Cronosが異例のロールバック実行、Tectonic攻撃で1.2億ドルの92%回収

Cronosブロックチェーンは、レンディングプラットフォームTectonicで起きた大規模攻撃に対処するため、約2時間分のチェーン履歴を巻き戻すという異例の決断を下した。バリデーターの合意によって確定済みのはずのトランザクションが取り消された出来事であり、ブロックチェーンの「最終性」をめぐる議論に一石を投じている。

監査後の報告書によると、攻撃による影響額は当初の想定を上回る1億2,040万ドルだった。バリデーターはロールバックを実行して1億1,120万ドルを回収したが、ネットワーク停止前に流出した919万ドルは攻撃者の手に渡ったままである。

この記事では、何が起きたのか、なぜロールバックが実行されたのか、そしてこれがブロックチェーン業界全体に何を問いかけるのかを整理する。

攻撃の全容、TONIC価格を約100倍に膨張させた手口

攻撃の全容、TONIC価格を約100倍に膨張させた手口

Cronosが公開した事後報告によると、攻撃者はTectonicのネイティブトークンであるTONICの価格を、極めて薄いDEX流動性の中で約100倍に膨張させた。これは数分のうちに実行されたという。価格が人為的に吊り上げられたTONICを担保として、攻撃者はわずか1回のトランザクションで9つのマーケットから1億2,040万ドルを借り入れた。

TONICの流動性が薄い状況下では、比較的小規模な資金でも価格が大きく動きやすい。攻撃者はその隙を突いて担保価値を水増しし、実際の価値とかけ離れた額を借り出すことに成功した格好だ。

バリデーターは攻撃の約2時間後にネットワークを停止し、最終的に不審な動きが始まる直前のブロックまでチェーンを復元した。ブロック生成は攻撃から約11時間後に再開されている。

ロールバックのコスト、無関係な取引もすべて巻き戻された

ロールバックのコスト、無関係な取引もすべて巻き戻された

今回のロールバックは、1時間54分にわたるチェーン履歴、10,961ブロックを逆戻しするものだった。この時間枠に含まれるすべてのトランザクションが、攻撃に関係するか否かを問わず取り消された。攻撃とは無関係のユーザーによる取引やスマートコントラクトの実行も、なかったことにされたのである。

Cronosはこの混乱を認識しており、取引再開時にライブアプリ上のオープンポジションが再評価されたと説明している。ユーザーや開発者にとっては、自分の取引が後からバリデーターの決定によって消える可能性があるという現実を突きつけられた形だ。

特に影響が深刻なのがブリッジだ。Cronos上の取引を監視して別チェーンに反映させる仕組みは、ロールバックが起きると整合性を失う。Cronos側で「確定」とされた取引が、後から覆される可能性があるためだ。

報告書では「ユーザーがチェーンに期待する最終性と、危険にさらされた資金のバランスを検討し、バリデーターと共に下した難しい決断だった」と振り返っている。代替案は、以前の状態に復元せずにネットワークを再開し、借り出された資産を攻撃者の手に残すことだったという。

「最終性」とは何か、なぜ今回の決断が重要なのか

「最終性」とは何か、なぜ今回の決断が重要なのか

ブロックチェーンにおける「最終性」とは、一度確定したトランザクションが覆らないことを指す。例えばビットコインでは、新しいブロックが積み重なるほど過去の取引が巻き戻される可能性は低くなると考えられている。一方、バリデーター(取引の検証者)の数が限られているチェーンでは、合意が得られれば履歴を書き換えることが理論上可能だ。

Cronosはバリデーター数が最大100に制限されている。この設計は、今回のような緊急時にネットワークを迅速に停止し、再起動するには有利だった。一方で、チェーンの最終性がバリデーターの合意次第で覆り得ることも明確に示した。

分散型の理念からすれば、特定の主体が履歴を書き換えられることは望ましくないという意見が根強い。しかし今回のケースでは、資金回収という実利が優先された。この判断が長期的にCronosの信頼にどう影響するかは未知数だ。

業界に広がるロールバック論争、HarmonyとFlowの対照的な判断

業界に広がるロールバック論争、HarmonyとFlowの対照的な判断

Cronosの決定は孤立したものではない。Harmonyは攻撃者が6回のトランザクションで30億枚以上のONEトークンを偽造した後、同様のロールバック計画を発表している。一方、Flowは2025年12月に390万ドルの攻撃を受けた際、ロールバック案を提示したものの、コミュニティの反発を受けて撤回した。チェーン履歴の書き換えが分散性を損なうというのが反対意見の核心だった。

この議論はイーサリアムにも波及している。2025年、BitMEXの共同創業者アーサー・ヘイズ氏は、Bybitが約14億ドル相当のイーサを失った事件を受けて、イーサリアムのロールバックが可能かどうかをヴィタリック・ブテリン氏に問いかけた。しかしイーサリアムコミュニティは、ブリッジやステーブルコインなど相互接続されたアプリケーションが多数存在する現代のネットワークでは、ロールバックは非現実的だと批判した。

Cronosとイーサリアムの違いは、エコシステムの規模と複雑さにある。Cronosはバリデーター数が少なく、接続されたアプリケーションの数もイーサリアムに比べれば限定的だ。だからこそ迅速な対応が可能だったが、それは同時に、最終性が確立された後でも覆せるという前例を作ってしまった。

DeFiセキュリティへの示唆、価格操作型攻撃の脅威

DeFiセキュリティへの示唆、価格操作型攻撃の脅威

今回の攻撃は、DEXの薄い流動性を突いた価格操作が主な手口だった。これはDeFi(分散型金融)における古典的な脆弱性の一つで、オラクル(外部の価格情報をブロックチェーンに取り込む仕組み)が適切に設計されていない場合に特に起こりやすい。

価格を人為的に操作して担保価値を引き上げる攻撃は、過去にもCompoundやCream Financeなど複数のプロトコルで確認されている。対策としては、複数のオラクルを組み合わせて異常値を検出する仕組みや、担保として使えるトークンの流動性条件を厳格化することが挙げられる。

Tectonicがどのような価格フィードを使用していたのか、今回の事後報告では詳細が明らかにされていない。しかし、1回のトランザクションで9つのマーケットから同時に借り入れられた点から、担保価格の算出に十分な検証が行われていなかった可能性が指摘されている。

この記事のポイント

  • CronosはTectonicへの攻撃を受け、約2時間分のチェーン履歴を巻き戻して1億1,120万ドルを回収した
  • 攻撃者はTONICトークンを約100倍に膨張させ、9つのマーケットから1億2,040万ドルを借り入れた
  • ロールバックにより攻撃とは無関係の取引もすべて取り消され、919万ドルは未回収のままである
  • 今回の対応は、バリデーター合意があればブロックチェーンの最終性が覆り得ることを示した
  • イーサリアムやFlowではロールバックが拒否されており、チェーンごとの思想の違いが鮮明になっている
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