世界最大の資産運用会社ブラックロックが、ビットコインETF市場で次の一手を打った。現物ビットコインへのエクスポージャーに加え、オプション戦略を用いて利回りの上乗せを狙う新しいファンドの登録申請だ。
提出されたのは証券取引委員会(SEC)へのForm 8-A。この書類は1934年証券取引所法に基づき、新規証券をSECに登録するためのものだ。ETFの立ち上げプロセスにおいて、この書類提出はローンチ直前の最終段階を示すシグナルと広く受け止められている。
本記事では、この申請の背景にある戦略的意図、商品設計上の特徴、そして競合他社の動向を詳しく解説する。ビットコインETFが「保有するだけ」の商品から「収益を生み出す」商品へ進化する局面を読み解いていく。
8-A申請の意味、ETFローンチは来週か
ブラックロックが6月12日(木曜日)に提出したForm 8-Aは、「iShares Bitcoin Premium Income ETF(ティッカーシンボル未確定)」に関するものだ。1940年投資会社法ではなく、1934年証券取引所法に基づく登録である点が特徴で、これは取引所での流通を前提とした商品であることを意味する。
ETFの打診から実際のローンチまでは通常、複数の書類提出とSECとのやり取りが必要になる。S-1(目論見書)、19b-4(取引所規則変更申請)、そしてこの8-Aという流れだ。8-Aはその最終段階に位置することが多く、市場関係者にとっては「まもなく取引が始まる」という強いシグナルになる。
The Blockの記事によると、BloombergのシニアETFアナリスト、エリック・バルチュナス氏はこの動きを「通常、1週間以内のローンチを意味する」と分析している。同氏は自身のX投稿で「賭けるなら来週の木曜日にこのETFが動き出すとみているが、成り行きを見守りたい」との見解を示した。ETFの立ち上げに詳しい専門家の発言として、市場参加者の注目を集めている。
仕組みを紐解く、IBITを活用したカバードコール戦略

スポット保有+オプション売却のハイブリッド
この新ETFの最大の特徴は、現物ビットコインへの投資とオプション取引を組み合わせている点だ。原資産としてブラックロック自身が運用する「iShares Bitcoin Trust(IBIT)」を主に使用し、そのIBITに対してコールオプションを売却する戦略をとる。
カバードコール戦略とは、簡単に言えば「保有資産を活用して定期的にプレミアム収入を得る」手法だ。ファンドはIBITを保有することでビットコイン価格の値上がり益を享受しつつ、同時にコールオプション(将来、あらかじめ決めた価格で買う権利)を売ることで、その売却代金を分配金の原資とする。株やETFの世界ではすでに広く使われている手法だが、ビットコインETFの領域で大手が本格参入するのは今回が初めてに近い。
なぜ今、利回り型か
伝統的金融の投資家にとって「インカムゲイン」という概念は投資判断の重要な軸だ。ビットコインは値上がり益(キャピタルゲイン)こそ大きいものの、株式の配当や債券の利息に相当する定期的なキャッシュフローを生まない。この点が機関投資家や個人の長期保有層にとって心理的な障壁になっていた。
ブラックロックの新商品は、まさにその穴を埋める設計だ。ビットコイン市場へのエクスポージャーを維持しながら、オプションプレミアムという形で定期的な収入が期待できる。つまり、投資家は「ビットコインを持っているだけでお金が入ってくる」感覚に近い体験を得られることになる。
注意すべきトレードオフ
ただし、この戦略には明確なトレードオフ(相反する要素の引き換え)が存在する。コールオプションを売却しているため、ビットコイン価格が急騰した場合、その上昇分の一部は享受できなくなる。オプションの買い手に権利行使されることで、せっかくの大きな値上がり益が制限されるわけだ。
一方で市場が下落基調にある局面では、オプションプレミアムがクッションとなり、現物のみを保有するよりも損失が緩和される可能性がある。横ばいや緩やかな上昇が続く相場環境が、このタイプの商品にとって最もパフォーマンスを発揮しやすい局面と言えるだろう。
手数料競争の行方、0.65%という数字の意味

ブラックロックが数日前に提出した修正申請書類によって、このETFのスポンサー手数料(運用会社が徴収する費用)が0.65%に設定されたことが明らかになった。この数字は単なるコスト表記ではなく、同社の戦略的意図を色濃く反映している。
現在市場に出回っている、あるいは申請中の競合カバードコール型ビットコインETFと比較すると、0.65%は明らかに低い水準だ。暗号資産に特化した運用商品では1%を超える手数料も珍しくない。ブラックロックはその巨大な運用規模と既存のIBITという基盤を活かし、価格競争力で市場を掌握する構えだ。
ETF市場におけるブラックロックの存在感は圧倒的だ。同社のスポットビットコインETFであるIBITは、すでに同種のファンドの中で最大の運用資産を誇る。この巨大なプラットフォームとブランド力を背景に、利回り型の新商品も一気に存在感を増す可能性が高い。
ゴールドマン・サックスも追随、高利回り型ETFの競争激化

この領域を狙うのはブラックロックだけではない。ウォール街の名門ゴールドマン・サックスもまた、独自のプレミアムインカム型ビットコインETFについてSECと協議を進めている。同社の申請は今年4月に行われており、バルチュナス氏は7月1日前後のローンチを予想している。
ゴールドマンとブラックロックという金融界の二大巨頭が、ほぼ同時期に同種の商品を投入する構図だ。この競争が激化すれば、手数料の低下や商品設計の改良が進む可能性がある。結果として投資家の選択肢が広がり、より質の高い金融商品が市場に供給される好循環が生まれるとの見方がある。
伝統的金融の巨大プレイヤーたちが「ビットコインを保有するだけのETF」の次に「ビットコインから収益を生み出すETF」へと軸足を移しつつある流れは、暗号資産市場の成熟を象徴している。現物ETFの承認からわずか数年で、派生商品の開発競争が本格化している事実は、機関投資家の需要がかつてない水準に達している証左だ。
この記事のポイント
- ブラックロックが利回り型ビットコインETFのForm 8-AをSECに提出、来週にもローンチの見通し
- IBITを原資産にカバードコール戦略を採用、値上がり益とオプションプレミアム収入の両取りを狙う設計
- スポンサー手数料は0.65%と競合比で低水準、価格競争力で市場掌握を図る
- ゴールドマン・サックスも7月の類似商品投入を準備、金融大手による派生ETF競争が本格化

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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