはトークン化された米国債ファンドとしては最大級の規模を持ち、RWA.xyzのデータによれば、純資産額は約26億ドルに達している。

さらに重要なのは、BUIDLが既に主要なステーブルコインの準備資産として深く組み込まれている点だ。EthenaのUSDtb(ステーブルコイン)と、Solana基盤のJupiterが発行するJupUSDは、いずれも準備資産の90%以上をBUIDLに依存している。

つまり、仮に20%上限が施行されれば、これらのステーブルコインは準備資産の大部分を組み替えざるを得なくなる。BUIDLの成長もまた、連邦規制の枠組みの中で大きく制約を受ける。ブラックロックにとっては、自社の戦略的中核事業が規制の壁に阻まれるシナリオを看過できないわけだ。

ブラックロックが求める3つの具体的修正

ブラックロックが求める3つの具体的修正

20%上限への反対は氷山の一角に過ぎない。ブラックロックのコメントレターは、より細かな技術的修正を多数含んでいる。中でも特に重要な要求が3つある。

ETFを準備資産として明示せよ

ブラックロックはOCCに対し、適格準備資産のみに投資するETF(上場投資信託)、とりわけ米国債ETFがGENIUS法第4条の「準備資産」に該当することを明確に確認するよう求めた。

草案にはこの点に関する曖昧さが残っており、PPSIが準備資産としてETFを保有することをためらう要因になりかねない。ブラックロックはまた、政府系マネーマーケットファンド(MMF)に認められているのと同様の数量的セーフハーバー(安全港)措置を、適格ETFにも拡大するよう求めている。セーフハーバーとは、一定の条件を満たせば規制上のリスクを問われない仕組みのことだ。

準備資産の分散規制で「オプションA」を支持

OCCは準備資産の分散に関して2つの規制アプローチを提示していた。オプションAは原則ベースの基準と数量的セーフハーバーを組み合わせる方式、オプションBは全発行体に対して単一機関への集中上限40%や加重平均満期20日以内といった基準を毎日義務付ける方式だ。

ブラックロックは明確にオプションAを支持した。ただし、そのセーフハーバー設計についても複数の修正を求めている。具体的には、自己保管する政府系MMFの持分を40%集中制限の対象から除外すること、PPSIがファンドの保有資産を個別に精査してカストディアンやサービス提供者に集中制限を適用する義務を負わないことの確認、さらに即日決済可能な政府系MMFを週次流動性要件30%に算入できるようにすることなどだ。

変動利付国債を適格リストに追加せよ

3つ目の重要な要求は、適格準備資産リストの拡大だ。ブラックロックは残存期間2年以内の米国変動利付国債(フローティングレート・ノート)を適格資産に加えるよう提案した。変動利付国債は利払いが短期金利に連動して毎週リセットされるため、価格変動が極めて小さい。準備資産としての安定性は通常の固定利付国債と遜色ないというのがブラックロックの主張だ。

加えて、将来的に新たな適格資産を追加する際の正式かつ透明性のある手続きを整備することも併せて要請した。規制の硬直化を避け、市場の進化に合わせて機動的に対応できる枠組みを求める意図が透けて見える。

コメントレターの背後にあるブラックロックの戦略

コメントレターの背後にあるブラックロックの戦略

今回のコメントレターに署名したのは、ブラックロックの流動性・資金調達グローバル責任者であるローランド・ビリャコルタ氏と、米国規制業務責任者のベンジャミン・テクマイア氏だ。単なる法務対応ではなく、経営戦略レベルの関与がうかがえる布陣である。

実際、ブラックロックはGENIUS法の施行を見据えた事業再編を既に進めている。2025年10月には、同社の「セレクト・トレジャリー・ベースド・リクイディティ・ファンド(BSTBL)」をGENIUS法準拠の商品に転換した。米国東部時間午後5時までの取引期限を設け、ポートフォリオを国債中心に再編したこの商品は、まさにステーブルコイン発行体の準備資産としての利用を念頭に置いている。

トークン化国債市場全体を見渡しても、ブラックロックの動きは突出している。サークルのUSYC(運用資産約29億ドル)こそ僅差で首位を走るものの、BUIDLの約26億ドルという規模は業界2位の地位を確固たるものにしている。GENIUS法のもとでPPSIが本格的に稼働すれば、準備資産としてのBUIDL需要はさらに加速する可能性が高い。ブラックロックの積極的な規制関与は、この巨大な商機を確実に掴むための布石と言えるだろう。

2027年1月の期限に向け加速する規制策定、他の論点も浮上

2027年1月の期限に向け加速する規制策定、他の論点も浮上

OCCの規則策定は孤立した動きではない。GENIUS法は2027年1月の施行期限を定めており、複数の連邦機関が並行して規則策定を急いでいる。

FDIC(連邦預金保険公社)は4月初旬にステーブルコイン発行体向けの独自規則案を公表した。財務省、FinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)、OFAC(外国資産管理局)も、州レベルの監督、マネーロンダリング対策プログラム、制裁コンプライアンスを扱う別個の規則案を提出している。いわば、巨大な規制パズルのピースが同時に組み上げられている段階だ。

ブラックロック以外のコメント提出者からも重要な論点が提起されている。ブルッキングス研究所はOCCへのコメントレターで自己資本要件に焦点を当て、準備資産として保有される無保険の要求払預金に対しては、より高い自己資本賦課を課すべきだと主張した。ステーブルコインの安全性を預金保険の有無という視点から問い直す、重みのある意見だ。

これらの並行する規則策定が最終的にどのような整合性をもって結実するかは、まだ見通せない。しかし、世界最大の資産運用会社がトークン化準備資産の制限撤廃を公式に要求した事実は、従来型金融と暗号資産規制の距離が決定的に縮まったことを示している。

この記事のポイント

  • ブラックロックがOCCにGENIUS法施行規則へのコメントレターを提出し、トークン化準備資産の20%上限案に反対
  • 自社のBUIDLファンドがEthena USDtbやJupiter JupUSDの準備資産の90%超を占めており、上限規制は事業戦略の中核を直撃する
  • 国債ETFの準備資産としての明示的認定、変動利付国債の適格リスト追加など、複数の修正要求を展開
  • 既にGENIUS法準拠のMMFを投入済みで、ステーブルコイン発行体向け事業を積極的に拡大中
  • 2027年1月の施行期限に向け、OCC以外の規制当局も並行して規則策定を加速させている
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