米金融大手BNY(バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)が、同社の中核業務である送金代行業務をブロックチェーン上に移行する計画を明らかにした。これは単なる実験ではない。総額約8.6兆ドル(約1,290兆円)の資産を管理する巨大な記録台帳をオンチェーン化し、金融取引の裏方である決済プロセスを抜本的に効率化する試みだ。
フィナンシャル・タイムズが2026年7月29日に報じ、後にBNYも公式に認めたこの動きは、伝統金融とブロックチェーン技術の融合が、活用段階へと本格的に移行したことを示す大きな一歩と言えるだろう。機関投資家向けの「トークン化ファンド」という新しい潮流を支えるインフラとしても、このニュースは見過ごせない。
「帳簿をオンチェーンに載せる決断

BNYが刷新の対象にしたのは「送金代行業務(トランスファー・エージェント)」と呼ばれる分野だ。これは投資信託やETF(上場投資信託)などの金融商品において、誰がどれだけ保有しているのかという株主名簿のような「所有者台帳」を管理し、分配金の支払いや取引の記録を行う業務を指す。金融市場のいわば「戸籍係」であり、極めて地味だが巨大で不可欠な機能だ。
BNYの発表によると、同社はこの送金代行業務を従来のシステムからブロックチェーン基盤に移行する。現在、BNYは760万の口座で約8.6兆ドルの資産を管理しており、この移行によって、複数の仲介業者が別々に保持していた記録を単一のオンチェーン台帳に統合する。記録の重複や照合作業に伴う時間とコストを削減できるというわけだ。
BNYの最高製品・イノベーション責任者であるキャロリン・ワインバーグ氏は、この動きについてこう説明する。「我々はBNYを、すべてのファンド取引の背後にある機能を近代化する存在だと考えている。帳簿と記録をオンチェーンに載せることで、それを実現する」。242年の歴史を持つ金融機関のトップが語るには、あまりに大胆な変革の宣言だ。
はじめての「完全ネイティブ」な規制下ファンド

この新しいブロックチェーン基盤を最初に利用する顧客として、具体的な名前も挙がっている。資産運用大手のベイリー・ギフォード、世界最大の資産運用会社であるブラックロック、そしてBNY傘下で短期金融市場を手がけるドレイファスだ。
特にベイリー・ギフォードは、BNYの新サービスを活用し「英国で規制された初の完全ネイティブなトークン化ファンド」を立ち上げるという。ここで言う「完全ネイティブ」とは、既存の証券を裏付けとしてトークンを発行するのではなく、ファンドそのものがブロックチェーン上で生まれ、その所有権がトークンとして表現される形態を指す。規制当局の認可を受けた金融商品として、この形式が実現するのは大きな前進だ。
近年、ブラックロックやフランクリン・テンプルトンといった大手運用会社は、短期国債などで運用するトークン化されたマネーマーケットファンド(MMF)を次々と立ち上げてきた。これらのファンドは、運用資産そのものは従来型の短期債券や現金だが、投資家に配られる所有権の証明がブロックチェーントークンとして発行される。BNYの新基盤は、こうしたトークン化商品の「戸籍係」として、より効率的に機能することになる。
新旧システムは共存、サイバーリスクも課題

とはいえ、BNYは既存のシステムをすぐに廃止するわけではない。BNYの資産管理部門のグローバル責任者であるエミリー・ポートニー氏は、「我々は、数兆ドル規模のファンドが今後も従来のレールの上に存在し続けることを完全に認識している」と述べており、当面は新旧システムの併用が続く見通しだ。
この現実的な姿勢の背景には、技術的なリスクへの冷静な評価がある。ブロックチェーンは透明性と効率をもたらす一方で、スマートコントラクトのバグや、異なるブロックチェーンをつなぐブリッジの脆弱性といったサイバーリスクも抱えている。数兆ドルを預かる銀行にとって、実験と安定のバランスを取ることは最重要課題だ。
BNYの総預かり資産は59兆ドル超にのぼる。その基盤を支える記録管理システムの一部をブロックチェーンに置き換えることは、技術的な挑戦以上に、金融システム全体の信頼性をどう維持するかという問いでもある。BNYの賭けは、単一の所有権台帳が、いまも資金管理業務で発生している高コストな照合作業の一部を代替できる、という点にある。
アンビル、銀行の共通インフラ構想

BNYの動きは、単独で進行しているわけではない。紹介記事で言及されている「アンビル(Anvil)」は、複数の金融機関が共有するオンチェーンの担保管理レイヤーだ。これは「プログラマブルな信用状」の仕組みで、融資を実行することなく資産を担保として予約し、金利を発生させず、各機関が自ら資産の保管と利回りを維持できる設計になっている。
つまり、銀行間で担保を融通し合う際に、従来のように資金を実際に移動させるのではなく、ブロックチェーン上で「この資産は担保としてロックされている」という状態を共有する。資本効率を高めつつ、取引相手のリスクを管理できる仕組みで、ウォール街の大手行がこぞって開発を進めているトークン化預金ネットワークの一部と見ることができる。
この記事のポイント
- BNYは8.6兆ドル規模の送金代行業務をブロックチェーン上に移行し、記録管理を効率化する計画を発表した
- ベイリー・ギフォードやブラックロックといった大手顧客が、この新基盤を利用したトークン化ファンドを準備している
- ブロックチェーン化により仲介者を減らし単一の台帳で管理する一方、当面は従来システムとの併用が続き、スマートコントラクトのリスクなどの課題も残る
- 銀行間で担保を共有管理する「アンビル」など、金融インフラ全体のオンチェーン化が並行して進行している

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
分かりやすい解説で、ブロックチェーン革命の潮流を一般に広めることを目指す。初心者から上級者まで、最新情報を求めるすべての人に役立つ情報発信を心がけている。
