カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、州政府の公職者が予測市場を利用して不正な利益を得ることを禁止する知事令に署名した。この措置は、政治や経済のイベントを左右できる立場にある者が、非公開情報を悪用して賭けを行う「インサイダー取引」を防ぐことを目的としている。
背景には、Polymarket(ポリマーケット)などの分散型予測市場で、国家機密に近い情報を持つ人物が不自然な利益を上げているとの疑念が強まったことがある。公共の利益を守るべき立場にある者が、職務を通じて得た情報を「金儲けの道具」にすることを州として明確に禁じた形だ。
この規制は、暗号資産(仮想通貨)を利用した予測市場が急速に普及する中で、公職者の倫理観を改めて問うものといえる。連邦政府レベルでも同様の法案が提出されており、予測市場を取り巻く法的な包囲網は着実に狭まっている。
カリフォルニア州が予測市場のインサイダー取引を禁止

ギャビン・ニューサム知事が署名した知事令は、予測市場における公職者の不正行為を厳格に制限する内容となっている。特に、自らの職務を通じて得た「非公開情報」を基に、政治的・経済的な出来事の結果に賭ける行為を重く見ている。
知事令の具体的な対象と禁止事項
今回の知事令の対象となるのは、知事によって任命された「知事任命の公職者(Gubernatorial appointees)」だ。彼らは職務上、一般には公開されていない重要な政策決定や経済指標にいち早く触れる立場にある。
禁止されるのは、こうした非公開情報を利用して、関連する予測市場で利益を得ることだ。さらに、この規制は公職者本人だけでなく、その配偶者、家族、さらには元ビジネスパートナーにまで及ぶ。身内や関係者を介した情報の横流しや、代理での取引も封じ込める狙いがある。
州政府による「クリーンな公務」への意志
ニューサム知事は声明の中で、「公務は一攫千金の手段であってはならない」と断じている。また、トランプ政権下のワシントンD.C.で倫理的な失敗やインサイダーによる利益追求が蔓延していると批判した上で、カリフォルニア州はそれとは一線を画すと強調した。
公職に就く者は、個人の利益ではなく公共の利益に奉仕すべきであるという原則を、予測市場という新しいテクノロジーの分野でも徹底させる姿勢だ。この知事令は、州政府の透明性を高めるための重要な一歩と位置づけられている。
規制のきっかけとなった不審な取引事例

なぜ今、予測市場に対する規制が急務となっているのか。その背景には、実際の市場で「内部情報が漏れている」としか思えないような極めて正確、かつタイミングの良すぎる取引が相次いだ事実がある。
イラン空爆をめぐる多額の利益
ニューサム知事のオフィスは、具体的な疑わしい事例として、米国によるイランへの攻撃に関連した取引を挙げている。記事によれば、米国の軍事行動が公表される前に、その結果を正確に予測して賭けを行い、多額の利益を得た「政治的インサイダー」と疑われる人物が少なくとも6名確認されているという。
軍事行動のような国家の安全保障に関わる情報が、一部の者のギャンブルの材料にされているという事実は、政府にとって看過できない事態だ。これは単なる不正取引の枠を超え、国家機密の保持という観点からも深刻な問題として捉えられている。
マドゥロ前大統領の拘束を予見した取引
もう一つの事例は、2026年1月に発生したベネズエラのニコラス・マドゥロ前大統領の拘束に関するものだ。あるPolymarketのユーザーは、マドゥロ氏が拘束されるわずか数時間前に「拘束される」という結果に賭け、410,000ドル付近の利益を上げた。
このユーザーは利益を確定させた後、静かに姿を消したという。このようなタイミングでの巨額の賭けは、偶然とは考えにくく、事前に情報を入手していた可能性が極めて高いと指摘されている。予測市場が、本来の「大衆の知恵を集約する場」から、「情報を知る者が確実に稼ぐ場」に変質している懸念が強まっている。
米連邦レベルで加速する法整備の動き

予測市場におけるインサイダー取引への懸念は、カリフォルニア州だけにとどまらない。米連邦議会でも、政府関係者による賭けを禁止するための法案が相次いで提出されている。
「BETS OFF法案」による機密情報の保護
2026年3月、テキサス州選出のグレッグ・カサー下院議員とコネチカット州選出のクリス・マーフィー上院議員は、「BETS OFF(Banning Event Trading on Sensitive Operations and Federal Functions)法案」を導入した。この法案は、政府のインサイダーが戦争や死亡に関連する市場で利益を得ることを禁止するものだ。
カサー議員は、国家の機密事項や人命に関わる出来事が賭けの対象となり、それを知る立場の人間が私腹を肥やす現状を厳しく批判している。連邦レベルでの規制は、州ごとのルールのばらつきを抑え、全米規模で予測市場の健全性を確保することを目指している。
「PREDICT法案」が目指す議会の透明性
同時期に、エイドリアン・スミス下院議員とニッキ・ブジンスキー下院議員も「PREDICT(Preventing Real-time Exploitation and Deceptive Insider Congressional Trading)法案」を提出した。この法案は、米大統領、国会議員、およびその他の政府高官が予測市場で賭けを行うこと自体を禁止する内容だ。
これまで米議会では、議員による個別株の取引も問題視されてきたが、予測市場はその「イベント版」ともいえる。自らが法律を作り、政策を決定する立場にある者が、その結果に賭けることは利益相反の最たるものだ。これらの法案は、政治家に対する国民の信頼を取り戻すための不可欠なプロセスといえる。
予測市場の仕組みと社会的意義

ここで改めて、規制の対象となっている「予測市場」とは何かを整理しておこう。予測市場とは、将来起こる出来事の結果に対して、参加者が資金を投じて予測を行うプラットフォームのことだ。
分散型プラットフォームが提供する「情報の集約」
特に近年注目を集めているのが、Polymarketのような暗号資産を活用した分散型予測市場だ。これらは中央集権的な管理者がいなくても、スマートコントラクトによって自動的に取引が執行される。参加者はUSDCなどのステーブルコインを使い、「YES」か「NO」かのチケットを購入する。
予測市場には「大衆の知恵(Wisdom of Crowds)」を集約する機能がある。多くの人が自分のお金を賭けて真剣に予測することで、既存の世論調査や専門家の分析よりも正確な予測データが得られることが多い。これが、予測市場が「情報の集約装置」として期待される理由だ。
なぜインサイダー取引が問題視されるのか
予測市場が正しく機能するためには、「すべての参加者が公開された情報に基づいて判断する」という公平性が前提となる。しかし、一部の公職者が非公開の機密情報を持って市場に参入すれば、その公平性は崩壊する。インサイダー取引とは、いわば「答えを知っているテスト」に自分だけ参加するようなものだ。
インサイダーが市場を支配すると、一般の参加者は損失を恐れて市場から離れてしまう。結果として、予測市場の最大の特徴である「多様な意見の集約」ができなくなり、プラットフォームとしての価値が失われてしまうのだ。つまり、規制は市場を破壊するためではなく、市場の健全な発展を守るために必要な措置といえる。
独自分析:規制は予測市場の「信頼性」を高めるか

今回のカリフォルニア州による規制や、連邦レベルでの法整備の動きは、短期的には予測市場への制約に見えるかもしれない。しかし、長期的にはこの業界が「メインストリーム」へと浮上するための重要なステップになると考えられる。
予測市場はこれまで、一種の「グレーなギャンブル」として扱われることが多かった。しかし、米CFTC(商品先物取引委員会)との法的争いや、今回のインサイダー規制を通じて、ルールが明確化されつつある。ルールが明確になれば、機関投資家や一般ユーザーも安心して参加できるようになり、市場の流動性はさらに向上するだろう。
また、インサイダーを排除することは、予測データの精度を高めることにもつながる。不正なバイアスがかからないデータは、企業や政府にとっても価値のある「先行指標」となる。カリフォルニア州の動きをきっかけに、他の州や国でも同様の倫理規定が整備されれば、予測市場は単なる賭け事の場から、社会の意思決定を支える「真実の機械(Truth Machine)」へと進化する可能性がある。
この記事のポイント
- カリフォルニア州のニューサム知事が、公職者による予測市場でのインサイダー取引を禁止する知事令に署名した。
- 規制の対象は知事任命の公職者だけでなく、その家族や元ビジネスパートナーにも及ぶ広範なものだ。
- イラン空爆やベネズエラ大統領拘束など、非公開情報を利用したと疑われる不自然な取引が相次いだことが規制の背景にある。
- 米連邦議会でも「BETS OFF法案」や「PREDICT法案」が提出されており、国全体で予測市場の透明性を高める動きが加速している。
- インサイダーの排除は、予測市場の公平性を保ち、データの信頼性を高めることで、業界の健全な発展に寄与すると期待される。
出典
- Cointelegraph「California governor signs order banning prediction market insider trading」(2026年3月27日)

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