資産運用の巨人ブラックロックが、伝統的金融資産のブロックチェーン上への移行、いわゆる「トークン化」の取り組みをさらに推し進めている。新たに米国債に投資するファンドと、既存の巨大マネーマーケットファンド(MMF)のオンチェーン株を発行する計画が明らかになった。
2026年5月9日、ブラックロックはこれら2件の申請を米証券取引委員会(SEC)に提出した。背景には、現実資産(RWA)のトークン化市場が1年で3倍に膨れ上がり、総額300億ドル(約4兆5,000億円)を突破したという追い風がある。金融インフラの未来像をめぐる、最大手による具体的な設計図が見えてきた形だ。
新ファンドの詳細、米国債とレポ取引で運用

最初の申請は、「ブラックロック・デイリー・リインベストメント・ステーブルコイン・リザーブ・ビークル」と名付けられた新規ファンドに関するものだ。このファンドは、現金、短期の米国債、そして米国債を担保とした翌日物のレポ取引(現金担保付き債券貸借取引)に投資する。
レポ取引とは、簡単に言えば「明日必ず買い戻す約束で、一时的に債券を担保に資金を借りる」金融取引だ。これにより、ファンドは高い安全性を保ちながら、日々の運用で安定した利回りを生み出すことを目指す。
注目すべきは、このファンドが「オンチェーン株(OnChain Shares)」と呼ばれる形で発行される点だ。ブロックチェーン上でトークンとして発行される株式であり、投資家はこのトークンを保有することでファンドの所有権を持つことになる。技術的には、これは現実資産(RWA)のトークン化と呼ばれる手法だ。つまり、紙の証明書や中央集権的なデータベースで管理されていた所有権を、ブロックチェーン上に移し替えることを意味する。
ハイブリッド設計、許可型とパブリックチェーンの融合
この新ファンドの設計で最も特徴的なのは、そのハイブリッドな管理体制だ。トークンは複数のパブリックブロックチェーンと接続された「許可型システム」を通じて発行される。つまり、誰でも閲覧できる公開台帳の技術を使いながら、参加できるのは審査を通過した投資家だけという仕組みだ。
正式な所有権記録を管理するのは、セキュリタイズ・トランスファー・エージェントという専門会社である。申請書類によれば、この会社はブロックチェーン上の記録に加えて、ウォレットアドレスと実際の投資家の身元を結びつける「オフチェーン記録」も保管する。透明性と規制遵守を両立させるための、現実的なアプローチと言える。
最低投資額は300万ドル(約4億5,000万円)に設定されており、主に機関投資家や超富裕層を対象とした設計であることがわかる。どのブロックチェーンを初期にサポートするかは、今回の申請ではまだ明らかにされていない。
70億ドルの既存ファンドをオンチェーン化、相乗効果を狙う

2つ目の申請は、新規ファンドではなく、既存の巨大ファンドの「株」をトークン化するという内容だ。対象となるのは、ブラックロックが運用する時価総額70億ドル(約1兆500億円)規模のマネーマーケットファンド(MMF)である。
マネーマーケットファンドとは、主に安全性の高い短期金融商品で運用される投資信託で、株式よりもリスクが低く、銀行預金の代替として機関投資家や企業に広く利用されている。ブラックロックはこのファンドの株式を、イーサリアムの技術標準であるERC-20形式のトークンとして発行する計画だ。
この申請では、資産管理大手のBNYメロンがトランスファーエージェントを務める。ERC-20トークンとしてブロックチェーン上に記録された所有権データと、投資家の身元情報を結びつけるオフチェーンシステムを組み合わせ、正式な株主名簿として機能させる設計である。この仕組みにより、株式の移転や決済が、従来の数日からほぼ即時に短縮される可能性がある。
ステーブルコイン準備金という表現の意味
新ファンドの名称に含まれる「ステーブルコイン・リザーブ」という言葉は、暗号資産市場との深い関係を示唆している。ステーブルコインとは、米ドルなど法定通貨と価値が1対1で連動するように設計された暗号資産で、発行企業はその価値を保証するために、米国債や現金などの安全資産を準備金として保有している。
ブラックロックの新ファンドは、大手ステーブルコイン発行企業が準備金を預ける先として直接の受け皿となることを狙っている可能性が高い。また、すでに発行されているブラックロックのトークン化ファンド「BUIDL」が、暗号資産市場で借入やレバレッジ取引の担保として広く使われている事例を考えれば、この新ファンドも同様の役割を担うと見られる。
300億ドルを突破したトークン化市場、ブラックロックが先導

ブラックロックがこの動きを加速させる背景には、RWAのトークン化市場の急拡大がある。データプロバイダーrwa.xyzの調査によれば、この市場は過去1年間で200%以上成長し、総額は300億ドルを突破した。1年前と比較して市場規模が3倍になった計算だ。
ボストンコンサルティンググループとリップル社が発表した共同レポートでは、この市場は2033年までに18.9兆ドル(約2,835兆円)に達する可能性があると予測されている。仮にこの予測が現実となれば、金融市場の基盤そのものが変わることを意味する。
トークン化が変える金融取引の常識
トークン化の利点は、決済時間の短縮、24時間365日の取引、そして透明性の向上だ。従来、投資信託の売買や株式の名義変更には数日かかることがあったが、ブロックチェーン上ではこれが数分、場合によっては数秒で完了する。土日や深夜の取引も可能になる。
ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は、トークン化を「金融インフラを近代化する手段」として繰り返し支持を表明してきた。同社は2024年に最初のトークン化MMF「BUIDL」をセキュリタイズ社と共同で立ち上げ、その資産残高は現在約25億ドル(約3,750億円)まで成長している。BUIDLはすでに、暗号資産市場全体で借入やレバレッジ取引の担保として利用が広がっており、伝統的金融と暗号資産市場の橋渡し役として機能し始めている。
この記事のポイント
- ブラックロックがSECに新たなトークン化ファンドの申請を行い、RWAトークン化への取り組みを本格化させている
- 新規の米国債ファンドと、既存の70億ドルMMFのオンチェーン株発行という2つの計画が同時に進行
- 許可型システムとパブリックブロックチェーンを組み合わせたハイブリッド設計で、規制遵守と透明性を両立する方針
- RWAトークン化市場は300億ドルを突破し、2033年には18.9兆ドルに達するとの予測もある
- 既存のBUIDLファンドが担保資産として暗号資産市場で広く利用されており、新ファンドも同様の役割が期待される

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
