世界最大の資産運用会社である米ブラックロックは2026年3月12日、ステーキング報酬を投資家に還元する新しいイーサリアム現物ETF「iShares Staked Ethereum Trust ETF(ティッカー:ETHB)」の取引を開始した。
ブルームバーグのETFアナリスト、ジェームス・セイファート(James Seyffart)氏の報告によると、ETHBの初日の取引高は1,550万ドル(約23億円)を記録した。同氏は、この数字を「ETFの初日ローンチとしては非常に堅実なものだ」と評価している。
ETHBの登場は、従来の現物ETFに「運用報酬」という新たな付加価値を加えるものであり、機関投資家によるイーサリアム(ETH)への投資スタンスを根本から変える可能性を秘めている。
ETHBのデビューと初日の取引実績

ETHBは、運用資産残高(AUM)1億ドル以上の状態で取引を開始した。初日の取引高1,550万ドルという数字は、暗号資産関連ETFの中でも注目に値する規模だ。
市場全体が活況を呈する中でのローンチとなった。取引開始日のビットコイン(BTC)は前日比1.66%高の71,467ドル付近で推移し、イーサリアム(ETH)も1.68%高の2,098ドル台を維持している。
アナリストによる評価と市場の文脈
ジェームス・セイファート氏は自身のX(旧Twitter)アカウントにて、ETHBの取引状況について次のように述べている。
同氏は、取引の大部分が完了した時点で1,550万ドルに達したことを強調した。これは、先行して上場している通常のイーサリアム現物ETFと比較しても、ステーキング機能を付加した新商品に対する市場の関心が低くないことを示している。
ローンチまでの背景
ブラックロックは2025年時点ですでにステーキング型ETFの構想を明らかにしていた。証券取引委員会(SEC)に提出された修正S-1登録届出書によれば、同社は2026年2月からETHBのローンチに向けてイーサリアムの取得を開始していた。
世界最大の資産運用会社が自らステーキング報酬を組み込んだ商品を市場に投入したことは、暗号資産の「利回り」が伝統的な金融市場においても正当な投資リターンとして認められつつあることを象徴している。
ステーキング型ETF「ETHB」の構造と報酬体系

ETHBの最大の特徴は、保有するイーサリアムをネットワークのバリデータ(検証者)として運用し、その対価として得られる報酬を投資家に分配する点にある。
ここでいう「ステーキング」とは、イーサリアムのネットワーク維持に貢献する代わりに報酬を受け取る仕組みだ。銀行の定期預金に預けて利息をもらうイメージに近いが、ネットワークのセキュリティを支えるという技術的な役割も果たしている。
資産の運用比率と流動性の確保
ブラックロックの設計によれば、ETHBは通常、保有するイーサリアムの70%から95%をステーキングに回す。残りの5%から30%は、投資家からの解約(償還)や日々の取引に対応するための流動性として、ステーキングせずに保持される。
つまり、資産の大部分で利回りを稼ぎつつ、投資家がいつでも現金化できるように手元資金も確保するという、バランスの取れた運用体制を敷いている。
報酬の分配と手数料構造
ステーキングによって得られた報酬のうち、約82%が毎月投資家に分配される。残りの18%は、スポンサー(ブラックロック)や実行エージェントへの手数料として割り当てられる。
ETHBの年間信託報酬は0.25%に設定されているが、ローンチから1年間、または純資産が25億ドルに達するまでは、0.12%に減免されるキャンペーンを実施している。
このような手数料の引き下げ競争は、投資家にとってコストを抑えながらイーサリアムの利回りを享受できる大きなメリットとなる。
ブラックロックの戦略的転換と市場への信頼

ブラックロックがステーキング型ETFをローンチしたことは、同社の暗号資産戦略が「単なる価格露出」から「資産の最大活用」へと進化したことを意味する。
当初、米国で承認されたイーサリアム現物ETFにはステーキング機能が含まれていなかった。SECがステーキングを証券法上の問題と見なす可能性を懸念したためだ。しかし、規制環境の変化に伴い、ブラックロックはいち早くこの壁を突破した。
機関投資家の需要に応える設計
これまでのイーサリアム現物ETFは、保有しているだけではステーキング報酬を得られず、むしろ管理手数料を支払うため、実質的なリターンは現物価格の変動を下回っていた。
ETHBのようなステーキング型ETFは、管理手数料をステーキング報酬で相殺し、さらにプラスの利回りを提供できる可能性がある。これにより、長期保有を前提とする年金基金や機関投資家にとって、イーサリアムは「金(ゴールド)」のような無利息資産から、「債券」のような利付資産へとその性格を変えることになる。
規制当局との対話
ETHBのローンチ成功は、SECとの粘り強い交渉の結果でもある。SECのヘスター・パース(Hester Peirce)委員は、トークン化された証券に対する「より限定的な」免除措置を検討していると述べており、規制の枠組みが徐々に明確化していることが背景にある。
規制が整備されることで、ブラックロックのような大手金融機関が安心して新商品を投入できるようになり、それが市場の流動性と信頼性をさらに高めるという好循環が生まれている。
暗号資産ETF市場全体の資金フロー分析

ETHBのローンチ日、米国市場における他の暗号資産ETFも概ね好調な資金流入を記録した。
ビットコイン現物ETFには5,380万ドルの純流入があり、これで4営業日連続のプラスとなった。また、既存のイーサリアム現物ETF全体には7,240万ドルの流入が見られた。
ソラナとXRPの明暗
イーサリアム以外の銘柄に目を向けると、ソラナ(SOL)の現物ETFには400万ドルの流入があった。一方で、XRPの現物ETFからは600万ドルの純流出が記録されている。
XRP ETFは2月中旬以降、資金流出または流入の鈍化が続いており、投資家の関心がスマートコントラクトプラットフォームの代表格であるイーサリアムやソラナへとシフトしている傾向がうかがえる。
市場の成熟と銘柄選別
投資家は単に「暗号資産だから買う」のではなく、各銘柄の特性や利回りの有無を厳しく選別し始めている。
特にステーキング報酬という明確なインセンティブがあるイーサリアムは、他の銘柄に対して強力な差別化要因を手に入れたと言えるだろう。
独自分析:ステーキング型ETFが機関投資家の「標準」になる理由

筆者は、今後イーサリアム現物ETFの主流は、ETHBのようなステーキング型へ完全に移行すると予測する。その理由は、資本効率の圧倒的な差にある。
「持っているだけ」のコストを排除
従来のETFでは、投資家は資産管理の対価として手数料を支払うのみだった。しかし、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)を採用するイーサリアムにおいて、ステーキングを行わないことは「本来得られるはずの報酬を捨てている」ことに等しい。
これは、株式投資において配当金を受け取らない権利をわざわざ選ぶようなものであり、合理的な投資家であれば、報酬が還元されるETHBのような商品を選択するのは必然だ。
バリデータ・リスクの外部委託
個人や小規模な組織が自前でステーキングを行うには、サーバーの維持管理や「スラッシング(不正や過失による資産没収)」のリスクを負う必要がある。
ブラックロックのような大手が提供するETFを通じてステーキングを行うことで、投資家は高度なセキュリティと運用体制の恩恵を受けつつ、技術的なリスクをプロにアウトソーシングできる。この「安心感」こそが、機関投資家の巨額資金を呼び込む鍵となる。
この記事のポイント
- ブラックロックのステーキング型イーサリアムETF「ETHB」が初日取引高1,550万ドルを記録し、堅実なスタートを切った。
- ETHBは資産の70%〜95%をステーキングし、得られた報酬の約82%を投資家に還元する設計となっている。
- 初年度の信託報酬は0.12%(一定条件まで)と低く設定されており、競合他社に対する強い価格競争力を持つ。
- 市場全体ではビットコインやイーサリアムETFへの資金流入が続く中、XRPなど一部銘柄からは流出が見られ、投資家の選別が進んでいる。
- ステーキング型ETFの普及により、イーサリアムは「利回り資産」としての地位を確立し、機関投資家のポートフォリオに組み込まれやすくなる。
出典
- The Block「BlackRock’s staked Ethereum ETF records over $15.5 million volume on first day」(2026年3月13日)
- Bloomberg Analyst James Seyffart Social Media Post(2026年3月13日)
- SEC S-1 Filing: iShares Staked Ethereum Trust(2026年2月14日)

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
