米司法省、Tornado Cash共同創業者ロマン・ストームの訴追棄却請求を却下

暗号資産ミキサーサービス「Tornado Cash」の共同創業者、ロマン・ストームに対する刑事訴追は続く。米司法省は、ストームの弁護団が新たな根拠として提出した最高裁判決を「本件とは無関係」と退けた。

ストームは10億ドルを超える資金洗浄を幇助した疑いで起訴されている。昨年8月、陪審員は「資金送付」の罪で有罪評決を下したが、マネーロンダリングや制裁回避に関するその他の訴因については評決に至らなかった。現在、未解決の2つの訴因について再審が計画されている。

今回の司法省の反論は、暗号資産のプライバシーツール開発者がどこまで法的責任を負うのか、という根本的な問題を改めて浮き彫りにした。コードを書く行為自体と、そのコードが犯罪に利用されることを認識しながら事業を運営する行為の境界線が争点だ。

司法省、最高裁判決の援用を否定

司法省、最高裁判決の援用を否定

米連邦検察官は4月1日、裁判所に書簡を提出した。ストームの弁護団が3月に提出した書簡への反論だ。

弁護団は、連邦最高裁が3月に下したインターネットサービスプロバイダー「Cox」に関する判決を根拠に、ストームへの訴追棄却を求める動議の補強材料として提示していた。この判決では、Coxがユーザーの違法な著作権侵害行為に対して責任を負わないと判断されていた。

弁護団は、この論理がストームのケースにも適用可能だと主張した。Tornado Cashが提供するのは中立な技術インフラであり、ユーザーがその上で行う個別の取引について開発者が責任を負うべきではない、という理屈だ。

しかし司法省は、両者のケースには決定的な違いがあると反論する。検察官が提出した書簡では、最高裁判決は「本件とは無関係」だと断じている。

検察官の主張の核心は、ストームの行為とCoxの行為は「似ても似つかない」という点だ。最高裁は、Coxが著作権侵害を積極的に妨げる措置を講じていたことを認めた。一方、ストームとTornado Cashは、プラットフォーム上の違法活動を防止するための実質的な措置を講じなかった、と検察官は主張する。

「窓飾りに過ぎず」とする検察の主張

検察官は書簡で、ストームの対応を「窓飾りに過ぎず、最悪の場合には完全な誤導だ」と厳しく批判した。

具体的には、被害者からの問い合わせに対し、ストームは「プロトコルをほとんど制御できない」と虚偽の説明をしたと指摘する。検察官によれば、実際にはストームと共謀者は、起訴対象期間中にTornado Cashのインフラに対し250回以上の変更を実施しており、プラットフォーム上の犯罪を抑制する実行可能な措置について明示的に議論しながら、それを実行しなかったという。

「要するに、被告の会社の技術が犯罪に利用されたことに対する反応は、Coxの、既知の侵害に対処するための堅牢で98%効果的なメカニズムとは何ら似ていない」と検察官は結論付けた。

再審は2026年10月の見込み

再審は2026年10月の見込み

今回の書簡の応酬は、検察側が正式に再審を請求した後の動きだ。3月、検察官は陪審員が評決に至らなかった2つの訴因について再審を正式に要求した。

裁判記録によれば、検察側は再審を2026年10月に開始するよう裁判所に提案している。これは、ストームが昨年有罪判決を受けた「資金送付」の罪についての量刑がまだ確定していないことも関係している。

ストームの弁護団は、最高裁判決を新たな論点として提示することで、残る訴因についても訴追そのものを棄却させようと試みている構図だ。しかし司法省の強硬な反論により、この戦略は難しくなった。

業界からの支援とDOJの基本姿勢

ストームのケースはバイデン政権下で始まり、暗号資産業界の多くの支持を集めてきた。イーサリアム共同創業者のヴィタリック・ブテリンもその一人だ。

ブテリンは1月、自身がプライバシーの信奉者であり、ストームが開発したツールを含むプライバシーツールの積極的なユーザーであると表明した。The Blockの記事によると、ブテリンは「利益を得る口実としてこれらの大義を利用し、派手な広告を持つが中身が壊れたソフトウェアを書く他の者たちとは異なり、ロマンのアプリケーションは彼が開発を止めた数年後でも使い続けられた。これだけでも、私の目には彼が現代世界の『消費者向けテック』と称されるものの多くよりも尊敬に値する」と記している。

一方、米司法省刑事局のマシュー・J・ガレオッティ代理局長補は昨年8月、「コードを書くこと自体は犯罪ではない」と述べた。ただし、詐欺、マネーロンダリング、制裁回避などの犯罪を故意に犯したり援助したりする者については、今後も起訴を続ける方針を強調した。

類似サービス運営者の有罪判決が重圧に

類似サービス運営者の有罪判決が重圧に

ストームのケースの行方を考える上で、類似の暗号資産ミキサーサービス「Samourai Wallet」創業者たちの結末は無視できない。

Samourai Walletの共同創業者、ケオンヌ・ロドリゲスとウィリアム・ロナーガン・ヒルは、いずれもマネーロンダリングの罪を認め、現在刑期を服役中だ。検察官は、彼らのサービスが犯罪者に「数百万ドルの汚れた資金を洗浄する」ことを可能にしたと主張した。

ロドリゲスには最高刑の5年、ヒルには4年の実刑判決が下されている。これらの判決は、ミキサーサービスの運営者に対する司法当局の厳しい姿勢を明確に示しており、ストームの再審における検察側の主張を後押しする材料となる。

争点は「認識」と「コントロール」

ストームの裁判の核心的な争点は二つある。一つは、ストームがTornado Cashが犯罪資金の洗浄に利用されていることを「認識」していたかどうか。もう一つは、ストームがプロトコルに対して「実質的なコントロール」を及ぼし得たかどうかだ。

検察官が「250回以上の変更」を強調するのは、ストームにコントロール能力があったことを立証するためだ。もしプロトコルが完全に分散化され、不可逆的に稼働しているのであれば、開発者に責任を問うのは難しい。しかし、開発者が継続的にインフラを変更・管理できるのであれば、それは単なるツールの提供者ではなく、サービス事業者としての責任が生じる、というのが検察の論理だ。

弁護団が依拠するCox判決は、この「コントロール」の度合いが責任の有無を分けるという原則を示した。しかし司法省は、ストームのケースではそのコントロールが犯罪防止に向けられなかったと主張することで、この原則を逆手に取ろうとしている。

この記事のポイント

  • 米司法省は、Tornado Cashのロマン・ストーム弁護団が根拠とした最高裁判決を「本件と無関係」と退け、訴追棄却請求を事実上却下した。
  • 検察は、ストームがプラットフォーム上の犯罪を防止する実質的措置を講じず、むしろ虚偽の説明で誤導したと主張。250回以上のインフラ変更を可能にした「コントロール」能力に焦点を当てる。
  • マネーロンダリング等の未解決訴因2件について、検察は2026年10月開始を目指す再審を正式に請求している。業界の支援を受けるストーム陣営と司法当局の対立は続く。
  • 類似ミキサーサービスSamourai Wallet創業者の有罪判決は、同種事業者に対する司法の厳しい姿勢を示しており、本件の行方に影響を与える可能性がある。
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