暗号資産取引所を運営するBullishが、株主名簿管理人であるEquinitiを42億ドルで買収する。これは単なる企業買収の規模感の話だけではない。伝統的な株式インフラとブロックチェーン基盤をつなぐ、インフラ獲得戦争の一幕だ。
Bullishのトム・ファーリーCEOは、この買収によって証券の発行から取引までの一貫体制を整えるとしている。今回の買収で変わるのは、ステーブルコインやビットコインの価格だけではない。企業の資金調達の在り方そのものに影響が及ぶ可能性がある。
買収の詳細とBullishの狙い

暗号資産取引所のBullishが、株主管理サービスを手掛けるEquinitiを買収する。買収総額は約42億ドルで、うち18.5億ドルはEquinitiが抱える負債の引き受け、残り約23.5億ドルはBullishの株式で支払われる。この株式の評価額は、2026年5月4日までの30日間のVWAP(出来高加重平均価格)に基づき、1株あたり38.48ドルと算定された。
発表直後のプレマーケット取引で、Bullishの株価は約1.5%下落している。市場がこの巨額買収のリスクとリターンを測りかねている様子がうかがえる。
Equinitiとは何か
Equinitiは、企業の「株主名簿管理人(トランスファー・エージェント)」として知られる存在だ。企業が株式を発行する際、誰が何株持っているのかを正確に記録し、配当金の支払いを代行する。日本でいえば、証券代行業務に近い。
その規模は大きい。Equinitiは2,500社以上の企業と2,000万人超の株主の記録を管理し、年間で約5,000億ドルもの配当や関連支払いを処理する。株式の所有権における「公式の記録係」として、3,000近い発行体と15,000の法人顧客を抱えている。
なぜ「トークン化証券」に株主名簿管理人が不可欠なのか
トークン化証券とは、株式や債券といった伝統的な金融商品をブロックチェーン上でデジタルトークンとして表現したものだ。取引の効率化や24時間365日の売買を可能にする利点がある。しかし、ここで長年無視されてきた課題が「誰が公式の株主記録を担うのか」という点だった。
株式は単なるデータではない。法律上の所有権が問われる対象であり、議決権や配当受領権と直結している。ブロックチェーンだけでこれを完結させるには、規制上の壁があった。Bullishは規制された株主名簿管理人を傘下に収めることで、トークン化証券の発行から管理、取引までを法的に矛盾なくつなげようとしている。
統合で実現する一貫インフラ

Bullishのトム・ファーリーCEOは声明で「トークン化は資本市場の運営方法における、数十年に一度の変化」と述べている。具体的には、トークンの設計から発行、法令遵守、名簿管理、流通市場での取引までを一社で提供する体制を目指すという。これまで暗号資産業界は、取引や技術開発、規制対応を個別の企業が担ってきた。Bullishはこの縦割りを一気に統合しようとしている。
同CEOはさらに、機関投資家が本格的にトークン化証券を採用するには「一貫したトークン化サービス」「単一の統合台帳」「規模のある発行体との関係」の3つが必要だと指摘する。Equinitiの買収は、まさにこの条件を一挙に満たす一手だ。
Equinitiの既存体制は維持される
買収後も、Equinitiのダン・クレイマーCEOをはじめとする経営陣は現状のまま業務を継続する。日常のオペレーションや規制対応、顧客との関係はこれまで通りだ。BullishはEquinitiを吸収合併するのではなく、事業単位として生かしながらブロックチェーンの要素を重ねていく方針とみられる。
統合会社の収益見通し
今回の発表では、統合後の収益見通しにも触れられている。2026年通期の調整後売上高は約13億ドル、調整後EBITDAから設備投資を差し引いた額は5億ドルを超えると予想される。2029年までの年間収益成長率は6%から8%を見込み、トークン化とブロックチェーン関連サービスからの成長率は20%に達するという。ちなみにBullishの2025年通期実績は、調整後売上高2億8,850万ドルに対して調整後EBITDAが9,430万ドルだった。
加速するインフラ獲得競争

BullishのEquiniti買収は、暗号資産業界で進行中のM&A(合併・買収)の流れを象徴する出来事だ。とりわけ2025年以降、規制の明確化と機関投資家の関心再燃を背景に、業界再編の動きが急加速している。
Pitchbookのデータによると、2025年には260件以上のM&Aが成立し、総額は約86億ドルに上った。この金額は前年の約4倍にあたる。Krakenによるデリバティブ取引所の買収、MoonPayの決済インフラ企業獲得といった大型案件は、いずれも投機的な動きではなく、事業基盤を強化する縦型統合へのシフトを示している。
Equinitiの買収額42億ドルは、暗号資産関連のM&Aとして過去最大級だ。Coinbaseがデリバティブ取引所Deribitを29億ドルで買収した案件や、KrakenがNinjaTraderを15億ドルで取得した取引を大きく上回る。もはや取引所同士の買収合戦ではなく、規制された金融インフラそのものを取り合う段階に入ったといえる。
伝統的な金融インフラとの融合が目前に
今回の買収は、既存の金融大手がトークン化証券に傾斜する流れとも呼応する。つい先日も、資産運用大手ブラックロックが出資するSecuritizeと、株主管理のComputershareが提携し、70兆ドル規模とされる米国株式市場の一部をブロックチェーン上に移行する計画を発表したばかりだ。Bullishの動きは、このトレンドを一段と加速させる可能性が高い。
Bullishの拡大戦略と今後の展望

Bullishは昨年株式を公開したばかりの企業だが、拡大路線は着実に進めてきた。Equiniti以前の直近の大型買収といえば、2023年にデジタル・カレンシー・グループからCoinDeskを取得した案件だ。メディアやデータ、指数サービスに進出したこの買収に続き、2024年には英国で規制されたベンチマーク管理者であり、デジタル資産データや指数ソリューションの主要プロバイダーであるCCDataも傘下に収めている。
Equiniti買収の手続きは2027年初頭の完了を見込んでおり、規制当局の承認が条件となる。買収の財務アドバイザーにはGoldman SachsがBullish側に、Siris Capital側にはEvercoreとFT Partnersが就いた。Siris Capitalは2021年にEquinitiを買収したファンドで、今回の取引後も統合会社の取締役会に2議席を確保し、Equinitiの一部「非中核」事業を買い戻すコールオプションを保有する契約となっている。
この記事のポイント
- Bullishが株主名簿管理人のEquinitiを約42億ドルで買収し、トークン化証券の一貫インフラを構築する
- Equinitiは2,500社超、2,000万人の株主情報を管理する株式インフラの中核企業
- 買収総額は暗号資産関連M&Aとして過去最大級で、インフラ獲得競争の激化を示す
- トークン化証券の普及には規制された名簿管理人の存在が不可欠との認識が背景にある
- 取引完了は2027年初頭を見込み、Equinitiの経営陣は続投する

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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