CircleがArcブロックチェーンを始動。USDC超えを狙う経済OSとは

米ステーブルコイン大手Circleが9月17日、新しいブロックチェーン「Arc(アーク)」を正式にローンチした。創業者兼CEOのジェレミー・アレール氏は、このArcを「同社史上最も重要なプラットフォームであり、USDCのローンチよりも重大だ」と位置づけている。

Arcは決済、トークン化された金融市場、融資、取引、さらにはAIエージェント間の商取引までを見据えた「経済オペレーティングシステム」として設計された。ブラックロック、マスターカード、Visa、BNY、HSBCなど100以上の機関が参加または検討段階にあるという。

この記事では、Arcの仕組みとその背景にあるステーブルコイン市場の競争激化、そしてCircleが描く次の成長戦略について解説する。

CircleがArcブロックチェーンを始動

CircleがArcブロックチェーンを始動

Circleはこれまで、740億ドル規模のステーブルコインUSDCを発行し、複数のブロックチェーン上に流通させる戦略を取ってきた。今回のArcは、そのUSDC発行事業を超えて、金融資産をオンチェーンに移すための基盤そのものを自社で提供するという大きな転換点になる。

アレール氏は記者会見で「これは当社の歴史上、最も重大なメジャープラットフォームのローンチだ。USDC自体のローンチよりもさらに重大だと信じている」と述べた。Arcが単なるサイドプロジェクトではなく、Circleの企業戦略における中心軸になるという意思表示だ。

ウォール街の大手がバリデーターに名を連ねる

Arcの創設バリデーターには、ブラックロック、DTCC(米証券保管振替機関)、インターコンチネンタル取引所、マスターカード、スタンダードチャータード、Visaといった名だたる金融機関が並ぶ。さらにBNY、HSBC、ステート・ストリートなどが、ネットワーク上で稼働中または参加を検討している100以上の機関やエコシステム企業に含まれる。

この顔ぶれは、既存の暗号資産ネイティブなチェーンとは一線を画す。伝統的金融の主要プレイヤーが最初から参加している点がArcの最大の特徴の一つだ。取引所機能としてはUniswapとAerodromeが参加し、融資市場はAaveとMorphoが提供する。Circleのトークン化マネーマーケットファンド「USYC」やブラックロックの「BUIDL」もネットワークに登場する予定だ。

Arcの設計思想と技術的特徴

Arcの設計思想と技術的特徴

Arcは、既存のブロックチェーンを伝統的金融機関が使いにくいと感じてきた障壁を取り除くことを設計の中心に据えている。その一つが、プライバシーだ。

金融機関は取引データを外部に公開することを避けたがる。Arcは、監査人や規制当局のアクセス権を保持しつつ、取引データを隠せる「設定可能なプライバシー」機能を開発中だ。要するに、必要な人には見せつつ、不要な人には隠す仕組みである。

手数料はUSDCで支払う。変動性の高いネイティブトークンは不要

Arcの取引手数料は、価格が変動しやすい独自トークンではなく、米ドルに連動するステーブルコインUSDCで支払われる。ファイナリティ(取引の最終確定)は1秒未満で、バリデーターは許可制のセットが使われている。

この設計についてアレール氏は、企業がネットワークを使うためにネイティブトークンを保有しなければならない状況を「Netflixを使うためにAmazonの株を買ってAWSの請求書を払うようなものだ」と例えた。「それは狂っている」と言い切っている。企業が利用しやすい経済設計を優先したわけだ。

Circleの決済ネットワークであるCircle Payments Networkも、24時間365日のクロスカレンシー決済を可能にする外国為替プラットフォーム「StableFX」とともにArcへ直接統合される。これにより、法定通貨とデジタル資産の間の決済レールを一つのチェーン上で完結させられる構想だ。

ステーブルコイン競争の中でのArc

ステーブルコイン競争の中でのArc

ステーブルコイン市場は急速に混戦模様を呈している。バンク・オブ・アメリカ、シティ、ゴールドマン・サックスを含む21の金融機関グループが2027年前半にドル建てステーブルコインの発行を準備している。欧州の銀行連合Qivalisはユーロ建てトークンの開発を進めている。

決済大手Stripeも、Paradigmと共同で育成した決済特化型ブロックチェーン「Tempo」と、ステーブルコイン「Open USD」で暗号資産分野への進出を深めている。Circleの主力事業であるUSDCの牙城は、多方面から攻め込まれている状況だ。

そうした中でCircleが選んだ戦略は、ステーブルコインそのものの競争から一歩踏み出し、金融資産全体が動く「レール」を提供する立場を確立することだ。アレール氏はArcを「資産発行者の標準的な拠点」と表現した。ファンド、株式、コモディティ、通貨などをArc上で発行し、Circleの相互運用インフラを通じて他のブロックチェーンエコシステムへ展開できるようにする構想である。

Googleモデルとの類似性

アレール氏はこの戦略を、Googleが自社プラットフォームを運営しながら、GmailやYouTubeなどの製品をライバルシステム上でも提供し続ける姿勢になぞらえた。

「われわれは、構築するデジタル資産とアプリを世界で最も人気のあるプラットフォームやネットワーク上で広く利用可能にすることにコミットしている」と述べている。つまり、USDCを引き続き他のチェーンでも提供しつつ、自社チェーンArcで金融活動の中心地を目指すという二正面作戦だ。

ただし、ArcはCircleにとって単なる防衛策ではない。アレール氏はArcを「新しい事業」と呼び、金融活動がオンチェーンに移行する中で「リーディングプラットフォーム、少なくともその一角になる」ことを目指すと明言している。

ARCトークンと今後の展開

ARCトークンと今後の展開

Arcには「ARC」という独自トークンが存在する。Circleは今週、初期供給量の全額にあたる100億ARCトークンのジェネシス発行(最初の発行)を完了したと発表した。ただしアレール氏は、トークンはまだ一般公開されておらず、今回の発行が公開ローンチへのコミットメントを意味するものではないと強調している。

ネットワークは現在、権限証明(PoA)方式で運用されている。Circleは2027年にプルーフ・オブ・ステーク(PoS)方式への移行を検討しており、その場合ARCトークンがセキュリティ、ガバナンス、ユーティリティの役割を担う可能性がある。ネットワーク手数料は引き続きUSDCで支払われる設計だ。

PoAとは、特定の承認された主体だけが取引の検証を担当する仕組み。PoSは、トークンを保有してネットワークに預けることで誰でも検証に参加できる仕組みを指す。PoSへの移行は、ネットワークの分散化を進める一方で、ARCトークンに実用的な価値を与える可能性を秘めている。

トークンセールで既に2億2200万ドルを調達

Circleは2026年5月、Arcブロックチェーンのトークンセールで2億2200万ドルを調達した。評価額はネットワーク全体で30億ドルとされた。投資家にはアポロ・ファンズ、ARKインベスト、ブラックロック、そしてCoinDeskの親会社であるBullishが名を連ねた。

この資金調達は、Arcが単なる技術発表ではなく、既に大規模な資本を集める段階に進んでいることを示している。大手金融機関がバリデーターとして参加し、トークンセールにも投資しているという構図は、Arcが伝統的金融と暗号資産の橋渡し役として期待されている証左だ。

この記事のポイント

  • Circleが新しいブロックチェーンArcを正式にローンチ。USDCを超える「経済オペレーティングシステム」を目指す
  • ブラックロック、Visa、マスターカードなど100以上の機関が参加または検討中
  • 取引手数料はUSDCで支払われ、変動性の高いネイティブトークンへの依存を避ける設計
  • ARCトークンは100億枚が発行済みだが一般公開されておらず、2027年のPoS移行で役割が付与される可能性
  • 銀行や決済大手のステーブルコイン参入が進む中、Circleは自社チェーンで金融資産全体の基盤を狙う
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