CLARITY ActはDeFi開発者の盾か罠か?ルミス議員が「史上最強の保護」を強調

米国で審議が進む「CLARITY Act(デジタル資産市場透明性法)」を巡り、暗号資産(仮想通貨)業界の保護と規制の境界線が大きな議論を呼んでいる。この法案はステーブルコインの規制枠組みを構築するものだが、その裏側にある「開発者の保護」が十分かどうかが焦点だ。

推進派の筆頭であるシンシア・ルミス上院議員は、最新の修正によってDeFi(分散型金融)開発者に対する「史上最強の保護」が実現したと主張する。一方で、法的な専門家からは依然として開発者が不当な法的責任を負わされるリスクを懸念する声が上がっている。

なぜ一つの法案がこれほどまでに注目されるのか。それは、この法案の行方が「コードを書くだけの開発者が犯罪者になり得るか」という、クリプト業界の根幹に関わる問題を左右するためだ。

CLARITY Actの核心——DeFi開発者は守られるのか

CLARITY Actの核心——DeFi開発者は守られるのか

シンシア・ルミス上院議員は2026年3月27日、自身のSNSでCLARITY Actに対する批判を真っ向から否定した。記事によれば、ルミス氏は「この法案がDeFiのイノベーターを法的責任から守れないという主張は誤りだ」と述べ、最近の修正によってDeFiと開発者にとってこれまでで最も強力な保護が提供されるようになったと強調している。

ビットコインが66,500ドル台、イーサリアムが2,000ドル付近で推移する中、市場はこの法案がDeFiエコシステムに与える影響を注視している。ルミス氏の強気な発言は、法案の第3章(Title 3)に関する修正が、超党派の合意に基づいて進められたことを示唆するものだ。

専門家チェルビンスキー氏の懸念

しかし、著名な暗号資産弁護士であるジェイク・チェルビンスキー氏は、ルミス氏の楽観的な見方に異議を唱えている。チェルビンスキー氏によれば、現在の草案の第3章には、非カストディアル型のソフトウェア開発者を「送金業者」として扱うリスクが依然として残っているという。

非カストディアルとは、ユーザーの資産を直接管理(預託)しない形式を指す。つまり、開発者がコードを提供しただけで、ユーザーの資産移動に直接関与していない場合でも、銀行と同じようなKYC(本人確認)義務を課される可能性があるということだ。チェルビンスキー氏は、これが「DeFiにとって譲れない一線」であると指摘している。

「史上最強の保護」の根拠

ルミス氏はこうした批判に対し、「FUD(恐怖・不確実性・疑惑)を信じるな」と一蹴した。同氏の主張によれば、CLARITY Actを通過させることこそが、BRCA(ブロックチェーン規制確実性法)に定められた保護機能を有効にする唯一の道だという。

BRCAは、ユーザーの資産を管理しない開発者やサービス提供者を「金融機関」として扱わないことを明文化する法律だ。CLARITY Actの第604条にはこのBRCAの内容が組み込まれており、ルミス氏はこれが開発者にとっての防波堤になると考えている。

開発者を襲う「送金業者」扱いのリスク

開発者を襲う「送金業者」扱いのリスク

なぜ開発者が「送金業者(Money Transmitter)」と見なされることがこれほど問題視されるのか。それは、送金業者に分類されると、BSA(銀行秘密法)に基づき、利用者の個人情報を収集し、不審な取引を報告する義務が生じるからだ。これは分散型で匿名性の高いDeFiの仕組みとは根本的に相容れない。

チェルビンスキー氏が懸念するのは、法案内の「送金業者」の定義が曖昧なままだと、当局が意図的に法を解釈し、開発者を追い詰めることができる点だ。一度定義されてしまえば、開発者は自分の書いたコードが誰にどう使われるかをすべて把握しなければならなくなり、現実的に開発を継続することは不可能になる。

トルネード・キャッシュ事件の影

この議論の背景には、ミキシングサービス「Tornado Cash(トルネード・キャッシュ)」の開発者であるローマン・ストーム氏の有罪判決がある。ストーム氏は2025年8月、無許可の送金事業を運営した共謀罪などで有罪となった。この事件は、「コードを書いただけの開発者が、そのツールを悪用したユーザーの責任を問われる」という前例を作ってしまった。

業界はこの判決に震撼し、法的な明確化を強く求めている。CLARITY Actがこの問題を解決する救世主になるのか、あるいは定義の曖昧さを残したまま「送金業者」の網を広げる罠になるのか、専門家の間でも意見が分かれているのが現状だ。

非カストディアルの定義をめぐる攻防

非カストディアル型のソフトウェアは、いわば「道具」に過ぎない。包丁を作ったメーカーが、その包丁で起きた事件の責任を問われないのと同様に、暗号資産の世界でも「コードの提供」と「資産の管理」は明確に区別されるべきだと業界は主張している。

ルミス氏が推進するCLARITY Actの修正版では、この「管理(Control)」の有無が重要な焦点となっている。管理権限を持たない開発者が規制の対象外となることが明確に条文に刻まれるかどうかが、DeFiの未来を分ける境界線となるだろう。

ステーブルコイン規制と利回り問題の影で

ステーブルコイン規制と利回り問題の影で

CLARITY Actの本来の主旨は、ステーブルコインの健全な発行と運営を規定することにある。特に最近では、ステーブルコインの保有者に利回り(リワード)を還元する仕組みをどう規制するかが、政治的な議論の中心となっていた。

チェルビンスキー氏によれば、この「利回り」に関する議論があまりに激しかったため、開発者保護というさらに重要な問題が影に隠れてしまったという。ステーブルコインの利回りは投資家にとっての関心事だが、開発者保護は技術そのものの存続に関わる問題だ。

超党派での修正作業と今後のスケジュール

ルミス氏は、過去数週間にわたって民主党・共和党の両陣営が協力し、法案の修正を行ってきたと述べている。この「超党派の協力」は、法案が成立する可能性を高める重要な要素だ。記事によれば、上院銀行委員会による法案の検討(マークアップ)は2026年4月に行われる見通しとなっている。

このマークアップの段階で、非公開とされている最新の修正案が公開されることになる。そこでチェルビンスキー氏らが懸念する「送金業者」の定義がどう書き換えられたのか、業界全体がその一字一句を精査することになるだろう。

市場への影響とアルトコインの動向

規制の進展は、ビットコイン以外のアルトコインにも影響を与えている。ソラナ(SOL)は83.61ドル、エイダ(ADA)は0.24ドル付近で取引されており、規制の明確化が市場の安定につながるとの期待もある。一方で、過度な規制はイノベーションを国外へ流出させるリスクも孕んでいる。

独自分析:米国クリプト規制の分岐点

独自分析:米国クリプト規制の分岐点

今回のルミス議員とチェルビンスキー氏の論争は、単なる法解釈の違いではない。これは「ソフトウェア開発は言論の自由か、それとも金融行為か」という、米国憲法にも関わる深い対立を反映している。

筆者の見解としては、ルミス氏が「史上最強の保護」と呼ぶ背景には、政治的な妥協点を見出したという自信があるのだろう。しかし、法執行機関(SECや司法省)がこれまでに見せてきた強引な法解釈を考えると、チェルビンスキー氏のように「解釈の余地を一切残さない明確な文言」を求める姿勢こそが、開発者の命綱になると言える。

特にトルネード・キャッシュの事例以降、開発者コミュニティには「米国でコードを書くことのリスク」が強く意識されている。CLARITY Actがこの不安を払拭できなければ、米国のDeFiイノベーションは停滞し、規制の緩やかな他国へと拠点が移る「デジタル・ドレイン」が加速するだろう。4月のマークアップで公開される条文が、その流れを止めるものになるかどうかが最大の焦点だ。

この記事のポイント

  • ルミス議員はCLARITY Actの修正により「DeFi開発者の最強の保護」が実現したと主張
  • 専門家チェルビンスキー氏は、開発者が「送金業者」と誤認されるリスクが残っていると懸念
  • 法案の第3章にある送金業者の定義が、DeFiの存続を左右する最大の争点となっている
  • トルネード・キャッシュ開発者の有罪判決を受け、業界は「コード提供」への免責を強く要求
  • 2026年4月の上院銀行委員会でのマークアップにより、修正案の全貌が明らかになる予定

出典

  • Cointelegraph「Lummis says CLARITY Act will deliver ‘strongest’ developer protections」(2026年3月28日)
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