ビットコインハードウェアウォレット「Coldcard」の開発元Coinkiteが、全ユーザーに対して緊急の資産移動を呼びかけた。
2026年8月4日、同社は特定のファームウェアに2021年から潜んでいた脆弱性が現在も悪用され続けており、すでに最大1億1,400万ドル相当のビットコインが盗み出されたことを確認した。
ハードウェアウォレットの信頼性を揺るがすこのインシデントは、暗号資産の自己管理(セルフカストディ)の安全性そのものに一石を投じている。影響範囲とユーザーが取るべき対策を詳しく見ていく。
最大1.1億ドルが消失、現在も進行中の攻撃

今回の脆弱性で被害を受けたのは、Coldcardウォレットを使ってビットコインを自己管理していたユーザーだ。攻撃者は2021年以降にリリースされた特定のファームウェアに潜む欠陥を突き、本来は推測不可能なはずのウォレットの「種(シード)」を割り出した。
被害規模と攻撃の経緯
CoinDeskの8月4日付の報道によれば、Galaxy Researchの集計では709件のアドレスから約449BTCが同日だけで抜き取られ、累計被害額は約8,900万ドルから最大1億1,400万ドルに膨れ上がった。攻撃は単発ではなく、波状的に繰り返されている点が特徴だ。
攻撃の手口は物理的なハッキングではない。ウォレットのマスターキーにあたるシードが、十分なランダム性(エントロピー)を持たずに生成されていたケースで、攻撃者がそのパターンを推測し、遠隔から資産を抜き取るというものだ。
ウォレットを危険に晒す「エントロピー不足」の深刻度

一般に、暗号資産ウォレットの安全性は「シード」と呼ばれる秘密のフレーズに依存している。このシードが推測されれば、第三者がウォレットを完全に制御できてしまう。では、なぜ今回のColdcardでシードが推測可能になったのか。鍵を握るのは「エントロピー」という概念だ。
エントロピーとは何か
エントロピーは「乱雑さ」「不規則性」を意味する。暗号資産の文脈では、シードを生成する際に使われる「でたらめさ」の度合いを指す。たとえば、サイコロを100回振って出た目を記録すれば、非常に予測困難な数列が手に入る。これが高エントロピーだ。
一方、乱数生成に偏りがあったり、不十分なアルゴリズムを使ったりすると、生成されるシードにパターンが生まれる。このエントロピー不足の状態では、理論上、総当たり的な計算によってシードを再現できる可能性が出てくるのだ。
Coldcardで何が起きていたのか
Coinkiteの説明によると、問題のコードは2021年からファームウェアに存在していた。通常、ウォレットは安全なハードウェア内部でシードを生成するが、特定の条件下で「信頼できないソフトウェアベースの乱数源」に頼ってしまう経路があった。要は、肝心の乱数生成が安全な場所で行われていなかったというわけだ。
ただし、すべてのユーザーが影響を受けるわけではない。後述する特定の条件を満たすユーザーのみがリスクに晒されている。ユーザー自身が今すぐ確認すべきポイントを次のセクションで整理する。
影響範囲と「安全なウォレット」の条件

Coinkiteの公式発表に基づき、影響を受けるデバイスとファームウェアの組み合わせを明確に示す。自分のウォレットが該当するかどうか、以下の条件で判断できる。
リスクがあるウォレット
- Mk3(2019年モデル)で、ファームウェア4.0.1以降を使用してウォレットをセットアップした場合
- Mk4、Mk5、Qで、ファームウェアが5.6.0未満または1.5.0Q未満の場合
これらの条件に当てはまり、かつ「ダイス(サイコロ)オプション」を使わずにウォレットを作成したユーザーは、直ちに資産を別の安全なウォレットに移動させる必要がある。
安全とされるケース
一方で、以下の条件を満たすウォレットは今回の脆弱性の影響を受けない。
- デバイス上で物理的にサイコロを50回以上振り、出た目を手入力してシードを生成した「ダイスオプション」利用ウォレット
- 最新のファームウェア(5.6.0以上または1.5.0Q以上)に更新し、新規にウォレットを作成したもの
ダイスオプションが安全な理由は単純だ。この方式では、デバイス内部の乱数生成機能を一切使わず、物理的なサイコロの出目という「予測不可能な現実世界のランダム性」から直接シードを構築する。つまり、問題のあるコードを経由しないため、攻撃者がシードを推測する術がない。
Coinkiteの緊急警告とユーザーが取るべき3つの手順

Coinkiteは8月4日、X(旧Twitter)上で「この警告を緊急のものとして扱ってほしい。資金を移してほしい」と投稿した。同社はさらに、ネットにあまり接続しないユーザー、つまりこの警告を見逃している可能性がある保有者に周知するよう呼びかけている。そうしたユーザーのウォレットこそが最も危険に晒されているからだ。
脆弱性の修正は自動では行われず、ユーザー自身が手動で対応しなければならない。以下が具体的な手順となる。
手順1:リスク該当の有無を確認
まず、前セクションで示した条件に自分のデバイスが当てはまるかを確認する。ファームウェアのバージョンはデバイス起動時に表示される。ダイスオプションを使ってウォレットを作成した記憶があれば、今回のリスクからは外れている可能性が高い。
手順2:該当する場合、直ちに資産を移動
リスク該当が判明したら、新しい安全なウォレットにビットコインを送金する。移動先としては、最新ファームウェアに更新した別のColdcardで新規作成したウォレットや、今回の脆弱性の影響を受けていない他社製ハードウェアウォレットが考えられる。
ビットコインは記事執筆時点で63,800ドル付近で取引されており、警告発表後も相場に大きな変動は見られない。しかし、個々のウォレットの中身がいつ攻撃者の標的になるかは誰にもわからない。対応は一刻を争う。
手順3:最新ファームウェアへ更新し、新規ウォレットを作成
Mk4、Mk5、Qのユーザーは、まずファームウェアを5.6.0または1.5.0Q以上にアップデートする。その後、新しくウォレットを作成し直し、旧ウォレットからビットコインを移動させる。このとき、新ウォレットの作成にはダイスオプションの利用も推奨されている。
Mk3ユーザーについては、現時点で脆弱性を修正するファームウェアアップデートの提供が明示されていないため、資産の移動を最優先すべき状況だ。
業界関係者の反応とセルフカストディの今後

今回のインシデントは、ビットコインコミュニティで長年支持されてきた「セルフカストディ(自己管理)」の信頼性を揺るがす出来事として受け止められている。しかし、競合するハードウェアウォレットメーカーLedgerのサイバーセキュリティ専門家は異なる視点を提供している。
「実装の問題であり、自己管理の敗北ではない」
Ledgerのサイバーセキュリティ専門家Vincent Bouzon氏はCoinDeskに対し、今回の脆弱性は「特定の実装における失敗」であり、セルフカストディという考え方そのものを否定する材料にはならないと指摘した。
Bouzon氏は「すべてのウォレットは最終的に、高品質のエントロピーから生成されたルートシークレット(根本的な秘密情報)に依存している」と述べ、その生成プロセスは「安全なハードウェアに固定されており、信頼できないソフトウェアベースの情報源に黙って格下げされることのないアーキテクチャでなければならない」と強調した。
代替手段のリスク比較
Bouzon氏はさらに、今回の件を受けてユーザーが取り得る他の選択肢についても厳しい評価を示している。安全でないハードウェア上で動作するソフトウェアウォレットはさらにリスクが高く、中央集権的な取引所に資産を預けることは「所有権ではなく、単なる借用書(IOU)に過ぎない」と断じた。
この見解は重要だ。Coldcardの脆弱性は確かに深刻だが、適切に設計されたハードウェアウォレットと正しいセットアップ手順を組み合わせれば、セルフカストディは依然として最も安全な資産管理方法の一つであることに変わりはない。問題の本質は「自己管理か取引所か」という二者択一ではなく、「どのように乱数を生成するか」という技術的な実装の質にある。
この記事のポイント
- Coldcardの特定ファームウェアに2021年から潜む脆弱性が現在も悪用され、累計1億1,400万ドル相当のビットコインが盗まれている
- 原因はエントロピー不足、すなわちシード生成時の乱数の質が不十分で攻撃者に推測されたことにある
- Mk3(FW 4.0.1以降)、Mk4/Mk5/Q(FW 5.6.0未満)でダイスオプション未使用のユーザーは直ちに資産移動が必要
- 専門家は今回の件を「実装の失敗」と位置づけ、セルフカストディそのものの否定には当たらないと指摘している

暗号資産とブロックチェーンの可能性を追求するエミリー。
暗号資産投資、DeFi、NFT、WEB3、メタバースといった最先端分野を深く理解し、「エミリーズ・クリプト・インサイダー」を運営。
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