Block、ステーブルコイン対応へ転換|ジャック・ドーシー氏が語る「ビットコイン至上主義」の限界と現実

米決済大手Block(旧Square)のCEOであるジャック・ドーシー氏は、同社が提供する決済サービスにおいてステーブルコインのサポートを開始することを明らかにした。

ドーシー氏はこれまで、ビットコイン(BTC)こそが「インターネットのネイティブ通貨」であると主張し、同社の暗号資産戦略をビットコイン一色に染めてきた。

しかし、ステーブルコイン市場が3,180億ドル規模にまで膨れ上がり、競合他社が相次いで導入を進める中、顧客の利便性を優先するために自身の哲学を脇に置く決断を下した形だ。

ビットコイン至上主義からの「苦渋の決断」

ビットコイン至上主義からの「苦渋の決断」

ジャック・ドーシー氏は米メディア「WIRED」のインタビューに対し、Blockがステーブルコインをサポートする方針であることを認めた。

同氏はインタビューの中で「ステーブルコインをサポートすること自体は好ましくないが、顧客がそれを望んでいる」と吐露した。ビットコイン価格が67,374ドル付近で推移する中、決済手段としてのビットコインの普及を待つだけでは、現在の市場ニーズに応えられないという現実がある。

顧客需要と市場競争の圧力

Blockが方針転換を余儀なくされた背景には、決済業界における激しいシェア争いがある。

米決済大手のStripeやPayPalは、すでにステーブルコインを用いた決済インフラを構築している。特にステーブルコインは、価格変動が激しいビットコインとは異なり、法定通貨と価値が連動しているため、日常的な支払いや国際送金に適している。

ステーブルコイン(Stablecoin)とは、米ドルなどの法定通貨と1対1の価値を維持するように設計された暗号資産だ。価格が安定しているため、買い物や送金に利用しやすいという特徴がある。

ドーシー氏は「一つのゲートキーパー(中央集権的な管理者)から別のゲートキーパーへ移行することは賢明だとは思わない」と述べ、米ドルという中央集権的な通貨に依存するステーブルコインへの懸念を改めて示した。しかし、ユーザーが求める「利便性」という壁を前に、ビットコインのみを推進する従来の姿勢を維持することは困難になった。

過去の「拒絶」からの方向転換

ドーシー氏の今回の発言は、過去の強硬な姿勢と比較すると大きな転換点と言える。

2019年、当時のFacebook(現Meta)が主導したステーブルコインプロジェクト「Libra(リブラ)」に対し、ドーシー氏は「絶対に(Hell no)参加しない」と断言していた。当時の同氏は、企業が独自の通貨を発行することに対し、ビットコインの分散型の理念に反すると強く批判していた。

しかし、Block傘下のCash App(キャッシュアップ)は、2025年11月にステーブルコインのサポートを段階的に開始することを発表した。ユーザーの米ドル残高とステーブルコインを相互運用可能にする仕組みを導入しており、実利を重視するフェーズへと移行している。

ステーブルコイン市場の急拡大と決済業界の勢力図

ステーブルコイン市場の急拡大と決済業界の勢力図

ステーブルコインは、もはや暗号資産取引の「繋ぎ」としての役割を超え、実体経済における決済手段としての地位を確立しつつある。

CoinMarketCapのデータによると、ステーブルコイン全体の時価総額は3,180億ドル(約47兆円)に達している。この数字は、多くの国の法定通貨の流通量を上回る規模だ。

3,180億ドル規模に達した時価総額

市場の大部分を占めるのは、テザー(USDT)やUSDコイン(USDC)といった米ドル連動型だ。これらの資産は、特に銀行インフラが未発達な新興国において、価値の保存手段や送金手段として爆発的に普及した。

時価総額(Market Capitalization)とは、発行されているコインの総数に現在の市場価格を掛け合わせたもので、そのプロジェクトや資産の規模を表す指標となる。

決済企業にとって、この巨大な流動性を取り込むことは、もはや選択肢ではなく生存戦略となっている。Blockがステーブルコインを無視し続けることは、数百億ドル規模の決済フローを競合に明け渡すことを意味する。

競合他社の先行と市場のプレッシャー

特にStripeの動きは迅速だった。Stripeは暗号資産決済から一度撤退したものの、ステーブルコイン決済を武器に再参入を果たした。

PayPalも独自のステーブルコイン「PYUSD」を発行し、自社のエコシステム内での利用を促進している。これにより、加盟店は安価な手数料で、かつ即時に決済を完了させることが可能になった。

ドーシー氏はインタビューで競合他社の名前こそ出さなかったが、Blockの市場シェア維持のためには、ステーブルコインという「橋渡し」が必要であることを認識せざるを得なかったと推測される。

Blockの財務戦略とビットコイン保有の現状

Blockの財務戦略とビットコイン保有の現状

ステーブルコインへの対応を進める一方で、Blockの企業財務におけるビットコインの重要性は変わっていない。

同社は世界でも有数のビットコイン保有企業として知られており、その保有量は企業のアイデンティティの一部となっている。

8,888 BTCを保有する企業財務

現在、Blockは自社のバランスシート(貸借対照表)に8,888.3 BTCを保有している。その評価額は、現在の市場価格で6億ドル(約900億円)を超える。

バランスシートとは、企業がある時点でどのような資産を持ち、どのような負債を抱えているかを示す財務諸表のことだ。

同社は2020年からビットコインの蓄積を開始しており、暗号資産の将来性に賭ける姿勢を鮮明にしてきた。ドーシー氏がステーブルコインを「嫌々ながら」サポートすると表現したのは、あくまでビットコインこそが究極の解決策であるという信念を維持しているためだ。

Cash Appにおける統合の進展

Blockの主要プロダクトであるCash Appでは、すでにビットコインの売買だけでなく、ライトニングネットワークを用いた即時決済もサポートされている。

ライトニングネットワーク(Lightning Network)とは、ビットコインのブロックチェーンの外で取引を処理することで、手数料を安く、処理速度を劇的に向上させる技術だ。

今後は、このビットコイン・エコシステムの中にステーブルコインが組み込まれることになる。具体的には、ステーブルコインでの入金を即座に米ドルやビットコインに変換する機能などが想定されており、ユーザーにとっては「ビットコインの理想」と「ステーブルコインの現実」を使い分ける環境が整うことになる。

AIによる組織再編と「効率化」の裏側

AIによる組織再編と「効率化」の裏側

ドーシー氏のインタビューでは、暗号資産戦略だけでなく、同社の組織構造に関する大幅な変更についても触れられた。

Blockは最近、全従業員の約40%を削減するという大規模なリストラを実施した。この背景には、人工知能(AI)の活用による業務プロセスの根本的な変革がある。

従業員40%削減の衝撃

この大規模な人員削減は業界に衝撃を与えたが、ドーシー氏は「コスト削減のためのリストラではない」と強調している。

同氏によれば、Blockの従業員一人当たりの収益性はすでに競合他社を上回っていた。今回の削減は、AIツールの導入によって、より少人数のチームでより迅速に開発を行うための「構造改革」であるという。

AIが変える決済企業の構造

ドーシー氏は「AIツールは企業の構造を完全に変える未来を提示している」と述べた。

決済ビジネスにおいて、カスタマーサポートや不正検知、コードの記述といった業務の多くがAIによって自動化されつつある。これにより、Blockは肥大化した組織をスリム化し、再びスタートアップのような俊敏性を取り戻そうとしている。

AI(人工知能)の導入は、単なるツールの追加ではなく、組織の「形」そのものを再定義するプロセスだと言える。つまり、人間が介在していた多くのプロセスをアルゴリズムが代替することで、より効率的な運営を目指しているのだ。

独自分析:理想と現実のギャップをどう埋めるか

独自分析:理想と現実のギャップをどう埋めるか

ジャック・ドーシー氏の今回の決断は、暗号資産界における「理想主義」と、上場企業の経営者としての「現実主義」の激しい衝突を象徴している。

ビットコイン単一主義の限界

ビットコインは確かに分散型の優れた資産だが、決済手段としては依然として高いボラティリティ(価格変動性)という課題を抱えている。

一般の消費者がコーヒーを買う際に、数分で価値が変わる可能性がある通貨を使うのは心理的ハードルが高い。一方で、ステーブルコインは「デジタルのドル」として機能し、既存の商慣習にそのまま適合する。

ドーシー氏がステーブルコインを認めたことは、ビットコインが「決済の主役」になるまでには、まだ相当な時間がかかることを認めたも同然だ。

「ゲートキーパー」としてのジレンマ

ドーシー氏が懸念するように、ステーブルコインの多くは中央集権的な企業によって発行されており、規制当局の指示一つで資産が凍結されるリスクがある。これは「誰にも支配されないお金」を目指すビットコインの哲学とは真逆のものだ。

しかし、Blockという企業が成長し続けるためには、ユーザーをStripeやPayPalに奪われるわけにはいかない。今回の決断は、長期的にはビットコインの世界を目指しつつも、短期的にはステーブルコインという「妥協点」を受け入れるという、高度な政治的判断であったと言える。

この記事のポイント

  • Blockのジャック・ドーシーCEOは、顧客需要に応えるため、嫌々ながらもステーブルコインのサポートを表明した。
  • ステーブルコイン市場は3,180億ドル規模に成長しており、StripeやPayPalといった競合他社に追随する必要があった。
  • Blockは依然として8,888 BTCを保有しており、ビットコインをインターネットの基盤通貨とする長期的な信念は変えていない。
  • 組織面ではAI活用による効率化を理由に従業員の40%を削減し、よりスリムな体制で決済インフラの構築を急いでいる。
  • 今回の転換は、暗号資産の理想と、決済ビジネスにおける実用性のバランスを取るための戦略的な一歩である。

出典

  • CoinDesk「Bitcoin purist Jack Dorsey says that his firm is reluctantly giving in to stablecoin craze」(2026年3月7日)
  • WIRED「Jack Dorsey Explains Block Layoffs and the Future of AI」(2026年3月7日)
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