米上院安定法案草案、ステーブルコインの受動的残高への報酬を禁止

米国上院で審議中の包括的な暗号資産規制法案「デジタル資産市場明確化法(クラリティ法)」の最新草案が明らかになった。その内容は、ステーブルコイン保有者が単に残高を保有するだけで得られる「利子に相当する報酬」を明確に禁止するものだ。

CoinDeskが入手した草案によれば、活動ベースの報酬は認められるが、受動的な保有に対する報酬は禁止される。この規制案は、伝統的な銀行業界からの強い圧力を受けて作成されたもので、暗号資産業界、特にステーブルコイン関連サービスを展開する企業にとって大きな打撃となる可能性がある。

草案の詳細が判明した3月24日、ステーブルコイン大手サークルの株価は19%急落、取引所コインベースの株価も8%下落した。市場は、ステーブルコイン関連収益に依存する企業の将来に懸念を強めている。

草案が禁止する「利子的報酬」とは

草案が禁止する「利子的報酬」とは

最新の草案は、共和党のトム・ティリス上院議員と民主党のアンジェラ・オルソブロークス上院議員によって交渉された。その核心は、ステーブルコインの「利子的報酬」に対する規制にある。

「経済的に利子と同等」な構造の禁止

草案は、単にステーブルコインを保有するだけで得られる報酬、および銀行預金と経済的に同等と見なされるあらゆる構造を禁止する。これは、ユーザーがウォレットにUSDTやUSDCを保有しているだけで自動的に利子が付与されるようなサービスを想定している。

規制の対象はステーブルコインの発行者に限られない。第三者のプラットフォームが提供する報酬プログラムも、「経済的に利子と同等」と判断されれば禁止の対象となる可能性がある。この曖昧な表現が、業界関係者の懸念を呼んでいる。

認められる「活動ベースの報酬」

一方で、草案は特定の活動に紐付いた報酬を認めている。具体例として、ロイヤルティプログラム、プロモーション、サブスクリプション、取引活動、プラットフォームの利用などが挙げられている。

しかし、どのような活動が「有効」と判断されるのか、そのメカニズムは依然として不透明だ。例えば、取引所が「取引量に応じて報酬を付与する」プログラムを提供する場合、それが単なる利子の代替手段と見なされるかどうかは、規制当局の解釈次第となる。

業界の反応とコインベースの立場

この草案に対する業界の初期反応は、規制が「過度に狭く、不明確」だというものだった。コインベースのブライアン・アームストロングCEOは、今年1月に利子制限を理由にクラリティ法への支持を撤回しており、上院銀行委員会の審議を延期させる一因となっていた。

アームストロングCEOは最新草案についてまだコメントしていない。コインベースにとってステーブルコイン関連収益は重要で、2025年第3四半期の総収益の約20%を占めていた。Fortuneの報道によれば、この収益源が脅かされる可能性がある。

銀行業界の圧力と6.6兆ドルの試算

銀行業界の圧力と6.6兆ドルの試算

ステーブルコインの報酬問題がクラリティ法の最大の障害となってきた背景には、伝統的な銀行業界の強い反対がある。米国銀行協会を筆頭とする銀行団体は、ステーブルコイン報酬が従来の普通預金口座から資金を流出させる可能性を指摘してきた。

JPモルガン・バンクオブアメリカの警告

JPモルガンやバンクオブアメリカの幹部は、米財務省の調査を引用して警告を発している。CNBCの報道によれば、その調査では、ステーブルコインが規制されていない利子を提供した場合、銀行は最大6.6兆ドルの預金を失う可能性があると試算されていた。

この巨額の数字は、銀行業界が規制強化を求める根拠として繰り返し引用されてきた。銀行側の主張は、ステーブルコインが実質的に銀行預金と同じ機能を持ちながら、より厳格な規制の枠組みの外で運営されているという点にある。

GENIUS法の「抜け穴」とその行方

2025年7月に法律として成立したGENIUS法(安定したデジタル資産の成長とイノベーションのための米国法)は、ステーブルコイン発行者が保有者に直接利子を支払うことを禁止した。しかし、第三者のプラットフォームが報酬を提供することを妨げるものではなかった。

The Defiantが以前報じたように、専門家はこの「抜け穴」が主要な規制の戦場になると警告していた。今回のクラリティ法草案は、まさにこの抜け穴を塞ぐことを目的としている。第三者が提供する報酬プログラムも、「経済的に利子と同等」と判断されれば規制の対象となる。

法案成立への道筋と市場の予測

法案成立への道筋と市場の予測

今回の合意は、上院銀行委員会による法案審議(マークアップ)の主要な障害を取り除いた。マークアップはイースター休会後の4月下旬を暫定的な目標としている。上院院内総務のジョン・スーン議員は今月初め、それ以前の法案成立は困難との見解を示していた。

複雑な立法プロセス

クラリティ法が成立するには、いくつかのハードルを越える必要がある。まず上院銀行委員会での可決、その後上院本会議での60票以上の賛成票が必要だ。さらに、2025年1月に可決された上院農業委員会版との調整、2025年7月に下院で294対134で可決された下院版との調整を経なければならない。最後に大統領の署名を得て初めて法律となる。

予測市場が示す成立確率

予測市場プラットフォームのPolymarketは、クラリティ法が2026年中に法律として署名される確率を約63%と評価している。これは、成立への道筋が依然として不確実であることを示している。

政治的な駆け引き、委員会間の調整、そして銀行業界と暗号資産業界の激しいロビー活動が、今後の立法プロセスを左右する主要な要素となる。

ステーブルコイン市場への影響分析

ステーブルコイン市場への影響分析

この規制案が市場に与える影響は多岐にわたる。単なる利子的報酬が禁止されることで、ステーブルコインの利用ケースや収益モデルが根本から変わる可能性がある。

DeFiエコシステムへの波及効果

分散型金融(DeFi)プロトコルは、ステーブルコインを担保としたレンディングや流動性提供によって高い利回りを実現してきた。草案が「経済的に利子と同等」な構造を広く禁止する場合、これらのDeFiプロトコルのビジネスモデルに直接的な影響を与える可能性がある。

ただし、DeFiプロトコルが「活動ベース」の報酬と主張できるかどうかは、規制当局の解釈と執行の厳格さに依存する。プロトコルが完全に分散化されており、発行者が存在しない場合、規制の適用が技術的に困難であるという問題も残る。

競争環境の変化とイノベーションへの影響

規制案は、銀行と暗号資産企業の競争条件を事実上均一化する。ステーブルコインが銀行預金と同じような報酬を提供できなくなることで、銀行側の懸念は一定程度解消される。

一方で、暗号資産業界からは、イノベーションが阻害され、米国が暗号資産分野での競争力を失うとの懸念の声が上がっている。企業は「活動ベースの報酬」という枠組みの中で新たな製品やサービスを設計することを迫られる。

この記事のポイント

  • 米上院クラリティ法草案は、ステーブルコインの受動的残高への利子的報酬を禁止。活動ベースの報酬のみを許可する。
  • 規制の背景には、銀行預金の流出を懸念する伝統的金融業界の強い圧力がある。損失は最大6.6兆ドルとの試算も。
  • コインベースはステーブルコイン関連収益の約20%が脅威に。同社株は草案判明後8%下落。
  • 法案成立には上院・下院の調整など複数のハードルが残る。予測市場の成立確率は約63%。
  • DeFiを含む暗号資産業界の収益モデルに大きな影響を与える可能性がある。

出典

  • The Defiant “Latest Clarity Act Draft Bans Rewards on Passive Stablecoin Balances” (2026年3月24日)
  • CoinDesk “Stablecoin Yield in Crypto Clarity Act Won’t Allow Rewards on Balances, Latest Text Says” (2026年3月23日)
  • CNBC “Trump, Crypto, Banks, Stablecoin Yield” (2026年3月4日)
  • Fortune “Coinbase and Andreessen Horowitz Clarity Act” (2026年1月21日)
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