米商品先物取引委員会(CFTC)のマイケル・セリグ議長が、暗号資産分野における規制の明確化に向けた具体的な計画を提示した。DeFi(分散型金融)開発者向けガイダンス、予測市場のルール策定、暗号資産デリバティブ規制の見直しが含まれる。
セリグ議長は米国を「暗号資産の世界の首都」と位置付け、証券取引委員会(SEC)との連携強化を軸に主導権を確立する方針を示した。規制の不確実性が続く分野に、初めて包括的な道筋が示されることになる。
「プロジェクト・クリプト」でSECとの連携強化

CFTCのマイケル・セリグ議長は3月10日、フロリダ州ボカラトンで開催されたFIAグローバル・クリアード・マーケット・カンファレンスで演説した。その中で、SECとの長年の縄張り争いに終止符を打つ新たな共同イニシアチブ「プロジェクト・クリプト」を発表した。
「CFTCとSECの対立の時代は終わった」。セリグ議長はこう述べ、SECのポール・アトキンス議長との連携を強調した。両当局が協調して規制アプローチを構築することで、米国がデジタル資産における世界的なリーダーシップを取り戻すという見解を示した。
規制の空白地帯を埋める共同戦略
「プロジェクト・クリプト」の具体的な内容は明らかにされていない。しかし、暗号資産が証券なのか商品なのかという根本的な分類問題や、複数の規制当局の管轄が重複する事業者への対応を、調整して進める枠組みとみられる。
これまで暗号資産業界は、CFTCとSECのどちらの規制が適用されるか不透明な状態に置かれてきた。事業者は二重の規制コストや矛盾する指導に直面するリスクを抱えていた。共同イニシアチブは、この不確実性を軽減することを目的としている。
「暗号資産の首都」としての宣言
セリグ議長は演説で、米国が「暗号資産の世界の首都」であると宣言した。これは、規制の厳格さがイノベーションを海外に追いやっているという業界からの批判を意識した発言だ。
規制の明確化と当局間の協調を通じて、米国内で暗号資産関連ビジネスが成長しやすい環境を整える意図がある。この発言は、米国がシンガポールやアラブ首長国連邦(UAE)などの規制が先行する地域に対し、存在感を示すものと解釈できる。
予測市場への積極的な規制介入

セリグ議長が最も具体的な方針を示した分野の一つが、予測市場だ。予測市場とは、選挙の結果や経済指標、スポーツイベントの勝敗など、現実世界の事象の結果について取引できるプラットフォームを指す。ブロックチェーン上ではPolymarketやKalshiなどのプラットフォームが知られる。
CFTCはこれらの商品を「イベント契約」として規制する権限を持つ。議長は「市場参加者は明確性を求めている」と述べ、ガイダンスを発出するとともに、規則制定プロセスを開始して公衆の意見を求める方針を明らかにした。
ニッチから30億ドル規模の市場へ
予測市場はもはやニッチな存在ではない。ある業界関係者は、この市場が年間30億ドルの取引高に達する可能性があると指摘している。2024年の米大統領選挙をはじめ、地政学的リスクや企業業績に関する取引が活発化している。
市場の急成長に伴い、規制の必要性が高まっている。投資家保護の観点から、市場操作や不正行為を防ぐルールが必要とされている。同時に、政治的結果を取引の対象とすることへの倫理的懸念から、複数の州が予測市場を禁止する動きも見られる。
州当局との管轄権争いへの対応
セリグ議長は、予測市場を規制する連邦当局としてCFTCの役割を明確に主張した。いくつかの州が予測市場の運営に異議を唱える訴訟を起こしている状況を踏まえ、「当局の声が届くように訴訟戦略を評価し続ける」と述べた。
これは、CFTCが州レベルでの規制の動きに対し、連邦レベルでの規制枠組みを確立することで主導権を握ろうとする姿勢を示している。規制の一貫性を確保し、全国的に統一された市場を維持することが目的だ。
DeFi開発者への規制ガイダンス策定へ

暗号資産業界が最も注目しているのが、DeFiに対するCFTCの規制方針だ。DeFiとは、ブロックチェーン上で銀行や証券会社のような金融サービスを提供する、非中央集権的なプロトコルの総称である。取引所や融資サービスが代表例だ。
セリグ議長は「ソフトウェア提供者がCFTCの登録要件を引き起こすかどうかは、長い間未解決の問題だった」と認めた。「我々はこの問題に正面から取り組むつもりだ」と述べ、規制ガイダンスを策定する意向を明らかにした。
「ソフトウェア提供者」の定義が焦点
DeFiの核心的な課題は、誰が規制の対象となる「事業者」なのかという点だ。伝統的な金融では、サービスを運営する企業が明確に存在する。しかしDeFiでは、コードが公開され、誰でも利用できる自律的なプロトコルが多く、開発者チームが直接サービスを「運営」しているとは言い難い場合がある。
CFTCが「ソフトウェア提供者」という言葉を使った背景には、この難しさがある。単にコードを書いた開発者なのか、プロトコルのアップグレードを管理する分散型自治組織(DAO)なのか、あるいは流動性を提供するユーザーなのか、線引きが極めて複雑だ。
業界の懸念と期待
DeFi業界はこれまで、規制の不確実性に悩まされてきた。明確なルールがないため、米国でのサービス提供を断念したり、開発チームが匿名のまま活動せざるを得ないケースもあった。
一方で、過度に厳格な規制が、イノベーションの芽を摘むことへの懸念も強い。ガイダンスが、伝統的な金融規制をそのままDeFiに適用する内容であれば、多くのプロトコルが存続できなくなる可能性がある。CFTCが技術の特性を理解した上で、実現可能なコンプライアンスの道筋を示せるかが注目される。
暗号資産デリバティブとAI取引の新たな枠組み

CFTCは、暗号資産の現物取引にレバレッジをかける商品や、パーペチュアル(永久)先物などのデリバティブ商品の規制見直しも進めている。これらの商品は世界的に主要な取引対象だが、米国では規制のグレーゾーンで運用されてきた経緯がある。
セリグ議長は、前代議長のキャロライン・ファムが開始した「現物引渡し」基準に関する古いガイダンスの見直し作業を継続すると表明した。この基準は、商品が実際に引き渡される取引を規制対象外とするものだ。暗号資産のレバレッジ取引がこの基準に適合するかどうかが焦点となる。
パーペチュアル先物の位置付け
特に注目されるのが、パーペチュアル先物の扱いだ。これは決済日がなく、永久に保有できる先物契約で、暗号資産市場で最も流動性の高い商品の一つである。しかし、その仕組みが伝統的な先物とは異なるため、既存の商品先物取引法にどう適合させるかが課題だった。
セリグ議長は先週、米国におけるパーペチュアル先物取引の道を開く方針を示していた。今回の演説は、その具体的な実行プロセスに入ることを意味する。規制の明確化により、米国内の取引所がこれらの商品を合法かつ安全に提供できる環境が整う可能性がある。
AI駆動の取引システムへの対応
セリグ議長は演説で、人工知能(AI)と自動取引システムの台頭にも言及した。暗号資産市場ではアルゴリズムを活用した高頻度取引や、AIを利用した市場分析が広く普及している。
NEAR共同創設者のイリヤ・ポロスキンは先週、AIエージェントが間もなくブロックチェーンの主要ユーザーになるとの見解を示した。コインベースのブライアン・アームストロングCEOも、人間よりも多くのAIエージェントが取引を行う時代が来るとの見解をXで述べている。
CFTCは、こうした技術的進歩を阻害しない規制枠組みの必要性を認識している。市場の公正性と安定性を維持しつつ、AIを活用した金融イノベーションをどう促すかが今後の検討課題となる。
この記事のポイント
- CFTCのセリグ議長が、DeFi、予測市場、暗号資産デリバティブに関する規制の明確化に向けた具体的な計画を提示した。
- SECとの共同イニシアチブ「プロジェクト・クリプト」を発表し、当局間の縄張り争いの終結と協調的な規制アプローチを約束した。
- 予測市場についてはガイダンス発出と規則制定プロセスを開始し、連邦レベルでの規制枠組み確立に積極的に乗り出す方針を示した。
- DeFi開発者に対する規制ガイダンスを策定する意向を明らかにし、誰が「ソフトウェア提供者」として規制対象となるかという核心的な問題に取り組む。
- 暗号資産パーペチュアル先物の合法化への道筋と、AI駆動取引システムへの対応を含む、技術革新を見据えた規制の必要性を強調した。
出典
- CoinDesk “CFTC chair highlights wide crypto agenda, including rules on DeFi, prediction markets” (2026年3月10日)
- CFTC “Remarks of Chairman Michael Selig at the FIA Global Cleared Markets Conference” (2026年3月10日)
- CoinDesk “CFTC chief Selig to clear path for U.S. perpetual futures in coming weeks” (2026年3月3日)
- CoinDesk “From niche to $3 billion run rate, prediction markets eye $10 billion future, Citizens says” (2026年2月24日)
- CoinDesk “AI agents will be primary users of blockchain, NEAR co-founder says” (2026年3月3日)

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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