米CFTC(商品先物取引委員会)のセリグ委員長は、暗号資産市場構造法案であるCLARITY法が成立しなくても、独自に規制を進める方針を明らかにした。8月20日に開かれたイノベーション諮問委員会の初会合で表明した。
レバレッジ取引の開放や開発者保護策を検討するよう職員に指示済みだという。議会の審議が滞る中、規制当局が自ら動き出す姿勢を示した点で重要な転換点となる。
CFTCが示した独自路線の決意

法案の投票を待ちつつ準備を加速
セリグ委員長は発言の中で、CLARITY法の投票に「息をする余裕」を与えると述べた。ただし民主党が超党派の成果物を支持できず、公正な法案を大統領の机に届けられない場合には、CFTCが迅速に新規則を提案する方針だ。
「議会が動かないなら、トランプ大統領の公約をCFTCが実現する」という趣旨の発言もあった。規制当局が議会の停滞を補完する役割を明確に打ち出した形だ。
なぜ今回の発言が注目を集めるのか
CFTCとSEC(米証券取引委員会)は長らく暗号資産の管轄をめぐって競合してきた。市場構造法案が成立すればこの曖昧さは解消されるが、成立しない場合でもCFTCが単独で動くというシグナルは業界に大きな影響を与える。
特にレバレッジ取引の開放は、これまで米国内で制限されてきたデリバティブ市場の拡大につながる可能性がある。海外取引所に流れていた取引需要を米国市場に取り戻す狙いがあるとの見方もできる。
CLARITY法の行方と上院での攻防

CLARITY法(デジタル資産市場明確化法)は現在、上院での採決が事実上停止している。9月に上院が再開してから、議会多数党院内総務のスーン氏が討論終結の投票を行う見通しだ。
法案の可決には上院で60票が必要となる。可決されれば下院に戻り、その後トランプ大統領の署名を経て成立する。審議にはまだ複数のハードルが残っている。
セリグ委員長の発言の前日、トランプ大統領はホワイトハウスで暗号資産業界のリーダーたちと会合を持った。大統領は「公正なバージョン」のCLARITY法を可決するよう議会に求めた。米国を中国より先行させるためだとしている。
民主党議員の多くは、トランプ家の暗号資産投資に関連する倫理条項の強化を求めている。大統領は2025年に暗号資産投資で14億ドルの収益を得たとされる。トランプ氏は水曜日に「多くの民主党議員がCLARITY法を承認している」と述べたが、60票の壁を越えられるかは不透明だ。
レバレッジ取引と開発者保護の具体策

セリグ委員長は既に職員に対し、登録済みと未登録の事業者の双方が「レバレッジまたは証拠金取引ベースで暗号資産取引を提供できる」ようにする方針を指示した。
これは従来、CFTCに登録したデリバティブ取引所やブローカーのみが扱えた領域を、より広い事業者に開放することを意味する。暗号資産のレバレッジ取引は海外の取引所で広く提供されており、米国ユーザーも多く利用してきた経緯がある。国内で合法化されれば、市場の流れが変わる可能性がある。
開発者保護策についても検討を進めている。これは分散型アプリケーション(dApps)やスマートコントラクトの開発者が、自ら制御できない利用者の行為によって法的責任を負わされるリスクを軽減するものだ。
オープンソースのコードを公開した開発者が、そのコードを悪用した第三者による被害の責任を問われる事例が増えている。CFTCが保護策を明示すれば、米国内での開発活動が活発化する効果が期待できる。
SECとの足並み

CFTCの動きはSECの取り組みと並行している。SECは8月18日、デジタル資産規制に関する規則案を公表した。この中には、トークンが「投資契約」として扱われることを回避できるセーフハーバー(安全な避難所)政策や、発行者に対する一定の適用免除が含まれる。
セーフハーバーとは、一定の条件を満たすプロジェクトに対して、証券法上の登録義務を一定期間免除する仕組みだ。新興プロジェクトが法的手続きに時間を取られることなく事業を立ち上げやすくなる。
両機関が同時期に規制の方向性を示したのは偶然ではない。いずれも議会での法案成立が遅れることを前提に、行政の権限でできる範囲を最大限に活用しようとしている。
この動きは、暗号資産業界にとっては二重の意味を持つ。一方では規制の明確化が進む。しかし他方では議会ではなく行政機関の裁量が強まるため、政権交代や人事異動で方針が変わるリスクも残る。
予測市場をめぐる管轄権争い

同日の委員会では人工知能(AI)と予測市場に関する議論も行われた。CFTCはセリグ委員長の下で、予測市場に対する「独占的管轄権」を主張している。予測市場のイベント契約(特定の結果に賭ける契約)が「スワップ」に該当するという理屈だ。
スワップとは、将来の価格変動や事象の発生に応じて金銭を交換するデリバティブ契約の一種である。CFTCはこの定義を広く解釈し、予測市場を自らの監督下に置こうとしている。
この立場をめぐり、CFTCは州当局と対立している。企業カルシ(Kalshi)やポリマーケット(Polymarket)などの予測市場プラットフォームを巡り、CFTCは州当局を相手に訴訟を起こすよう指示した。
予測市場は暗号資産と親和性が高く、ポリマーケットはブロックチェーン上で運営されている。CFTCが独占管轄権を確立すれば、連邦レベルで予測市場の解禁が進む可能性がある。
この記事のポイント
- CFTCのセリグ委員長は、CLARITY法が成立しなくても独自に暗号資産規制を進める方針を表明した
- レバレッジ取引の開放と開発者保護策の検討を職員に指示済みだ
- CLARITY法は上院で60票が必要だが、民主党の倫理条項要求で採決は不透明な情勢にある
- SECもセーフハーバー政策を含む規則案を公表しており、両機関が並行して動いている
- 予測市場の管轄権をめぐる州当局との訴訟も進行中だ

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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